iQUAVISを基盤とする仕組みでISO 26262認証を取得
自動車業界向け半導体事業を加速
- ものづくり
年間売上約1.8兆ウォン(約1,800億円)。液晶や有機ELディスプレイを制御するディスプレイドライバーIC市場で世界3位のシェアを誇る韓国の半導体メーカーLX Semicon Co., Ltd.(以下、「LXセミコン」)。同社はこれまでテレビやスマートフォンなど家電向け半導体を中心に成長を続けてきましたが、近年、自動車の電動化・高度化を背景に、自動車向け半導体の開発へと事業をシフトさせています。
この転換期に必須課題となったのが、自動車に搭載される電子システムの安全性を担保する国際規格ISO 26262(機能安全)の認証。自動車業界のサプライヤーにとって、この認証は製品採用の前提条件ともいえます。LXセミコンは2017年にテュフ ラインランド(TÜV Rheinland)より同認証を取得しています。
同社は2021年より半導体設計に電通総研の「iQUAVIS(アイクアビス)」、不具合やテスト情報の管理に豪アトラシアン社の「Jira(ジラ)」が活用されていました。しかし、両システムが別系統で運用されていたためトレーサビリティに支障が生じ、既に取得していたISO 26262認証においても指摘事項となっていました。
そこで2024年、機能安全性に関わる情報(設計/テスト/課題)を一目で追跡できる仕組みを構築するとともに、データの二重入力や管理による不整合を回避するため、iQUAVISとJiraとの連携機能を開発しました。
このプロジェクトを指揮した機能安全担当マネージャーのチョ・キソク氏は「iQUAVISとJiraを連携することで機能安全に関わるトレーサビリティを担保する仕組みが立ち上がった」と話しています。この仕組みは自動車市場を狙うLXセミコンの成長戦略も後押ししています。
成長戦略を阻む情報の乖離
「認証がなければ契約そのものが成立しません」。そう話すのは韓国の半導体メーカーLXセミコンで機能安全を統括するチョ・キソク氏。
ここでいう認証とは、自動車の電子システムの安全性を保証する国際規格ISO 26262(機能安全)のこと。これは開発プロセス全体のトレーサビリティ(設計/テスト/課題情報の一貫性)を担保するもので、この認証がなければサプライヤーは自動車メーカーに部品を供給することができません。
LXセミコンはこれまでテレビやスマートフォン向けのディスプレイドライバーICを主力としてきましたが、近年は自動車業界向け半導体の供給へと軸足を移しています。「認証がなければ契約が成立しない」というチョ氏の言葉は、自動車業界への本格参入を進めるLXセミコンの危機感を表すものでした。
設計情報の管理もプロジェクト管理もできる統合ツール
当初はLXセミコンの開発現場では、ALM(Application Lifecycle Management:アプリケーションライフサイクル管理)を用いた仕組みが活用されていました。
「しかしこのツールはアーキテクチャなどの描画ができないので現場には不評で、エンジニアたちはそのために作図・ダイアグラム作成ソフトや表計算ソフトを併用していました。結果としてトレーサビリティがとれず、その溝を埋めるために手作業を要し、さらにはその過程でミスも発生していました」。
そこで2021年、複数製品を比較検討した結果、開発者にとって実用的かつプロジェクト管理も可能な点が決め手となり、電通総研のiQUAVISの導入を決定しました。
ISO 26262(機能安全)認証への対応を強化
このとき、不具合やテスト情報の管理には豪アトラシアン社のJiraを使っていましたが、JiraとiQUAVISのデータが正しく同期していないと認証機関から新たな指摘を受けました。
この課題を解決するため、チョ氏らはiQUAVISとJiraのデータを同期させる構想を描きます。iQUAVISには他システムとの連携用にAPIが用意されており、それを通じてJiraの不具合・テスト情報をiQUAVISで定義している機能安全要求やテストケースに紐付ければ機能安全のトレーサビリティを担保できると考えたのです。
チョ氏らはこの構想にもとづきiQUAVIS Connector(アイクアビス・コネクター)を自社開発。エンジニアらがiQUAVIS上でJiraに登録されたテスト結果や不具合情報のチケットデータを手軽に参照できる仕組みを立ち上げました。
「この仕組みのおかげで設計要素及び機能安全要求と、不具合・テスト情報の関係性 が一目でわかるようになりました」「以前はどの不具合がどの設計要素に紐付くのか、設計部門と時間をかけて照合していたのですが、その必要がなくなりました」とチョ氏は話します。
これにより、以前はさまざまな文書やスプレッドシートを束ねて説明していた機能安全の監査も、iQUAVIS上の構造図を提示するだけで済むようになったとチョ氏は話します。
開発効率、品質向上にも効果
手作業でデータを照合していた頃と比べ、工数が劇的に改善されました
LXセミコン
AT Task/Professional
キム・クァンギ(Kim Kwang Ki)氏
今回構築されたデータ連携の仕組みについて、LXセミコンで大学や研究所とのコラボレーションを担当するキム・クァンギ氏は、「手作業でデータを照合していた頃と比べ、工数が劇的に改善されました」と評価します。「以前の1/10ほどの手間でデータを確認でき、人手によるヒューマンエラーも大幅に減りました」。
開発者がトレーサビリティを維持できるので、設計作業の効率化や品質改善につながります
LXセミコン
New Technology & Academy Team/Ph.D., Functional Safety Manager
チョ・キソク(Cho Ki Suk)氏
また、チョ氏は「開発者がトレーサビリティを保ったまま設計を進められ、結果として設計作業の効率化や品質改善にもつながっている」と話します。
今後、LXセミコンはiQUAVISの活用範囲を拡げ、単にISO認証にとどまらず、開発支援の実質的プラットフォームに進化させていく方針です。「スケジュール管理ツールとの連携を進めるほか、AIを活用した要求仕様の抽出や設計文書の自動生成など、自動化への取り組みをさらに進めていきたい」とチョ氏は話します。「このプラットフォームはLXセミコンの半導体事業を支える確かな足がかりになってくれるはずです」。
なお、2025年7月、iQUAVISはテュフ ラインランドから、ISO 26262に対応した開発支援ツールとして正式認証を取得しました。電通総研はこれを受け、今後、認証取得をめざす製造企業に向けグローバルにコンサルティングサービスを展開していく方針です。
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※記載情報は取材時(2025年9月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。