電通総研HR フォーラム2024から得た考察と私たちの見解
社員が「イキイキ・ワクワク」働ける環境づくりに重要な3つのポイントとは

人的資本経営時代における人・組織のあり方を考える 第二回

高橋 舞 株式会社電通総研
コンサルティング本部 ビジネスデザイン第1ユニット シニアエキスパート

中野 ほたる 株式会社電通総研
コンサルティング本部 ビジネスデザイン第1ユニット コンサルティング1部 コンサルタント

2024年5月23日(木)に東京コンファレンスセンター・品川にて、「電通総研HR フォーラム2024」を開催いたしました。電通総研 HRフォーラムは 【ヒトを信じ、日本の「はたらく」を変える】をテーマに、人事領域にかかわるすべての方々との有益なコミュニケーションの創出を目指しています。初めての開催ではありましたが、300名を超える方々にご参加いただきました。
初回である今年は【「いままでにない総研」と描く人事・新時代「はたらくを変える」の舞台裏 】をキーメッセージに、様々な分野でご活躍されている方々にご講演いただきました。
イベントの概要についてはこちら:https://www.event-info.com/hrforum2024/新しいウィンドウで開きます

ここ数年で「人的資本経営」という言葉が定着しており、昨年始まった有価証券報告書での開示要請も今後さらに高度化するものと見込まれています。人手不足の状況が続いていることもあり、どの企業でも人材の価値最大化に向けて様々な取り組みが進められています。
当社では、「タレントマネジメントの仕組み構築」「人材ダッシュボード構築」「エンゲージメント調査と向上施策の実行」などのコンサルティングサービスを通して、経営層から現場まで、企業で働くすべての人々が「イキイキ・ワクワク」働ける環境づくりを、人事部門のみならず事業部門との伴走を通じて支援しております。
本稿ではまず、当社コンサルティング本部のメンバーが、HR フォーラムの基調講演・ゲスト講演から得たインサイトを、「イキイキ・ワクワク」という観点からまとめ、企業における人材価値の最大化に向けてどのような取り組みが必要かについてお届けします。
また後半では、HRフォーラムでも登壇したコンサルティング本部 高橋より、「自律型人材育成の要諦~全社人事と事業部門(HRBP)の役割と育成~」の講演についてお伝えいたします。

社員が「イキイキ・ワクワク」働ける環境づくりに重要な3つのポイント

  • 1.
    データを活用した人材の適材適所化
    人材データの活用は、企業の人材戦略において重要な要素です。しかし、データはあるものの上手く活用できていない、活用方法がわからないという企業も多くあります。
    HRフォーラムでは、自社内で活躍している人材、採用している人材、採用活動に携わっている人材のパーソナリティデータを可視化し、企業に適した人材採用を可能にした事例が紹介されました。パーソナリティデータの可視化により、企業は適切な人材採用を行い、組織のパフォーマンスを向上させることができます。また、採用すべき人材像をデータで可視化したことで、面接の評価を均一化でき、採用フローの見直しにもつながり、自社が求める人材を適切な採用フローで見極められるようになりました。この取り組みから、ただデータを使うだけではなく、そのデータをどう読み解き、どう活かすかという視点が大切であり、それこそがパーソナリティデータの可視化の真骨頂と言えます。
  • 2.
    ビジネスの成長にはEX(従業員体験)の向上が必要不可欠
    コロナ禍でリモートワークが拡大し、個人の意欲や価値観が多様化しました。特にZ世代では、自分の自由時間を重視する傾向が強まっています。組織と個人の関係性も時代とともに変化し、「企業が人を選ぶ時代」から「選ばれる時代」へと移行しました。
    人口減少も相まって、人手不足が加速する昨今、選ばれる企業になるためには、EX(Employee Experience:従業員体験)を向上させることが重要です。企業文化の変革、コミュニケーションの活性化、一体感の醸成等EX向上への取り組みにより、従業員がモチベーション高く働き続ける環境を整えることこそが、結果的にビジネスの成長につながるのです。
  • 3.
    人的資本時代におけるキャリア開発の重要性
    人的資本経営では、個人のキャリア志向を支援する企業の姿勢が重要です。
    昭和、平成、令和と進むにつれ、個人の意欲や価値観だけでなく、「人」に対する考え方も大きく変わってきました。昭和では「人的資源」として扱われていた人材は、平成になるとより戦略的な「戦略的人的資源」として認識され、令和の現在では「人的資本」として、人材が単なるコストではなく投資の対象として位置付けられるようになりました。これがいわゆる“人的資本時代”です。
    人的資本時代においてカギを握るのは、キャリア開発の考え方です。企業は個人がやりたいことを応援し、その実現を支援する姿勢を持つことが求められます。そして、それを企業内で可能にする制度を整えることが必要です。
    「プロティアン・キャリア」とは、個人が自らのキャリアを自由に設計し、時代の変化に柔軟に対応する姿勢を指します。企業がこのプロティアン・キャリアを支援することで、従業員は自分の能力を最大限に発揮し、新しい挑戦に積極的に取り組むことができます。例えば、従業員がさまざまな部門で経験を積むことができる職務ローテーション制度の導入や、副業・兼業の解禁による社員の自己実現や複数のキャリアパスを模索するための支援等です。個人がやりたいことを支援することで、組織の垣根を越えたチャレンジングな取り組みが促進され、個人と組織のコミットメントが高まります。

