未来望遠鏡コラム#4 戦略を「育てる」能力の定着 ―― 問いと対話を組織にインストールする
「未来望遠鏡」連載コラムの最終回です。
これまで、BANI時代には客観的な未来予測ではなく「独自の視点」が必要であること、そのレンズは企業の「在り方(DNA)」であること、そして思考の慣性を破るために「分人AI」※1との対話が有効であること、をお伝えしてきました。今回は、この一連のプロセスを一過性のプロジェクトで終わらせず、組織の力として定着させるための「仕組みの構築」について考察します。
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※1分人AI:企業の歴史で培われた「在り方(DNA)」を核としながらも、企業という法人が持つ「厳格な財務的側面」「革新を求める技術的側面」「人を重んじる人事的側面」など、多様な側面(=分人)をそれぞれモデル化したAIエージェント
参照:未来望遠鏡コラム#3 分人AIとの対話 ——「組織の塊」を多角化し、思考の完成を打ち破る
目次
美しい戦略が「埃をかぶる」理由と組織の硬直化
企業が多大な時間とリソースをかけ、精緻な「2040年に向けた経営戦略」を描き出したとします。しかし現実のビジネスにおいて、数年後にもそのシナリオが日々の意思決定の拠り所として機能しているケースは稀です。社会は非線形に変化し続けます。前提としていたメガトレンドのベクトルが少しズレたその瞬間、固定化されたシナリオは実効性を失い、分厚い計画書はキャビネットの中で埃をかぶることになります。
多くの企業が陥る根本的な問題は、戦略に対する「決めるもの=決めて終わり」という固定観念にあります。一度戦略を「決定」してしまうと、組織の関心は「いかに計画通りに実行するか」に向かい、前提を疑うことをやめてしまいます。そのため、想定外の変化に直面した際、自律的に「問いを立て直す習慣」が組織に根づきません。「計画通りに進まないから、また外部に新しい分析を依頼しよう」と、意味づけのプロセスを外部に依存し、「決めて終わり」を繰り返している限り、変化はつねに「計画を狂わせる脅威」としてしか認識されず、組織は防戦一方で疲弊していってしまいます。
きわめて見通しの悪い現代において真に重要なのは、戦略を「一度完成させること」ではなく、変化が起きるたびにそれを「編み直す能力」を組織が持ち合わせているかどうかなのです。
「成長するシステム」としての知的基盤
この課題を乗り越えるため、私たちは2つの概念を再定義する必要があります。
1つ目は、「戦略」の定義です。戦略は、ある時点で外部環境を分析し、ゴールへの道筋を固定して「決めるもの」ではありません。人間とAIの共創によって、絶えず「育てるもの」へと進化させる必要があります。
2つ目は、「システムの実装」に対する定義です。「システム」と聞くと、業務を効率化するITツールの導入を思い浮かべるかもしれません。しかし、BANI時代においては、システム自体が環境に適応し、成長することが求められます。私たちが目指すのは、ただツールを導入することではありません。AIが定常的に外部環境の変化を読み取り、同時に自社内に蓄積されるデータを学習し続ける「成長する知的基盤」としてのシステムに他ならないのです。
人とAIが共に成長することで、戦略が育つ
では、問いと対話のプロセスを定着させ、戦略を育て続けるにはどうすればよいのでしょうか。ここで【図1:静的戦略から動的戦略へのシフト】を提示します。
図1:静的戦略から動的戦略へのシフト
旧来の「静的モデル」は、一度の予測から計画を立て、ひたすら実行する直線モデルでした。私たちが提唱する「動的モデル」は循環型です。変化の兆しをAIが捉え、分人AIが多角的な論点(摩擦)を提示し、人間が自社の在り方に照らして意味を更新し続ける。この「問いと解釈のループ」を回し続けることで、戦略はしなやかに育っていきます。
