兵庫県加西市
市民のための都市OS 「CIVILIOS」を導入
運用を見越した柔軟なアレンジが、データ連携基盤活用の幅を広げる
運用を見越した柔軟なアレンジが、データ連携基盤活用の幅を広げる
- スマートシティ
兵庫県南部に位置し、約4万2000人が暮らす加西市。高い技術力をもつ特色ある地域企業を多く擁し、ものづくりのまちとして知られる同市は、2019年に導入した健康促進用の「加西健幸アプリ」を皮切りに、デジタル地域通貨「加西市ねっぴ~Pay」やLINE公式アカウントによる情報配信、市民のSDGs活動を応援するポータルサイトなど、市民サービスのデジタル化を意欲的に進めています。
2021年の国の「デジタル田園都市国家構想」を受け、各サービスを包括的に連携させるデータ連携基盤に関する調査を実施。2023年には、データ連携基盤の導入プロジェクトを推進してきました。この基盤により、ユーザーデータ等の集約とマイナンバーカードによる個人認証が実現された結果、市民は利用するサービス毎に行っていたユーザー登録が今後不要になっていく他、サービスの利用で得たポイントを地域通貨へと交換することもできるようになりました。さらに市が実施するキャンペーンに伴うポイント付与や、各給付金等のスピーディーな申し込み受付と支払も可能に。このプロジェクトの要として採用されたのが、電通総研が開発する都市OSソリューション「CIVILIOS(シビリオス)」です。
プロジェクトの全体統括を担当した加西市 政策部 情報課 課長の山岡和宏氏は、「基盤の整備後、さっそく『ねっぴ~Pay』のポイント付与を伴うキャンペーンを実施しましたが、これまでにトラブル報告やポイントの受取方法が分からないといった問い合わせはほぼありません。基盤の整備はあくまでバックヤードでの取り組みですので、市民の皆さまにとってはいつの間にかサービスが連携され、スムーズに手続きできる状況が実現しているのだと思います。市としての重要な取り組みを、問題なく推進できたこと自体が大きな成果と考えています」と、評価しました。
地域課題解決に向け意欲的にDXを推進!長期的メリットを見越し、データ連携基盤の整備を進める
デジタル地域通貨や健康促進アプリの普及など、庁内の各部署でスマートシティ化に向けた多角的な取り組みを進めている加西市。2023年11月に公開された「かさい『ミライナカ』計画2030」には、デジタル基盤が支える、目指すべきまちの姿が描かれています。
その背景にあったのは人口減少と高齢化、さらにはコロナ禍に伴う地元商店の疲弊といった、複合的な地域課題だったそうです。山岡氏はDX推進を促す理由について「高齢者の割合が高まる中、健康寿命をどう伸ばしていくのか、またコロナ禍によって疲弊した商店の活性化をどうしていくのかといった市の課題がある中で、デジタル技術を活用することで解決できるものがあるのではないかと考えました」と話します。
「日々歩いた歩数を基にポイントが付与される健康促進の取り組みは、当初万歩計を配布し実施していましたが、準備できる計器の数が限られることから、参加者を増やすためスマホアプリへと切り替えました。地域通貨はコロナ禍をきっかけに、紙のプレミアム商品券に替えて、まずは大手決済事業者が提供する電子マネーを利用した地元商店への還元を図ったのですが、地域内でよりお金を循環させる施策などを検討した結果、『ねっぴ~Pay』へと切り替えました。こういったデジタル化の取り組みが庁内の各部署で進んでいきました」。山岡氏とともにプロジェクトをけん引した同課情報推進係長の馬渡隆行氏は、これまでのデジタルサービス導入の流れをそう振り返ったうえで、データ基盤整備の重要性を次のように語ります。
「3年ほど前から、既存のデジタルサービスを連携させるデータ基盤導入にチャレンジしてみてはという話が上がり、全庁的なDXの推進計画を立て始めました。これまで部署ごとに独立したサービスが生み出されてきましたが、それぞれにアカウントを必要とするサイロ型のシステムでは管理が煩雑になります。各サービスがつながることで、さらなる活用方法やデータの活かし方が見えてくると考えたのです」(馬渡氏)
同時に、こうしたデジタル化の取り組みを積極的に行うこと自体が、市に興味を持つ企業や人々の増加に寄与する可能性にも言及。「ゆくゆくは産業の活性化や定住者の増加という形で、地域の課題解消につながれば」と、長期的な視野をのぞかせました。
パーソナルデータを扱う上でのセキュリティと、実運用を見据えた高レベルな提案が採用の決め手
「各サービスの連携方法としては、一つの“スーパーアプリ”に集約する手もありましたが、今後のサービスの拡張性を考慮した結果、データ連携基盤の整備を選択しました」と山岡氏。個人認証機能を持ち、パーソナルデータを安全に管理できる基盤の整備を通して、多様なサービスと連携する方法に将来性を感じた、と振り返ります。
「CIVILIOS」は、内閣府の「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」に準拠した都市OS構築ソリューションです。迅速な開発やコスト削減を可能とするAmazon Athenaを活用し、多様なデータに対して柔軟な収集や分析を可能にします。オープンデータ、パーソナルデータ双方の管理が可能で、個人認証を行うことによりユーザーごとにパーソナライズされた情報を発信できるほか、ユーザーの登録状況や、付与したポイントの状況などKPI分析のためのダッシュボードも備えています。
山岡氏は採択の理由を「市民の皆さまのパーソナルデータを扱う基盤ですので、セキュリティも含めたシステムとしての信頼感と安定感を重視しました。さらに“導入して終わり”ではなく、その後の運営も見越したレベルの高い提案を受け、電通西日本と電通総研の皆さんにお任せしたいと思いました」と話し、システム自体の性能のみならず、提案を含めた人的要因も大きかったことを明かしました。さらに、馬渡氏は「市の職員がダッシュボードから情報をしっかりと確認できることや、累積したデータを今後に活用できる点もポイントだったと考えています」と評価しました。
