自律型人材育成の成功のポイントは組織の一体感の醸成から始めること
安松 亮 株式会社電通総研
コンサルティング本部 ビジネスデザイン第1ユニット
コンサルティング1部 シニアマネージャー
上野 広夢 株式会社電通総研
コンサルティング本部 ビジネスデザイン第1ユニット
コンサルティング1部 コンサルタント
第1回、第2回と「人・組織のあり方を考える」というテーマのもと、我々の目指す組織像「自律調和型組織」のご紹介やHRフォーラム2024の講演より「自律型人材の育成のポイント」について、ご紹介してきました。
第1回 人的資本経営時代における人・組織のあり方を考える
( https://www.dentsusoken.com/case_report/column/20240620/2584.html )
第2回 電通総研HR フォーラム2024から得た考察と私たちの見解
社員が「イキイキ・ワクワク」働ける環境づくりに重要な3つのポイントとは
( https://www.dentsusoken.com/case_report/column/20240809/2633.html )
その中で、自律型人材=自律性×一体感とお伝えしてきましたが、第3回は「自律型人材」の定義についてのより詳細な説明と自律型人材育成の成功のポイントについて、具体的にご紹介していきます。
自律型人材が求められる背景
様々な技術の発展により、ビジネスの世界は不確実性や曖昧さが増し、VUCA時代と呼ばれています。正解がなく・変化が激しい時代であるため、この時代を生き抜くには、自らゴールを設定し、そのゴールまでの道を切り拓く力や外部環境の変化に適応し続ける力が必要になりました。このような力のある人材を我々は「自律型人材」と呼んでいます。
この力のある人材(自律型人材)を獲得・維持・育成することが企業に求められており、それが人的資本経営や人的資本の情報開示などに表れています。今回はその中の育成についてお話していきます。
自律型人材育成の悩み
自律型人材の育成に取り組む中で、我々がよくお伺いする悩みがいくつかあります。
皆さまも以下のような悩みを持ったこと、聞いたことはないでしょうか。(図1)
冒頭で、自律型人材は自らゴールを設定し、そのゴールまでの道を切り拓く力や外部環境の変化に適応し続ける力のある人材とお伝えしました。しかし、悩みを見ていくと、自律性を高めるとネガティブな事象に繋がっているケースがほとんどです。では、自律型人材とは何なのか、どうしてそのような事象が発生してしまったのか、どうすれば育成できるのか、我々の考えと研究結果の一部をご紹介していくことで、この問いへの回答をしていきます。
電通総研の考える自律型人材とは
自律型人材とは何かを考えるにあたり、まずは“自律”について考えてみます。自律を辞書で調べてみると、「他からの制約を受けることなく、自分で決めた規範に従って自分の行いをコントロールすること」とある。これは、自分でレールを敷くという“自己意思・自発性”の観点と、自分の行いを自分の規範に従いコントロールするという“プロセス制御性”の観点が含まれていると解釈できます。
かつて省察的実践の概念を提唱したドナルド・ショーンはこう言いました。
「高度に科学技術が発展し専門化が進む現代社会では不確実性が増し、解決すべき問題は所与のものではなくなる。何を解くか、何を行うかは誰かが教えてくれるのではなく、世の中の動きを読み取り、自分で決めなければならない。正しい課題解決のためには、正しく問題を発見し認定することの方が、正しく問題を解くことよりも重要である」と。
ビジネスの世界でVUCAが叫ばれるよりもずっと前に、物事の本質を捉えた鋭い洞察であると感じます。電通総研では、ビジネスを進めるにあたり、この課題は所与のものではないという考えのもと、自律について次のような解釈をしています。(図2)
自律とは、自ら課題を設定し、解決のための仮説立案と実行ができる。そのために、自分がやりたいことに自信を持って、粘り強く取り組むことができる。
我々は、前半部分の“課題設定と仮説立案・実行をする”ために、自分がやりたいことに自信を持ち、粘り強く取り組むという“自己有能感と継続性”の観点を加えた解釈をしている点が、一般的な定義と少し異なる部分となります。
それでは個人が自律性を発揮すると何がうれしいのでしょうか。我々は、従業員が自らの意思で業務の取り組み方や方向性に様々な視点を加えることにより、組織に多様性が生まれると考えています。一方で、個人が自律性を発揮せず上からいわれたことだけをやっていると、画一的で多様性は生まれない。このように組織に多様性が生まれると、色んな物の見方ができるようになるので、外部の様々な変化に素早く対応できるようになります。
ここで先述の「個人が自律性を発揮するのはよいが、好き勝手バラバラなことをされては困る」という“組織視点の悩み”が湧いてきます。確かに組織に生まれた多様性が組織のパフォーマンスに繋がればよいですが、みんながバラバラなことをし始めると、返って逆効果になってしまいます。そこで、個人の自律性発揮と同時に必要になるのが、組織の一体感を醸成することなのです。
皆さんが組織に所属しているということは、組織が皆さんを惹きつけている、すなわち、組織が集団凝集性を有していると解釈できます。我々は、企業の組織に必要な集団凝集性として、課題達成的凝集(この組織なら自分がやりたいと思うことができる)と対人的凝集(この組織のメンバーと働きたいと思える)があると考えています。これら二つの凝集性があることにより、組織は一体感を醸成できるのです。(図3)
以上より、我々が考える自律型人材とは、個人が自律性を発揮し、組織との一体感がある人材とまとめることができます。自分自身が発揮する自律性を組織において活かせることこそが、今求められる真の自律型人材であると我々は考えています
自律型人材を育成するのに必要なのはまず一体感を醸成すること
自律型人材=自律性×一体感と定義づけましたが、育成するには順番があります。組織がまずやるべきことは一体感の醸成です。先述のお悩みに合わせていうならば、メンバーにだけ自律性の向上を求めても効果は得られず、まず組織が変わらなくてはならない。組織側にメンバーの自律性向上を受け止めるだけの環境を整えることが先決ということです。
では、どうすれば一体感が醸成できるのでしょうか。分析の結果から組織が一体感を醸成するのには8つの業務環境が影響していることが明らかになりました。
一体感を醸成するのに必要な8つの業務環境
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1.全社ビジョンへの共感
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2.所属部署のビジョンへの共感
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3.自身の可能性拡大
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4.適正なキャリア形成
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5.ロールモデルの有無
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6.見習いたい人・競いたい人の有無
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7.意見の受け入れやすさ
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8.居心地の良さ
続いて、これらを2つの指標に分類して見ていくことにします。
課題達成的凝集指標
「全社ビジョンへの共感」「所属部署のビジョンへの共感」「自身の可能性拡大」「適正なキャリア形成」が該当しています。これはすなわち、組織が掲げる方向性に共感し、自分自身の可能性や将来性を見出せると解釈することができ、まさに「この組織なら自分がやりたいと思うことができる」感覚と捉えることができます。
対人的凝集指標
「ロールモデルの有無」「見習いたい人/競いたい人の有無」「意見の受け入れやすさ」「居心地の良さ」が該当しています。これはすなわち、自分の組織に目標とする人がいる、さらに意見を聞いてもらえると解釈することができ、まさに「このメンバーと働きたいと思える」感覚と捉えることができます。
つまり、一体感を醸成すること≒課題達成的凝集指標と対人的凝集指標が高めることから自律型人材育成は始まるのです。
本日は電通総研の自律型人材の定義と育成する順番についてポイントを抜粋してお伝えさせていただきました。当社では自律型人材育成支援やマネジメントの意識・行動変革支援を行っております。自律型人材育成やマネジメントの意識・行動変革などにお悩みをお持ちの方はぜひ当社へご相談ください。
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