この動的モデルを成立させるのが、【図2:戦略が育つ「学習のループ」】です。システムを成長させるためには、2つのデータの定常的な学習が不可欠です。1つは「世の中のトレンド(外部データ)」、そしてもう1つが「日々の活動から生まれる自社のデータ(内部コンテキスト)」です。
図2:戦略が育つ「学習のループ」
第2回で触れたように、現場の泥臭いこだわりや日々の活動そのものが、企業の「在り方」が発露した最新のコンテキストです。これらがシステムに蓄積され、分人AIが学習し続けることで、AIはより深く自社を理解し、現況に即した、より高度で鋭い問いを投げかけるように「育ち」ます。システムとAIが育つからこそ、経営層とAIの対話の質が上がり、結果として「戦略が育つ」という連関が生まれるのです。
変化を糧にする「反脆弱性」と、組織の自走
成長する知的基盤がインストールされた組織は、単なる回復力(レジリエンス)を超えた、「反脆弱性(アンチフラジリティ)」を獲得します。
反脆弱性とは、思想家のナシーム・ニコラス・タレブ氏が提唱している、衝撃を受けることで、むしろ以前より強靭になったり、新しい機能を生み出したりする性質のことです。想定外のトレンドの変化や、日々の現場で起きるイレギュラーな事象すらも、システムにとってはAIを賢くするための貴重な「学習データ」になります。変化が激しければ激しいほど、システムは多様なコンテキストを吸収し、組織は自らの「在り方」に照らした新しい意味づけを深めていく。つまり、世界が揺れるほどに、独自の戦略が研ぎ澄まされていきます。
そして、この「変化を力に変えて自走する」状態は、連載の冒頭で提示した「現場のトレンド疲れ」を根本から解消し、組織に持続的な活気をもたらします。誰かが決めた固定の計画をただこなす、防戦一方の日々から解放され、自分たちの現場の活動そのものがシステムを育て、それが次の未来を切り開く示唆を導き出す。自分たちの「在り方」が確実に未来を形作っているという手応えこそが、働く人々にワクワクとした内発的動機をもたらし続ける最大の源泉となるのです。
自らの「在り方」を拠り所に、未来を意味づけ続ける
全4回にわたり、BANI時代における経営思考の拡張(≒未来望遠鏡)について、お伝えしてきました。
未来は、客観的に予測して「当てにいく」ものではありません。かといって、力強い「意志」だけで強引にねじ伏せられるものでもありません。見通しの悪い世界で唯一の羅針盤となるのは、「私たちは、どうしてもこうしてしまう」という自らの「在り方(DNA)」です。その在り方を深く理解し、テクノロジーの力で思考を極限まで広げ、変わりゆく未来の事象に対して「自社にとっての意味」を与え続けること。それこそが、私たち電通総研の考える、これからの経営戦略の姿です。
電通総研は、企業が自らの在り方を起点に未来を構想し続けるための伴走と、それを支えるシステムの構築を支援してまいります。新サービス「未来望遠鏡」とともに、変化を力に変える新しいAI経営の旅への一歩を踏み出してみませんか。
実際のご支援事例や、未来洞察サービス「未来望遠鏡」にご興味のある方は、以下よりご相談・ご連絡ください。お待ちしております。

野沢 明永 コンサルティング本部 戦略コンサルティングユニット 新規ビジネス開発部 シニアコンサルタント
静岡県浜松市出身。大手産業機器メーカーにて、技術サポートからソフトウェア開発、プロダクトマネジメント、中期経営計画策定まで幅広く従事。役員直下の専任組織で「コトづくり」をテーマとした新規事業を立ち上げ、米国にて主導。その後、AI開発スタートアップ企業にて、社会インフラ領域を管轄する事業責任者として、画像解析AIソリューションの社会実装を推進。現在は電通総研にて、新規事業構想やビジネスモデル設計、DX/AI戦略策定を支援する。“技術で人をしあわせにする”を信条に、大企業・スタートアップ両面での知見を活かした、実践的なコンサルティングを展開している。
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