「LINEによるマイナンバーカード認証」の実現が、ユーザーの幅を大きく広げた
基盤についてもデータについてもすぐ理解するのは難しい部分があり、何度も質問をさせていただきましたが、その都度電通総研の丁寧な対応があり、各担当課の希望をしっかり取り込んだシステムを実現できました
加西市 政策部 情報課 情報推進係長 馬渡隆行氏
本プロジェクトにおいて実現を熱望されたのが、「LINEを利用したマイナンバーカードによる個人認証」です。その背景には、コロナ禍のLINEによるワクチン接種予約を経て、加西市民の約半数にあたる2万人が、市の公式アカウントを友達登録している状況がありました。ポイント交換などに必要な個人認証のため新たなアプリの登録を促すのは、ユーザーにとっても運用を担う市にとっても高負荷に。多くの市民がすでに利用し親和性の高いLINEでの個人認証は、本プロジェクトにおけるほぼ必須の条件だったといいます。
「ユーザーがLINEからマイナンバーカードの認証を選択したら、IDもパスワードもメールアドレスも入力することなく完了する状態を目指していました。『CIVILIOS』では、個人認証を伴うLINEの連携は初の試みと聞きましたが、無理を承知でぜひ実現してほしいと依頼したところ、さまざまな検証・検討のうえで実装いただけた。既存のサービスを使ってくださるユーザーの中には、高齢の方もたくさんいます。そうした市民の皆さまができるだけスムーズに操作できることが重要でしたし、プロジェクトの要でもあったので、とても助かりました」(山岡氏)
また、ダッシュボードの構築においては、既存サービスを運用している各部署からの要望を馬渡氏がとりまとめ、高頻度で電通総研とのやり取りが繰り返されることに。馬渡氏は「画面への表示方法など各担当課からのリクエストが尽きず、何度も調整をしては要望を伝え、応えていただきました。各担当課としては、業務での本格的な運用を見越したときにできるだけ使いやすいものにしたい思いがあったため、一つ一つ丁寧に応えていただきありがたかったです」と当時の思いを明かします。
この結果、既存サービスを通して蓄積・保有していた、表計算ソフトなどでは処理しきれない膨大な利用データも分かりやすい表示で閲覧、分析できるように。今後の政策検討における活用が見込めるようになりました。 「当市では様々な部署にデジタル化への意欲や素養のある職員が所属しています。市としてもDX推進を念頭に置いた庁内組織をつくり、外部講師による研修などを通して“DXイズム”を植え付けるようなアクションを進めています」と山岡氏。庁内の新しい取り組みやツールを受け入れる組織風土が、こうした動きを後押した状況を振り返りました。
パーソナル化された情報配信を活用し、“ワンタップでの給付申請”を実現したい
パッケージとして基盤システムを提供し、多様な自治体との取り組み実績を持っている電通総研の強み。その知見やノウハウをもって、今後も積極的な提案をいただき、われわれのDXが広がっていくことを期待しています
加西市 政策部 情報課 課長 山岡和宏氏
リリースに合わせ、本プロジェクトと同時に動いていた防災事業と連携し、「CIVILIOS」を活用したキャンペーンが実施されました。従来はメールで受信していた防災情報を、緊急情報や自治会情報を含めてLINEで受信できるよう設定後に申込をすると、「ねっぴ~Pay」のポイントが付与されるというものです。マイナンバーカードの認証が可能になったことで、住民に確実かつ迅速にポイントが届き、申込は順調に増えていっているといいます。
「先日、『CIVILIOS』を通してキャンペーンポイントが付与されました。経験上、初めて動かすシステムで、数百人に一斉に配信した際には、問い合わせの電話が相次ぐものですが、今回は全くありませんでした。住民が使い慣れたLINEを操作画面にしている部分もあるかも知れませんが、基盤となるシステムがスムーズに稼働しているおかげであり、事業としても大変うまく動き始めています」と山岡氏。これまでは、ポイント付与には本人確認作業も含め、内部事務に多くの時間を要していましたが、今回のスピーディーな付与に市民からも評価を得ています。
今後のシステム活用に向けて、同氏は次のように展望を見据えています。「今回のプロジェクトでは、個人認証を済ませたユーザーに向けて、市からパーソナライズされた情報をお送りできる点が一番重要だと考えています。今後、同様のキャンペーンや給付金等が発生した際、対象の方々が何もしなくてもLINEにその情報が届き、『受け取る』をタップしただけで申請が終わるような手続きを実現したい。もともと自治体はそうした対象者を把握していますが、現状では申請書を郵送して返送いただき、システムに入力するといった手間がかかっています。それがワンタップで済めば互いに大きなメリットが見込めます」
さらに馬渡氏はダッシュボードの活用可能性について言及。「ダッシュボードについては、まず各担当者がデータを横並びで見てみるところからだと思います。例えば防災キャンペーンに関わる情報としては、申込者の人数やポイント数の動きをリアルタイムで見ることが可能です。閲覧者の立場によって視点はそれぞれ。多角的な視点でデータを見ることによって気づきがうまれ、次の政策につなげていけたらと。引き続きさまざまなご相談をさせていただくかと思いますが、本取り組みで電通総研の技術力の高さを実感していますので、きっと応えてくださると考えています」と今後の伴走に期待を寄せました。
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※記載情報は取材時(2024年5月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。