「クリーンコアなERP」への挑戦
──シチズン時計がOutSystemsで描く内製化の未来
- ノーコード・ローコード開発
- ERP
写真左より シチズン時計株式会社 情報システム部 システム技術課 米谷氏、情報システム部 システム技術課 課長 菊池氏、情報システム部 業務システム課 向氏
1918年の創業以来100年以上にわたり、「市民に愛され市民に貢献する」という企業理念の下、時代の変化に対応しながら、世界中の人々の生活を豊かにする製品開発を続けるシチズン時計。その高精度加工技術を活用して精密部品加工のための工作機械や、モーター、セラミックスなどのデバイスの開発・製造にも進出し、精密・電子機器の総合技術メーカーとして現在約140の国と地域でビジネスを展開しています。
同社は、多様なプロダクトの製造部門と販売部門の基幹業務に「SAP ERP(ECC 6.0)」を活用していました。後継となる「SAP S/4HANA®」に移行するにあたり、周辺システムの老朽化や、アドオンによる複雑化が課題となっていました。そこで、AI駆動ローコード開発プラットフォーム「OutSystems」を活用し、「クリーンコアなERP」を目指してアドオン機能をモジュール化し、周辺システムとして内製化する取り組みを始めています。
本プロジェクトは、2024年を導入期、2025年を拡大期、そして2026年以降を自走期と位置づけ、段階的に推進。電通総研は、OutSystemsの導入、周辺システムの開発、シチズン時計内での内製化を目指したエンジニア教育支援を行っています。
プロジェクトマネージャーを務める情報システム部 システム技術課 課長の菊池氏は、「SAPソリューションを取り扱う専門部隊とOutSystemsの導入部隊の両方を持つ電通総研のサポートにより、『クリーンコアなERP』の構築、業務プロセスの標準化、開発標準の整備という当初の目的を実現する未来が見えてきました」と語ります。
目次
「SAP S/4HANA」への移行を見据え、複雑化したシステム環境をクリーンに
電通総研は、常に我々の課題に真摯に向き合って多様なパターンの策を提案してくれます。それらを我々がしっかり理解し、納得したうえで選択することができ、非常に良いパートナーだと感じています
シチズン時計株式会社 情報システム部 システム技術課 課長 菊池氏
シチズン時計が基幹システムの見直しを始めたきっかけは、製造部門と販売部門で活用しているSAP ERP(ECC 6.0)を、SAP S/4HANAに移行する検討を始めたタイミングでした。
「当初、ERPのアドオン数は製造部門・販売部門ともに約1000本ずつ。まずはこのアドオン機能を整理したいと考えました。移行後も、数年ごとにバージョンアップをする必要があるので、その際のテスト工数を考えると相当の作業負荷がかかるという懸念もありました」と菊池氏は語ります。
増えすぎたアドオン数の原因は、もともと別会社や別事業で業務プロセスや内製化した仕組みが異なるものを
統合・システム化したことにあります。その際、さまざまな実装方法が採用された結果、複雑化が進みました。そのため、業務プロセスが部署ごとに異なり、部署をまたいだ商流変更などの際にも負荷がかかっていました。
「例えば、データ登録する際に基幹システムに直接入力する部署もあれば、サブシステムに登録したデータを基幹システムが参照する部署もあるといった具合でした。そこで、このタイミングで基幹システムの周辺機能に関する開発手法の標準化、品質の均一化を図りたいと考えたのです」(菊池氏)
これらの課題を解決するために同社が推進したのが、業務プロセスをシステムの標準機能に合わせる「Fit to Standard」の考え方。それにより、システムに組み込まれた機能を最大限に活用し、アドオンを極力抑えることで運用負荷を軽減する「クリーンコアなERP」を実現できると考えたのです。しかし、「クリーンコアなERP」を実現するには、これまで各部署で開発していた必要な機能をどこかで吸収しなければならない。それにはスピーディーかつ柔軟にシステムが開発できる「ローコード開発」に一本化し、開発の標準化、品質の均一化を図ることがよいだろうという結論にたどり着いたといいます。
本プロジェクトのパートナーを決める際に、複数のベンダーに相談したという同社。しかし、「技術や人員の問題で、条件に折り合う会社は非常に少ないことが分かりました」と菊池氏は語ります。
