宗像市×スマートソサイエティ
DXコーディネーターの派遣で、住み良いまちづくりを後押し
- スマートシティ
政令指定都市の福岡市と北九州市の中間に位置する、人口約10万人の宗像市。古くから大陸と交易関係を築いてきた歴史あるエリアで、2017年には「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群が世界遺産に登録されました。地元の農水産物や惣菜などを販売する「道の駅むなかた」が、年間180万人、売上18億円と、全国トップクラスの動員、売上を上げていることからもわかるように、近年は観光都市としての地位を確立しています。
都心部へのアクセスがよく、住宅地としても子育て世帯の転入が盛んですが、市縁辺部では高齢化率が上昇しており、今後の人口増加幅は小さくなると見込まれています。そのため、宗像市は「成長から成熟へ」をキーワードに、約10万人の市民にとっての住み良いまちづくり、という目線から政策を打ち出し、その一部としてDX推進に着手。2021年に総務部内に「デジタル化推進室」を立ち上げました。2021年にはISIDからDXコーディネーターを受け入れ、加速的にデジタル化を進めています。2023年春からはデジタル推進課として、持続的なデジタル化への覚悟を見せる宗像市。始動からこれまでを、宗像市総務部デジタル推進課 課長の尾園博保氏と、宗像市に出向しているスマートソサエティセンターの島隆に振り返ってもらいました。
コロナで膨大に膨らんだ業務。DXで職員の負担減へ。
−宗像市は、2021年にデジタル化推進室を立ち上げ、情報政策の推進やIT技術の活用に取り組んできました。当時はどのような課題があったのでしょうか。
尾園博保(以下:尾園):市役所では紙の文化が根強く残り、今も多くの紙を使っています。平成6年(1994年)に他の市町村に先駆けて“窓口申請の効率化”を謳い、ハンコレスを始めましたが、実態はハンコを押さなくなっただけで、紙を使うことに変わりはありませんでした。しかし、デジタル庁の発足が決まった直後、宗像市もトップの素早い判断で「デジタル化推進室」を立ち上げることとし、市民サービスや庁内業務のDX推進へと舵を切りました。
島隆(以下:島):「デジタル化推進室」の設立から半年後に「DXコーディネーター」という肩書きで宗像市に派遣されましたので、反発もあるだろうと覚悟していました。ところが、幸いにも今までそのように感じた場面はありません。わずか半年の間に、職員にデジタル化が浸透していたように感じましたが、理由はなんだったのでしょうか。
尾園:転換期は、新型コロナウイルスの感染拡大です。給付金の申請書やワクチンの接種記録を管理するために、市役所では膨大な量の紙を処理していました。通常の業務に加えて新たな仕事が生じて時間外勤務が大幅に増えた上に、スピードと正確性も求められる状況でしたので、疲弊する職員も少なくなかったですね。もう従来のやり方では無理で、デジタル化により業務効率を格段に向上させるしかない、と多くの職員が認識したはずです。オンライン会議やキャッシュレス決済など、日常生活でもデジタル化が急速に進んだことも意識の変化につながったと思います。
実際に市役所内でデジタル化を浸透させるにあたっては、トップダウンとボトムアップを使い分けました。「デジタル化をやるぞ!」という強い意志表示はトップから発信してもらい、各課にはデジタル担当職員を配置しました。若手が多かったこともあり研修内容のキャッチアップも早くて、各課の中で「こんなのはできない?」と相談されると、すぐに動き出してくれましたね。そこに島さんが専門的な見地から、デジタルツールの効率的な利用方法や人的ミスを軽減する工夫、などを助言してくれるので、さらに効果的で。DX推進を力強く後押ししてくれました。
行政業務プロセスの見直しや人材育成も、ISIDが支援
−DXコーディネーターが派遣されるまでの経緯と、何を期待されていたかを教えてください。
島:ISIDでは以前から自治体DXの支援をおこなっており、2021年8月には「スマートソサエティセンター(以下 SSC)」という専門の組織を立ち上げました。SSCでは行政DXのためのデジタルツールの提供に加えて、業務全体を俯瞰してプロセスの可視化と課題分析を行う「自治体DX推進アドバイザー業務」も行っています。その一環で、私が宗像市に出向することになりました。
