未来予測から未来の「意味づけ」へ ―― BANI時代における独自戦略のあり方を考える
不確実性がますます高まる現在において、社会の未来をどう捉え、どのように企業独自の戦略に落とし込むかは企業経営の最重要テーマのひとつです。本連載「未来望遠鏡」では、その問いに対する新たなアプローチを提案します。第1回となる本稿では、メガトレンドの分析や未来予測ツールが普及する中で、なぜ多くの企業が「似たような中長期戦略」や「形だけのパーパス経営」に陥ってしまうのか、その罠を紐解きながら、これからの時代に必要な未来の捉え方について解説します。
目次
未来が見通せないBANI時代
現代は、「BANI」――すなわち「Brittle(脆い)」「Anxious(不安な)」「Non-linear(非線形)」「Incomprehensible(不可解な)」の4つの要素で特徴づけられる時代と言われています。
技術革新のスピードや地政学的リスクなど、社会システムの脆弱性や主観的な不安感がかつてなく高まる中、多くの企業が生き残りをかけて「2030年、あるいは2040年の世界はどうなるのか」と、外部環境の分析や未来予測に多大なリソースを投資しています。
しかし、精緻なレポートや最先端のAIを用いて未来を予測したとしても、「自社はどう動くべきか」という明確な次の一手が見えてこない、という悩みを抱える経営層は、当社が支援する企業でも少なくありません。
「未来予測」から「未来の意味づけ」へ
なぜ、未来の姿を描けても次の一手が打てないのでしょうか。それは、未来を「客観的に予測して正解を探すもの」と捉えているからです。
電通総研では、これからの企業に求められるのは、未来を単に予測することではなく、客観的な世の中の潮流を、自社それぞれの『価値観』という独自のレンズを通して主体的に解釈することだと考えています。
経営学における「センスメイキング(意味づけ)」の考え方に通じますが、膨大な未来事象に対して「自社にとってそれはどういう意味を持つのか」を問い直すプロセスこそが、戦略の出発点となります。
データが招く「戦略の同質化」という罠
現場で起きている典型的な悩みは「戦略の同質化」です。
現在、多くの企業が同じようなメガトレンドのレポートや、一般的な生成AIを用いて外部環境を分析しています。しかし、全員が同じ「客観的なデータ」という窓から未来を覗けば、導き出される「市場の機会と脅威」も同じになり、結果として競合他社と似通った戦略へと収斂してしまいます。
VUCAやBANIといった、複雑かつ不確実性の高い外部環境を精緻に分析することに終始し、「自社のDNA」という内発的な動機が抜け落ちているため、差別化の源泉を見失ってしまうのです。
独自の「視点」が未来を創る
この同質化の罠を抜け出すためには、未来へのアプローチを転換する必要があります。
図1:未来洞察アプローチの対比イメージ
ここで【図1:未来洞察アプローチの対比イメージ】をご覧ください。
左側は従来の「予測モデル」です。客観的な『世の中の潮流』をそのままインプットし、一般的な『未来シナリオ』を出力するため、他社との同質化が起きます。
一方、右側が私たちの提唱する「意味づけモデル」です。『世の中の潮流』と『企業独自の視点』を掛け合わせることで、自社にとって意味のある『未来シナリオ』が生成されます。
重要なのは、未来そのものを都合よく「ありたい姿」にねじ曲げることではありません。あくまで起こりうる「成り行きの未来」を前提としつつ、そのキャンバスのどこに焦点を当てるかという「アングル(視点の置き方)」です。
これを視覚化したものが【図2:成り行きの未来に対するスポットライト】の概念です。
図2:成り行きの未来に対するスポットライト
暗闇の中に広がる巨大な「2040年の都市」という客観的な未来のジオラマがあるとします。企業が持つDNAは、そのジオラマを照らすサーチライトのようなものです。同じ街の風景を見ても、企業のDNA(ライトの照らす先)が異なれば、浮かび上がる景色は劇的に変わります。
ある自動車メーカーは、その街を走る「クルマの形」や「極小モジュール」のあり方にスポットライトを当てるでしょう。
別のメーカーは、製品そのものではなく、インフラと統合された「生活者の移動の意味」にフォーカスするかもしれません。
あるいは「生活者の現実」を優先するDNAを持つ企業であれば、最新技術そのものではなく、生活者にとってのモビリティの意味や関係性を注視するはずです。
このように、客観的な未来の中から自社ならではの着目点を見出すことが、戦略立案の要となります。
「独自の勝ち筋」と「自律的な組織」
この「意味づけ」のアプローチによってもたらされるビジネス上のメリットは、同じ未来の動向の中から、自社にとって特に重要な機会や脅威を引き出せることです。一般論としてのリスクが、自社にしか解決できない「独自の勝ち筋」へと変換されます。
さらに重要なのは、従業員の心理的変化です。外部のコンサルタントや一般的なAIが弾き出した「無味乾燥な予測」に従うのではなく、自社が長年大切にしてきた「DNA・価値観」を起点に未来を描くため、戦略に対する納得感が桁違いに高まります。自分たちのアイデンティティが未来の社会課題解決に直結していると感じられることは、社員が自律的に働くための強力なエンジンとなるのです。
戦略は「決めるもの」から「育てるもの」へ
いかがでしたでしょうか。第1回のコラムでは、BANI時代における未来予測の限界と、客観的な潮流を独自の視点で「意味づける」ことの重要性についてご案内しました。
戦略は、一度未来を予測して単に「決めるもの」ではありません。自社の価値観を軸に、絶えず変化する未来の可能性を解釈し、意味づけを重ねる中で「育てるもの」へと進化していく必要があります。
では、その意味づけの拠り所となる「自社独自のレンズ(DNA)」は、どのように言語化し、再定義すればよいのでしょうか。次回の第2回コラムでは、企業の核となる「独自の価値観の導出」について深掘りしていきます。
実際のご支援事例や、未来洞察サービス「未来望遠鏡」にご興味のある方は、以下よりご相談・ご連絡ください。お待ちしております。

野沢 明永 コンサルティング本部 戦略コンサルティングユニット 新規ビジネス開発部 シニアコンサルタント
静岡県浜松市出身。大手産業機器メーカーにて、技術サポートからソフトウェア開発、プロダクトマネジメント、中期経営計画策定まで幅広く従事。役員直下の専任組織で「コトづくり」をテーマとした新規事業を立ち上げ、米国にて主導。その後、AI開発スタートアップ企業にて、社会インフラ領域を管轄する事業責任者として、画像解析AIソリューションの社会実装を推進。現在は電通総研にて、新規事業構想やビジネスモデル設計、DX/AI戦略策定を支援する。“技術で人をしあわせにする”を信条に、大企業・スタートアップ両面での知見を活かした、実践的なコンサルティングを展開している。
参考情報
企業が長年にわたり培ってきた価値観や思想を起点として未来洞察を支援するコンサルティング・システム構築サービスです。社会潮流を企業固有の価値観という視点から捉え直し、AIと人の対話を通じて将来の機会と脅威を整理・可視化することで、経営における意思決定の質とスピードの向上を支援します。
お問い合わせ先
コンサルティングサービスに関するお問い合わせ先
TEL:03-6713-5700
g-info-con@group.dentsusoken.com