そんな中、電通総研から提案されたのが、OutSystemsを活用してアドオン機能を基幹システムから切り出すプランでした。OutSystemsは、各種アプリケーションの超高速開発を実現できるローコード開発・運用のプラットフォームです。中でも今回活用したOutSystems Developer Cloudは、クラウドを基盤とし、コンテナ技術を活用して、スケーラブルで高可用な環境を提供します。本プロジェクトを機にスクラッチ開発から脱却し、ローコード開発へ。また、内製化を加速させるために、システム担当者に向けたオリジナルの研修や導入後の伴走支援なども施策に盛り込まれていました。
電通総研はこれまでも、2020年から時計オーナーのための、コンシューマー向け会員制サービス『MY CITIZEN』、2022年からは法人向けの『Business Partner's Web』で顧客管理ソリューション『Salesforce』の導入のほか、業務の自動化を実現する『UiPath』、生成AIソリューション『Know Narrator』など、幅広い領域でシチズン時計をサポート。こういった実績から、「常に我々と同じ目線で課題を正確に捉え、ベストな提案をしてくれるという安心感がありました」と菊池氏は語ります。
加えて、SAPソリューションとOutSystemsに関する実績が豊富であったこと、内製化に向けた教育支援のきめ細やかさも大きなポイントでした。「OutSystemsの導入は、基幹システムと連携させて、多様な領域の内製ツールとして活用することも視野に入れています。電通総研にはSAPソリューションの専門部隊があり、OutSystemsとの連携実績も豊富。知見の幅広さと深さに加え、プロジェクト管理・遂行力、導入後の伴走支援、コスト説明の分かりやすさなどを総合的に判断して、電通総研と一緒にさまざまな可能性を追求していきたいと考えました」と菊池氏は語ります。
3つのフェーズに分けて、段階的にプロジェクトを推進
プロジェクト中に悩んだときには、電通総研のSAPソリューション専門部隊に『こうすれば実装できる』という知見をいただいて問題を解決できたことが山ほどあり、大変助かりました
シチズン時計株式会社 情報システム部 業務システム課 向氏
本プロジェクトは、SAP ERP(ECC 6.0)をSAP S/4HANAにアップデートすることを見据えて、基幹システムに関連する周辺業務や機能を整理し、OutSystemsで開発することを、3つのフェーズに分けて段階的に実施。その導入期と位置づけられたフェーズ1は、2024年7月から約半年間かけて、製造部門を対象に行っています。
「技術的なことは電通総研に一任し、電通総研の設計に対して我々がレビューする形で進めました。同時に我々はシステム開発の内製化に向けて勉強を開始。開発も学習も非常にスムーズに進んで、想定していたよりも早く完了した印象があります」(菊池氏)
そして現在は拡大期として、2024年10月から香港にあるグループ会社「CITIZEN WATCHES (H.K.) LTD.」を対象にOutSystemsの活用に取り組んでいます。システム構築の実務はフェーズ1よりも難易度を上げて、シチズン時計と電通総研が開発プロセスを前工程・後工程に分けて半分ずつ分担することに。電通総研のサポートを受けながら、シチズン時計が半自走することを目標に取り組みが進められています。
情報システム部 業務システム課の向氏は、「データ連携に関しては、一貫性を意識して設計しました。例えば基幹システムからリアルタイムでデータを参照するのか、OutSystemsのほうにデータを持たせるのか。重複してデータを持っているケースも多くあり、メンテナンスの観点からも整理する必要があります。フェーズ2ではこの検討に一番労力をかけ、最終的にはODataというプロトコルを使って前者の方法を実現できました。
例えば、CITIZEN WATCHES (H.K.)で使っていたレポート類のアドオン120本を60本ほどに削減。『Fit to Standard』を徹底的に実践することにこだわっています。電通総研のサポートを受けながら、我々もCITIZEN WATCHES (H.K.)とコミュニケーションを密に取ることで、納得のいく結果を得られる見通しが立ったと思います」と語ります。
今後、自走期となるフェーズ3を計画。当初は販売部門の基幹システムの周辺機能を移行し、同社内で自社開発から運用・保守までを実施できるようすることを目標としていました。
「プロジェクトを推進するにしたがって、OutSystemsの活用をもっといろいろな領域で模索しても良いのではないかという思いが社内に高まっています」と菊池氏。今後、同社で計画している時計のムーブメント製造領域のERP化という大規模プロジェクトが控えていることから、その準備を含めた体力づくりに充てることも視野に入れています。
動画やハンズオン研修により、効果的にスキルを獲得
