電通総研コンパス vol.13 これからの防災を考えるための意識調査
~地域における防災意識と災害の自分ごと化

いつどこで起こるかわからない地震。また年々激甚化が叫ばれている水害や土砂災害は気候変動の影響もあって従来よりも多くの地域で被害が出ています。電通総研では、「これからの防災を考えるための意識調査」として全国1万人を対象に調査を実施いたしました。本記事では、地域における防災意識と災害の自分ごと化に向けた取り組みにフォーカスします。

◎電通コンパス vol.13「これからの防災を考えるための意識調査」レポート新しいウィンドウでPDFファイルを開きます

第1回:防災・減災の自分ごと化に向けて
第2回:自然災害に備えていま改めて考えたい、身近な人との繋がり

自然災害の現状

2024年1月に発生した能登半島地震は、多くの被害をもたらしました。8月8日には日向灘を震源とする地震が発生し、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。直近20年では、震度5強以上の地震が日本全国で133回※1発生しています。その中で、2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震、そして今年の能登半島地震と震度7を観測した地震も発生しています。そして、南海トラフ地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震などといった巨大地震も近い将来、発生すると予測されています。日本の国土面積は全世界の約0.25%に過ぎませんが、2011年~2022年に世界で発生したマグニチュード6.0以上の地震は、全体の16.9%が日本周辺で発生しており※2、このような巨大地震はいつ起きてもおかしくない状況です。

画像引用:内閣府防災情報のページ「地震災害」

自然災害は地震に限ったことではなく、近年、災害の激甚化が顕著に表れている台風や線状降水帯などによる豪雨や土砂崩れの被害も看過することはできません。地球温暖化に伴う気候変動の影響により、今後さらに降水量が増大することも予測されており、大規模な水害・土砂災害の発生が懸念されています。2012年~2021年の10年間には、全国の市町村の約98%で1回以上の水害・土砂災害が発生し、そのうち半数以上の市町村で10回以上の水害が発生している状況です※3

 

 

 
画像引用:内閣府「市町村のための水害対応の手引き(令和6年5月改訂)」

地域における人びとの防災意識

日本各地で発生している自然災害と共存している私たちの防災意識はどのような状況なのでしょうか。「これからの防災を考えるための意識調査」では、さまざまな自然災害において、「自分が被災すると思うか」を伺いました。「震度5強以上の地震」について自分が被災すると思うかという項目では、「そう思う」「ややそう思う」が全体で67.1%。都道府県別でみると、石川県が90.8%、宮城県が90.4%、熊本県が86.3%と、近年、大地震を経験した地域が高い傾向がありました(図1)。「水害・土砂災害(計)」で見てみると、「そう思う」「ややそう思う」が全体で39.0%。都道府県別でみると、徳島県63.5%、広島県63.0%、岡山県61.4%と、地震と同様に近年水害被害があった地域が高い傾向にありました(図2)。自然災害は地域特性によるものも大きいですが、人びとの被災に対する危機意識もそれに関連して地域による差があることがわかりました。

 
図1 自分自身が被災する可能性がある(震度5強以上の地震)  (%)


 
図2 自分自身が被災する可能性がある(水害・土砂災害 計)  (%)

次に「自分が自然災害に遭う可能性は高いと思うか」を尋ねたところ、全体では、63.0%が「高いと思う」という結果でした。都道府県別では、「高いと思う」が8割を超える地域がある一方で、「高いと思う」が5割に満たない地域もありました(図3)。さらに、「自然災害を身近に感じている」か「自然災害は自分には縁遠いものだと感じている」かを尋ねたところ、全体で74.0%が「身近に感じている」と回答した一方、約4人に1人の26.0%が「自分には縁遠いものだと感じている」と回答しました。こちらも都道府県別で差が出ており、「身近に感じる」が9割を超える地域がある一方で、「身近に感じる」が6割にとどまる地域もありました(図4)。自然災害に対する意識は過去の被災経験や住んでいる土地の地域特性などによっても変わってくると思います。災害を自分ごと化するためには、いかに災害を身近なものとして捉えてもらい、備えに向けた行動に移してもらうかが重要ではないでしょうか。

 
図3 自分が自然災害に遭う可能性は高いと思うか



 
図4 自然災害を身近に感じている・縁遠いものだと感じている

災害を自分ごと化するために

災害を自分ごと化させる取り組みとして、2024年5月に内閣府および国土交通省から「NIPPON防災資産」認定制度が発表されました。この制度は、過去の災害を知ることで自然災害を「自分ごと」として考え、それぞれが備えを進めるなど防災行動を変えることを目的としています。

「NIPPON 防災資産」では、その地域で発生した災害の状況をわかりやすく伝えるための施設や、過去に発生した災害の状況や経験、教訓などを伝承する語り部、祭り、防災教育、遺構ツアー、インターネットでの発信などといった活動が認定の対象です。

基準として、以下の四つの項目をもとに評価がおこなわれる予定です。
 ①事実:災害に関する事実など基本的な情報を含むもの
 ②リアリティー:行動を起こす動機づけにつながる内容を有するもの
 ③教訓:知識や教訓が存在し、備えにつながるもの
 ④深化 : 深い学びや行動に結びつく手がかりがあるもの

今後、「NIPPON防災資産」の取り組みや災害の自分ごと化に関する情報発信を通じて、人びとの防災に対する意識変容を促し、災害による犠牲者を一人でも減らし、持続可能な地域社会の構築が期待されています。

 
「NIPPON防災資産」のロゴマーク

最後に


「まさか自分は自然災害に遭うはずがない」「自然災害に遭っても自分は何とかなる」といったような根拠のない思い込みが、災害の自分ごと化を妨げているのかもしれません。日本列島に住んでいる以上、さまざまな自然災害の脅威から逃れることはできません。それでも、今、防災の意識を高めること、減災に向けて行動をすることが、一人でも多くの命を救い、被害を最小限に減らすことにつながってくると思います。そのためには、地域で起きた過去の災害から学ぶことも一つの方法だと思います。地域の未来のために、先人たちが残した災害の教訓から学べることは多々あるのではないでしょうか。そして、学んで終わるのではなく、災害が起きた時にどのようなことが予測されるのか、どのような行動をとることが必要かをイメージし、実際に行動へ移すことが重要です。災害が起こってからでは遅いのです。平時から備えなければなりません。今すぐにでも「生きるための備え」を始めることが必要です。それは自分自身の命を守るだけでなく、持続可能な地域社会の構築にも寄与するのではないでしょうか。


■調査概要
 調査時期:2024年4月8日~4月11日
 調査方法:インターネット調査
 対象地域:全国
 対象者:18~69歳の男女 ※学生を含む
 サンプル数:10,000人(都道府県×性年代の人口構成比に合わせて回収)
  • グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。
  • 本調査(10,000サンプル)の標本サイズの誤差幅は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると±1.0%となります。

執筆:合原兆二

お問い合わせ先

本調査に関するお問い合わせ先
qsociety@dentsusoken.com
担当:山﨑、中川、小笠原、合原

スペシャルコンテンツ