日産自動車株式会社

CAEプラットフォームのマルチクラウド環境実現により次世代自動車開発を加速

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写真左より 日産自動車株式会社 ビジネスシステムソリューション本部 エンジニアリング デザインシステム部 主担 松原大氏、同部 山田匠氏

1933年設立の日産自動車株式会社。電動化、自動運転、コネクテッドカー、SDV(ソフトウェア定義型自動車)など大きなパラダイムシフトの渦中にある自動車業界にあって、技術革新に強みを誇る同社は世界のオートメーカーとしのぎを削り、2023年度の出荷台数は344万台、売上12兆6,857億円、営業利益は前年比51%の増益を達成しました。日産自動車は早くから開発インフラの脱オンプレミスを掲げ、とくに自動車開発の要とも言えるCAE領域でクラウド環境の構築を進めてきました。2020年のOracle Cloud Infrastructure (以下 OCI)への移行を皮切りに、2023年にはMicrosoft Azureを加えたマルチクラウド環境を構築。この一連の仕組みづくりを支援したのは電通総研でした。プロジェクトを指揮した日産自動車 エンジニアリング&デザインシステム部 主担の松原大氏は電通総研について「技術的にも組織的にも複数のクラウドサービスを活用したCAEプラットフォームの構築を任せられるベンダー」と評価しています。


脱オンプレミスとベンダーロック

「もう限界に達していました」と話すのは日産自動車ビジネスソリューション本部、エンジニアリング&デザインシステム部の主担を務める松原大氏。それは2016年のこと。当時、自動車設計の解析やシミュレーションを担っていたデータセンターの電力キャパシティが限界に近づいていたというのです。「自動車会社のデータセンターのなかで一番電力を消費しているのはCAEのためのHPC(高性能コンピューティング)システムです」と松原氏は話します。「衝突解析や空力解析などのHPCシステムはとくに電力を消費し、データセンターの電力キャパシティを増強するためには多大なコストがかかります」。

そこでコスト抑制の方策として浮上してきたのがクラウドへの移行です。CIOをはじめ、ISIT部門のクラウド化推進のかけ声のもと、日産自動車では2016年ごろから脱オンプレミスへと動きはじめました。しかし、それは一朝一夕に進むものではなかったと松原氏は振り返ります。

2018年、クラウドサービス上に解析用クラウドプラットフォームを展開したものの、1つのプラットフォームに集約することのメリットとデメリットを比較検討した結果、特定のクラウドベンダーに依拠することなく、脱オンプレミスを進める方針へと転換することにしました。


オラクルから戦略的オファー

そんなとき松原氏のもとにあるオファーが届きます。それはクラウドサービスとしては当時後発でもあるオラクルがエンタープライズ顧客向けに用意した提案でした。「私たちにとって技術的にもコスト的にもかなりメリットのある戦略的オファーでした」と松原氏は振り返ります。

「HPC用に最適化された構成や高速データ転送のRDMA(リモート・ダイレクト・メモリー・アクセス)といった特長も魅力でしたが、とくに惹かれたのはベアメタル環境です」と松原氏は振り返ります。「仮想化レイヤーを経由せずに直接ハードウェアにCAEの仕組みを構築できるベアメタルインフラは従来のオンプレミス環境との親和性が高く他社にはないメリットでした」。


IaaSによるマルチクラウド構想

この当時から松原氏にはCAEの仕組みについて思い描いていた構想があり、OCIの採用はその手始めともいえました。その構想とは複数のIaaSを活用したマルチクラウド環境下でCAEプラットフォームを運用するというもの。

そうすることでベンダーロックを回避しつつコンピューティングの最新技術を選択的に活用し、さらに必要に応じて計算リソースを柔軟に増減することができます。また、自社人材によるインフラの障害対応やアップデートといった運用管理上の負担からも解放されます。


CAEとクラウドどちらの知見もあるベンダー

しかしながら、そのためのベンダー探しは思ったほど簡単ではなかったと松原氏は打ち明けます。「何社かに声をかけさせていただきましたが、要望に応えてくれたのは一社だけでした」。その一社とは電通総研のオートモーティブチーム。「確かにほかのベンダーの方々にしてみれば、CAEをマルチクラウド環境で構築するという、こちらの要望を満たすにはそれなりの人材と組織が必要だったと思います。各ベンダーの最新のクラウド知識に加え、CAEの知識も必要ですから」と松原氏は続けます。「それを一から立ち上げるとなると、大変な仕事になります」。

一方、電通総研は2012年からクラウドベースのオンデマンドCAEサービスを展開しており、製造業のCAEニーズに応える組織的なフレームワークもすでに立ち上がっていました。


「構成面でも実用面でも美しい」

電通総研のサポートチームは要望を正確に理解し対応も的確でした

日産自動車株式会社 ビジネスシステムソリューション本部 エンジニアリング&デザインシステム部 山田匠氏

電通総研のサポートを得た松原氏のチームは、2020年、衝突解析、流体解析、構造解析など30あまりの解析/シミュレーションジョブをこなすCAEプラットフォームをOCI上に構築。

続いて2023年、このプラットフォームをMicrosoft Azureでも拡張させました。データストレージソリューションにはマルチクラウド対応のNetAppが採用され、クラウド間での円滑なデータ参照や解析ジョブの高速化に力を発揮しています。

日本を始めベトナムやインドなど世界のエンジニア数百名が活用するこのCAEプラットフォーム、電通総研とともに構築にあたったエンジニアリング&デザインシステム部の山田匠氏は「構成面でも実用面でも美しいかたちに仕上がった」と話しています。

「自動車開発でも特に重要な衝突解析にMicrosoft Azureの最新プロセッサGenoa-X(ジェノア・エックス)を利用できるのは大きい」と山田氏は話します。「高い並列処理能力と大容量キャッシュを特長とするこのプロセッサは膨大な計算リソースを必要とする解析やシミュレーションに非常に有効です」。

一連のプロジェクトを終えて山田氏はともに作業にあたった電通総研のチームについて「ユーザーの要望を正確に理解し、対応も迅速で的確だった」と評価しています。


次世代自動車開発への強固な足がかり

プロジェクト全体を通じて電通総研は期待通りの仕事をしてくれました

日産自動車株式会社 ビジネスシステムソリューション本部 エンジニアリング デザインシステム部 主担 松原大氏

いま大きなパラダイムシフトが押し寄せている自動車業界。中国勢が勢いを増すグローバル市場において次世代自動車の開発競争は年々熾烈さを増しています。そんな中、日産自動車は今回のプロジェクトを通じて高次なクルマ開発を進めるための強固なインフラを手にしたといえるでしょう。

「電動化や自動運転への流れが加速するなか、いまCAEへの要望も多様化、高度化しています。私たちはその要望にすばやくタイムリーに応えていかなれればなりません」と話す松原氏。「今回のプロジェクトによってひとまずそのための足がかりが整いました。プロジェクト全体を通じて電通総研は期待通りの仕事をしてくれたと思っています」。


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社名:
日産自動車株式会社
本社:
神奈川県横浜市西区高島一丁目1番1号
設立:
1933年12月26日
資本金:
6,058億13百万円(2024年3月末現在)
従業員数:
24,034名(単独)/133,580名(連結) (2024年9月末現在)
主要事業:
自動車の製造、販売および関連事業
  • 記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
  • 記載情報は取材時(2024年6月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。

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