尾園:SSCの誕生は、ISIDが自治体DXに本気で取り組んでいく、という強い意志を感じるものでした。ISIDとは10年近いお付き合いがありましたが、社員を派遣するとまで言ってくれたときは、大変心強く感じました。SSCが得意とするBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)や業務の棚卸しへの期待値は大きかったですね。役所の職員は真面目ですから、5段階で完了する作業は、5段階を全て実施することが正しいと思っています。でも、民間の目を通すと、3つ目はいらないよね、4つ目はデジタル化できるよね、というのがわかるわけです。もう一つ、ISIDにはデジタル化推進室の人材育成も期待していました。実際、島さんは現場の社員向けに研修を行ったり、デジタル技術の活用に関する各部署からの相談に乗ったりしてくれています。
DXコーディネーターが、デジタルと職員の潤滑油に
−DXコーディネーターの派遣は、宗像市役所のDX推進にどんな影響を与えましたか。
尾園:スピード感が全然違ったと思いますね。ITベンダーの方とお話する際、こちらに知識がないと話している言葉も難しく感じます。その言葉を、島さんが噛み砕いて、こういうことだよと説明してくれるので、全員の理解が進みます。職員が理解して進めるのと、理解せずに進めるのではスピードも結果も違いますから。
島:平易でわかりやすく、ゆっくりお話しすることを心がけているのは確かです。ITやシステム関連の言葉は専門的で難しいので抵抗感を感じやすいものですが、市役所の業務に対して、こういう業務だったらこういう技術を使うと、こう変えられますよ、とお伝えするとよく理解していただけました。デジタル技術を導入することが目的ではなくて、市役所の職員の皆さんのお仕事を楽に正確にするのが目的なので、デジタル技術をツール(手段)と捉えてもらえたらいいですね。ひいては、それが市民の方々に利便性の向上にもつながりますし、そういうお役立ちの仕方が、ISIDの理想とするところです。
市民にとっても、職員にとっても、行政DXの推進は必要不可欠
−DXを推し進めて約3年。その成果と今後の展望についてお聞かせください。
尾園:庁内 業務の効率化を推進するDXと、市民サービスをより便利にするためのDXの両輪を回してきました。庁内業務ではAIやRPAを活用して、ロボットに業務の一部を任せて効率化を図っています。市民向けには、電子申請のシステムをISIDに構築してもらいました。どちらにも取り組んで感じたのは、庁内業務のDXを進めないと職員の余裕ができず、市民サービスの拡充にも手が回らないということですね。ここ数年はコロナの対応が多く、職員は追い込まれた状態で業務に当たってきました。その状態で「DXをやれ」と言われても無理がありますので、ポイントの置き方にも工夫がいります。
島:手書きの書類をAIで読み込むAI-OCR技術や、ロボットとAI技術を組み合わせたRPAは、間違いなく業務の効率化に役立ちます。ただ、どの業務を対象にするかについては、量や集中する時期を見極め、慎重に判断する必要がありましたね。
尾園: 島さんがおっしゃるように、AIもRPAも導入すればよいというものではありません。RPAを入れる前に、そもそも業務のやり方自体を見直すべき場面もありました。その見極めを、島さんに大いに助けてもらいました。
定量的には、この2年半で職員の業務が約2万3千時間削減され、紙は約6万枚の削減、効果額としては約2,800万円という数字が出ています。少子高齢化が加速している今、人手不足は自治体にとっても大きな課題です。定型的な仕事はロボットに任せて、人にしかできないこと、例えば窓口での相談業務などに、職員を割り当てられるシステム整備が必要だと思っています。同時に、電子申請やオンライン化が進めば、市役所でもテレワークが進むと考えています。出勤する職員も減り、行かなくてもいい市役所が実現できれば、、今の規模の市庁舎も駐車場も必要ありません。デジタル化が行財政改革に寄与する部分は大きいのではないでしょうか。そういう観点からも、自治体DXは必然であり、喫緊の課題です。宗像市は島さんのような、職員の立場にも配慮しながら、助言してくれる人がいたおかげで、スムーズかつスピーディーにDXを推進できています。
市内を東西に横断するJR鹿児島本線や国道3号および国道495号により二大都市への交通アクセスが充実し、住宅団地や大学、大型商業施設などが相次いで進出。これに伴い、急激な都市化が進み、生活環境や都市基盤が整備され、教育や文化、子育て支援などが充実し、人口も増加している。人口減少時代に突入している現在においても、人口を維持し続けている。
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