ワンストップ型デジタル行政サービスで、申請窓口を一つに
市民視点で、行政サービスのあり方を問い直す
- スマートシティ
お写真左より 静岡市 総務政策局 DX推進課 主査 石﨑慎太郎氏、総務局 総務課 主任主事 清智啓氏
人口減少や少子高齢化が進み、住民の年齢層や生活状況が多様化する中、自治体には限られたリソースで、より幅広く質の高い行政サービスを提供することが求められています。静岡市もまた、そうした課題に向き合いながら、行政DXを段階的に進めてきた自治体の一つです。
静岡市では、2022年2月に「静岡市デジタル化推進プラン」を発表。その後、各取り組みにおけるPDCAサイクルを回し、効果的にデジタル化を推進するため、2025年3月に「静岡市デジタル化推進アクションプラン」を策定しました。行政サービスのデジタル化を単なる効率化にとどめず、「市民にとって本当に使いやすいサービスとは何か」という視点から見直す取り組みを進めています。
その施策の一つとして推進しているのが、住民ポータルと共通IDを軸とし、複数の行政手続きをオンライン上の一つの窓口でまとめて行える「ワンストップ型デジタル行政サービス」の構築。
「目指しているのは、単に手続きをデジタル化することではありません。市民の方が、迷わず、負担なく行政サービスにたどり着ける状態をつくることです」
静岡市役所総務課主任主事の清智啓氏はそう話します。
目次
分断された仕組みが生んでいた、市民と職員の負担
「市民の方から見ると、何の手続きをどこですればよいか、分かりづらい状態だったと思います。その結果、同じような内容の申請のために、複数の部署に赴かなければならないことにも繋がっていました」
以前の静岡市の行政サービスについて「ワンストップ型デジタル行政サービス」の構築当時、DX推進課でプロジェクトをリードしていた清氏はそう語ります。各部署がそれぞれの業務に必要なシステムを導入・運用してきた結果、行政全体としては、情報や手続きが十分に繋がっていない状態だったと続けます。
市民にとっては、手続きを行うたびに担当部署を調べ、本庁舎だけでなく、場合によっては出先機関にも足を運びながら、複数の申請を進める必要がありました。
その過程で、氏名や住所などの基本的な情報を、手続きごとに何度も記入しなければならないケースがほとんどでした。
一方で、職員側にとっても課題はありました。部署ごとにシステムや情報が分断されているため、市民からの問い合わせに対しても、「それは別の部署での手続きになります」と案内せざるを得ない場面が多くありました。
分断された仕組みを前提とした業務の積み重ねが、市民・職員双方にとっての負担となっていたのです。
なぜ「おくやみ手続き」から始めたのか
ワンストップ型デジタル行政サービスの構築にあたり、静岡市が最初のユースケースとして選んだのが「おくやみ手続き」でした。
「おくやみ手続きは、市民の方にとって、精神的にも大変な状況の中で時間をおかずに進めなければならない手続きです。そのような市民の大変さに加え、市の中にあるシステムが部署ごとに分断されている状況を変えたときに、どのようなメリットが出てくるのかを考えるうえで、非常にイメージしやすい手続きでもありました」(清氏)
おくやみ手続きは一人の人が何度も経験するものではないため、必要な申請の全体像を把握しきれないまま、手探りで進めざるを得ない状況に置かれがちでした。
また、「一つの処理が終わってから次の部署が動く手続きとは違い、おくやみ手続きは別々の処理を並行して同時に進められるものが多い分野です。そのためワンストップ化による効果が現れやすいという点もポイントになりました」と清氏は続けます。
市民にとっての心理的負担を軽減できるかどうか、そして行政側にとっても並行して発生する業務を効率的に扱えるかどうか。その両面を、構想ではなく実際のサービスとして具現化することに、大きな意味があると考えたのです。
現実的な一手として描けた構想と実装
「ワンストップ型デジタル行政サービス」の基盤構想を具体化していく中で、静岡市が重視していたのは、「理想論ではなく、現実的に実装・運用できるかどうか」でした。そのパートナー検討において大きな前提となっていたのが、自治体特有のIT環境である三層分離への理解の深さと他自治体での構築実績です。
自治体の情報システムは、一般的にインターネット接続系、LGWAN接続系、マイナンバー利用事務系の三つのネットワークに分けて運用されています。いわゆる「三層分離」と呼ばれるこの構造は、セキュリティ確保の観点から不可欠である一方、システム間連携やデータ活用を進めるうえでは大きな制約にもなります。
そうした制約条件を踏まえたうえで、静岡市が電通総研の「minnect申請管理」「minnect cBase」「CIVILIOS」を活用する提案について、「現状を前提に構想を描けていた点に魅力を感じた」といいます。
