電通総研コンパス vol.13 これからの防災を考えるための意識調査
~防災・減災の自分ごと化に向けて~

元々自然災害の多い日本列島ですが、昨今ますますその被害が激甚化しています。はたして私たちは、自然災害を自分ごととして捉え、防災・減災に向けた意識や行動をアップデートできているでしょうか。電通総研では「これからの防災を考えるための意識調査」として、2024年4月に全国18~69歳の計10,000人を対象に調査をおこないました。

◎電通コンパス vol.13「これからの防災を考えるための意識調査」レポート新しいウィンドウでPDFファイルを開きます

1.防災について考えること、話題にすること

防災について「考える」きっかけやタイミングとしてもっとも多かったのは「災害が発生したニュースを見た時」70.8%で、続いて「災害発生が予想される天気予報を見た時」41.5%でした。これらは災害発生後や発生の危険性が高まっている時です。必ずしも自身の居住地域の情報とは限りませんが、日本もしくは海外のどこかで災害が発生した/発生しそうだという状況にあることが、防災を意識させています。

ここで注目したいのは25%前後(4人に1人程度)が回答した、平時におけるきっかけです。「『防災の日』など、過去に大きな災害が起きた日」26.6%、「自然災害が描かれた映画・ドラマなどを見た時」25.5%、「被災者や災害の実態を知る人が、災害について語るのを見たり聞いたりした時」24.2%、「過去に大きな自然災害が起きた地域を訪れた時」23.4%が挙げられています。このように、平時においても自然災害を意識するきっかけや場所があることがわかりました。

また「家族や知人と防災について話題にする」きっかけやタイミングとしては、その順位は「考える」とほとんど同じですが、10ポイントもの差が出ている項目が多く、考えるきっかけにはなっても、身近な人との会話に出る割合は相対的に低いことがわかります。

2.防災・減災のための備え① ― 購入、備蓄、定期交換・保管

量販店や通販で「防災グッズ」という商品カテゴリを見かけるように、防災・減災のための備えとは、役立つ物を購入したり備蓄したりすることだと考えている人もいるのではないでしょうか。本調査では、実際におこなっている備えは「自宅に家族3日分の食料を備蓄する」22.1%、「日常生活で備蓄を使用し、常に新しいものに入れ替える(ローリングストック)」16.8%となりました。この数値は決して多いとは言えませんが、もしもの時に備えて必要な物・役立つ物を購入し、備蓄し、定期交換したり保管したりする行動をとる人が2割程度存在していることがわかります。

気候変動による災害の激甚化と関連するとして、水害や土砂災害について近年警鐘が鳴らされていますが、水害や土砂災害を意識した物品購入をしている人はいずれも少数でした。本調査で尋ねた項目のように、地震への備えと水害や土砂災害への備えではその内容が異なり、止水板や水のう、避難用ボートなどの物品のほか、浸水してきた水に触れた体や自宅を消毒・殺菌をする薬剤が欠かせません。さらに、水に濡れない保管方法や水没しても食べられる食料といった異なる視点の備えが求められています。

3.防災・減災のための備え② ― 避難、家族、自宅、訓練、災害伝承

次に、物品購入や備蓄以外の備えについて見てみると、「自宅や職場・学校周辺のハザードマップや避難場所を調べる」20.6%、「家族で避難場所、集合方法、連絡方法について話し合う」18.0%、「自宅の中を安全にする(家具の固定、ガラス飛散防止など)」16.0%が挙がりましたが、約2割に留まります。そのほか、災害発生時に命を守るための備えの項目「自宅そのものを安全にする(耐震・免振工事、基礎の底上げや防水フェンス設置など)」5.5%、「ガラスや看板などが落ちたり、倒れたりしそうな危険な場所を確認する」4.9%のいずれも低く、備えが不十分であることがうかがえます。

また、家族との集合や連絡について尋ねた三つの項目はいずれも1割を超えていますが、「話し合う」18.0% →「決める」15.8% →「試す、確認する」13.1%と少しずつ数値が低くなっています。もしもの時に対応できるところまで準備できていない様子が見られました。

過去に起きた大きな自然災害の教訓を得られる機会や場に触れて自分ごと化することも、災害への備えのひとつと考えられます。しかし、被災地の実体験をもつ語り部の話を聞いたり、日本各地にある災害の痕跡を訪れたりするといった行動を起こしている人はまだ少ないのが現状です。

4.考察、防災・減災の自分ごと化に向けた示唆

本調査では自然災害に対する考えも尋ねており、「自分が自然災害に遭う可能性は高いと思う」と回答した人(計)は63.0%でした。このように、自分自身が被災する可能性を高いと考える人が半数を大きく超えているにも関わらず、防災・減災について考える機会をもち、身近な家族や知人との話題にし、さらに実際に備えるところまで行動している人は、とても少ないことが浮き彫りになりました。災害への備えが進まない理由には、どこか「他人ごと」になっていることが背景にあるのではないかと推測します。

自然災害はいつ何時どのような規模で起こるかわからないという側面もあります。数年以内に起きるとは限らない、必ずしも人生の中で遭遇するとは限らない。自然災害に遭う可能性は低いと思っている人もいます。それゆえに、備える行動をする、お金を使うといった意思決定を先送りしがちです。防災グッズにしても自宅を安全にする工事についてもお金がかかるので、簡単に決断できない気持ちはよくわかります。しかし、自然災害が起こる度に聞こえてくる「まさかこんなところで起きるとは思ってもいなかった」「想定外だった」という被災者の切実な声に耳を傾け、自分のこととして捉えて行動を起こす必要があるでしょう。

また、防災について考えるきっかけがあっても、身近な家族や知人と防災について話していない、そして行動にも移していないことからは、誰かが何とかしてくれると楽観的に捉えている姿が想像できます。その誰かとは「公助」や「共助」、つまり、国や自治体、職場や学校など公に近い側面をもつ法人やコミュニティを想定している可能性もあります。しかし、もっとも大事なのは災害発生時に身を守ること。それができるのは自分自身かすぐ側にいる人です。例えば、今この時に災害が起きたことを想定して、自分自身や家族がその時どうするかを思い描くことから始めてみること。そして、身近な人と話し合うことで考えを深め、防災・減災に向けて備える行動へと移すこと。失いたくないものは何か、それを守るための備えには何が必要かを「自分ごと」として考えてみてはどうでしょうか。

日本列島は自然災害の多いところです。それは、自然環境の豊かなところでもあるということです。私たちは自然と共生し、自然の恩恵を受けると同時に自然災害との向き合い方を常にアップデートしていくことが求められています。そして、大きな被害をもたらす地震や気候変動による災害の激甚化は、世界各地の国・地域で起きています。自然災害の多い日本の知恵を世界で少しでも役立てられるよう、まずは日本に住む私たちが「自分ごと化」して備える行動を始めたいものです。

■調査概要

調査時期
2024年4月8日~4月11日
調査方法
インターネット調査
対象地域
全国
対象者
18~69歳の男女 ※学生を含む
サンプル数
10,000人(都道府県×性年代の人口構成比に合わせて回収)

※グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。

※本調査(10,000サンプル)の標本サイズの誤差幅は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると±1.0%となります。


Text by Mayumi Nakagawa


お問い合わせ先

本調査に関するお問い合わせ先
qsociety@dentsusoken.com
担当:山﨑、中川、小笠原、合原

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