OutSystemsの技術を習得することでシステム開発の内製化をより推進できます。これにより、アプリ開発のハードルが確実に低くなったとの声が社内からも上がっています
シチズン時計株式会社 情報システム部 システム技術課 米谷氏
各フェーズでは実務と並行して、電通総研によるスキルトランスファーが実施され、開発コアメンバーは、オリジナル研修を段階的かつ集中的に受講しました。フェーズ1の習得技術はデータ一覧機能と簡易帳票出力機能。また、OutSystemsを理解するために、12時間の動画でのオンラインセミナーと20時間のハンズオン研修が行われました。
研修を受けた向氏は、「動画での研修は、実際の作業画面を表示しながら、OutSystemsの基礎技術を体感的に習得することができました。言葉だけの説明よりも格段に分かりやすいですね。日本語版のほか英語版もあり、今後、海外展開の機会が発生したときには、とても役立つと感じました」と感想を語りました。
こうした研修を受けたのちに、実際に開発に携わった情報システム部の米谷氏も、「動画学習だけで終わるのではなく、電通総研による手厚いハンズオン研修が受けられたのは非常に良かったと思います。毎週のように課題が出て、翌週にチェックを受けて理解を深めていくということを約2カ月間にわたって繰り返しました。電通総研の担当者から定期的に、『課題は終わっていますか?』とお声がけいただいたのも、とても有難く感じました。課題のやり残しもなく、着実にスキルアップすることができました」と振り返ります。
さらにフェーズ2では、フェーズ1で習得した技術を使って、アドオンレポートや帳票の出力、クエリ(データを取得するための命令文)の作成、Web照会機能対応などを、実務を通して実践。米谷氏は、「フェーズ1で先を見据えた研修をしっかりやったため、フェーズ2でその成果を実感することができました。実際に、『課題のあのスキルを使えば実装できるのでは?』と気づくことばかりでしたね」と研修の手応えを語ります。
併せてフェーズ2では、フェーズ3での実務に備えて、伝票入力機能、高度帳票出力機能、アドオンテーブルによる情報保管機能など、より高度な技術も習得。これらの技術をフェーズ3では実戦で活用し、最終的に基幹システムの周辺機能をOutSystemsで自社開発できることを目指します。
「OutSystems」でのローコード開発をグループ内に横展開
本プロジェクトの成果について、「OutSystemsを活用したシステム開発の内製化の目途が、少しずつ見えてきました。開発コストの削減やセキュリティレベルの向上などが実現されたほか、『開発標準を作ろう』という当初の目標も形になりつつあります。現在、社内では『業務システムのポータルサイト』を作り、システム開発の内製化のためのガイドラインやノウハウをまとめています。今後このサイトを社内で活用していきたいと思います。」と話す菊池氏。
さらに、基幹システム以外の社内で内製している他のシステムも、OutSystemsと連携させる構想もあります。「例えば、完成品の販売経路の追跡システムなどの開発も視野に入れています」と、菊池氏は展望を語りました。
続けて、「フェーズ2で開発に携わったのは情報システム部の3名だったので、今後はもう少し規模を拡大できれば。グループ内にはシステム更新に課題を抱えている部署がたくさんあるはずなので、OutSystemsでの開発を横展開できればと考えています」と米谷氏。
向氏も、「フェーズ2で開発したCITIZEN WATCHES (H.K.)の周辺システムは、リリース後に修正が発生することもあり得ると考えています。その点、開発画面も教育資料も全て英語なので、海外展開はしやすいと感じました。ローカル内で仕様を検討してOutSystemsで改修できたら、開発業務の効率化にもつながると思います」と話します。
「今後もシチズン時計は、『クリーンコアなERP』の推進と業務プロセスの標準化、開発基準の均一化を目標に掲げて、システム開発を続けていきます。本プロジェクトをその足がかりに、電通総研と良好なパートナーシップを築きながら多様な可能性を模索していきたいと考えています」(菊池氏)
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※記載情報は取材時(2025年8月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。
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※OutSystems®はOutSystems-Software Em Rede S.A.の登録商標です。
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