「minnect申請管理」とは、自治体が住民から受け付けるオンライン申請と紙のオフライン申請の両方を取り込み、電子審査や一元管理ができるシステムで、「minnect cBase」と接続することで申請者情報や手続き状況を横断的に把握し、業務の効率化や情報共有を図ることが可能となります。
また、電通総研が開発する都市OSソリューション「CIVILIOS」は、住民向けのポータルサイトと共通IDを提供する仕組みで、県や市町など多くの自治体に活用されています。
提案された構成は、まずインターネット系・LGWAN系を中心に、住民ポータルや申請管理といった部分から着実に整備し、将来的に標準化や制度改正の進展に合わせて拡張していくことを想定したものでした。
「できること・できないことをきちんと整理したうえで、この段階ではここまで、次のフェーズでここまで、という形で説明してもらえた点は安心感につながりました」(清氏)
現場に根づき始めた「システム基盤」という考え方
業務が効率化されただけでなく、この仕組みを前提に「次に何ができるか」を考えられるようになった点も、導入を通じて見えてきた変化の一つです。
静岡市 総合政策局 DX推進課
主査 石﨑慎太郎氏
プロジェクトの推進にあたっては、部署横断での調整や庁内理解の促進が欠かせませんでした。特定の業務だけを対象とするのではなく、将来的に他の手続きにも広げていくことを前提とした構成であったからこそ、関係部署との丁寧な対話が求められました。
「すべてが最初からスムーズだったわけではありません。ただ、電通総研の力も借りながら、関係部署と密に連携し、共通のゴールを丁寧に共有することで、少しずつ理解が広がっていきました」
そう話すのは清氏とともにプロジェクトを推進してきたDX推進課 主査の石﨑慎太郎氏。
このような丁寧なコミュニケーションは、実際の運用が始まった後にも良い効果として現れているといいます。仕組みを“単発の施策”としてではなく、今後の行政サービス全体を支える基盤として捉える視点が、現場レベルでも共有されるようになっていたのです。
「申請状況の把握や事前準備がしやすくなり、業務の進め方そのものに変化が生まれてきています。単に業務が効率化されたというだけでなく、この仕組みを前提に『次に何ができるか』を考えられるようになった点も、導入を通じて見えてきた変化の一つです。」(石﨑氏)
清氏は一貫して大切にしてきた“市民目線”での効果を期待します。
「具体的な市民の声はこれからになりますが、どこで手続きをすればよいかわかりやすくなったと思います。一度で手続きが済む点も市民の皆さんには実感してもらえるのではないでしょうか」(清氏)
見え始めた変化と、次のステップ
この仕組みは、まだスタート地点です。今後も市民視点を忘れず、進化させていきたいと考えています
静岡市 総務局 総務課
主任主事 清智啓氏
約1年のプロジェクトを経て、2026年3月静岡市では「おくやみワンストップサービス」をリリースしました。
導入前の段階では、ワンストップ型デジタル行政サービスの構築によって一定の効率化が図れることは想定していましたが、実際に運用を始めてみると、それ以上の効果が見え始めているといいます。
「ワンストップ化によって、市民対応の業務そのものを見直すきっかけになりました」と石﨑氏は語ります。
これまで、市民対応は個別の手続きや窓口単位で考えられることが多く、結果として部署ごとに対応が分かれてしまう場面も少なくありませんでした。しかし今回の取り組みを通じて、「市民にとってどうあるべきか」という視点で、行政サービス全体を捉え直す動きが生まれつつあります。
今後、静岡市では今回の取り組みで得られた知見を、他のライフイベントに関わる申請や他市民サービスとの連携へと展開していく計画です。
「この仕組みは、まだスタート地点です。今後も市民視点を忘れず、進化させていきたいと考えています」(清氏)
静岡市の取り組みは、単なるデジタル化にとどまらず、行政サービスの“入口”を市民視点で捉え直す試みでもあります。ワンストップ型デジタル行政サービスの構築は、静岡市にとってこれからの自治体DXを進めていくうえで、一つの重要な足がかりとなりつつあります。
「そのときは、ぜひ電通総研にも他自治体での先進事例や新しい技術を活用したソリューションなど紹介してもらいながら新しい絵を描きたいですね」石﨑氏はそう締めくくりました。
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※記載情報は取材時(2026年4月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。