3つのポイントを通して
企業は人材データの可視化を通じて、自社に必要な人材や適した人材を客観的に定義し、適切な人材採用や、組織のパフォーマンス向上を実現できます。個人の適性と企業が求める人材像との間に生じるギャップを防ぐことにもつながります。さらに、人材の従業員体験(EX)を向上させ、社員の「プロティアン・キャリア」を支援する施策を推進することで、社員がイキイキ・ワクワクと働ける環境を作り出し、個人のキャリアを尊重しつつも優秀な人材の流出を防ぐことが可能になるのです。
一見個々の取り組みに見える1~3の内容は関連性が非常に強く、すべては企業と従業員が互いに成長し続けるwin-winな関係を築くことにつながっているように感じます。これこそが人的資本経営の本質なのではないかと考えています。

電通総研コンサルティング本部講演「自律型人材育成の要諦~全社人事と事業部門(HRBP)の役割と育成~」

ここからは、HRフォーラムにおいて電通総研コンサルティング本部が講演した内容についてポイントをお伝えできればと思います。

電通総研コンサルティング本部では、2022年より立命館大学MOT大学院の枝川義邦教授と自律型人材について研究をしております。自律型人材を育成しようとして人事が様々な制度施策を展開してもなかなか思うように結果につながらない(=イキイキ・ワクワクできない)のは何故なのか?枝川先生の研究分野である脳神経科学の知見も交えて調査を実施、分析した結果をお伝えします。

自律型人材=個人の自律性×組織との一体感

みなさまは「自律型人材」をどのように定義されていますか?自律型という言葉のインパクトから「自律型人材=個人が自律性を発揮できる」といったような定義をされている方が多いのではないでしょうか?

枝川先生との調査から、自律型人材=個人の自律性×組織との一体感ということが分かってきました。図1にあるとおり、自律型人材は個人が自律性を発揮するだけでは不十分で組織との一体感も兼ね備えている必要があります。この組織に一体感があるとは、組織が人を引き付けている、すなわち、集団凝集性がある状態を意味します。我々は組織に必要な凝集性として、課題達成的凝集性(この組織なら自分がやりたいことができる)と対人的凝集性(このメンバーと働きたい)があると考えています。このような自律型人材の要件を踏まえて、人事施策を企画展開していくことが重要といえるのではないでしょうか。また、自律型人材に寄与する要件は、年代によって重みが違うことも調査分析を通じて分かってきました。20代などの若手は、自律性よりも一体感の方が自律型人材スイッチとして機能しますが、30代以降ベテランになってくると自律性に関するスイッチをいかに押すかが重要になってきます。

図1:自律型人材の要件

自律型人材育成のキーパーソン=HRBP

昨今HRBP(HRビジネスパートナー)の存在が注目を集めています。大企業においては約3割の企業でHRBPの設置が進んでいるというデータもあります。以前は“事業部人事”という呼ばれ方もしていたように、事業部専属人事として、人組織の面から事業成長を促すという事業部門長の“ビジネスパートナー”としての役割が期待されています。

事業部において現場メンバーと近い距離にいるHRBPこそ、自律型人材育成のキーパーソンといえますが、なかなかHRBPとして活躍しきれていないというのが現状です。電通総研コンサルティング本部が2023年にHRBP300名に対して実施したアンケートからも、「労務管理仕事に忙殺されてしまいHRBPらしい仕事ができない」「HRBPに求められるレベルが高くスキルが追い付かない」「全社人事側と事業部側から期待される役割定義があいまいになりがち」といった課題感が浮き彫りになりました。

HRBPの活躍は自律型人材育成の成果に直結します。全社人事としてもどうすればHRBPが能力を最大発揮できるのかサポートする必要があると考えます。ただし、一足飛びに理想のHRBPを求めるのではなく一歩一歩レベルアップできるようなステップが必要だと考え、電通総研コンサルティング本部では、そのレベルをHRBP0.0からHRBP3.0まで設定しています。

図2:HRBPの成熟ステップ


本日はHRフォーラムでの講演について、ポイントを整理してお伝えさせていただきました。
冒頭でもお伝えした通り、当社ではタレントマネジメントの仕組み構築から人材ダッシュボード構築をご支援したり、エンゲージメントサーベイの結果からエンゲージメント向上施策を実行するなど、企業で働くすべての人々が「イキイキ・ワクワク」働ける環境づくりをサポートしております。
人的資本経営の実践に向けたお悩みをお持ちの方、自律型人材やHRBPの設置等に関心がある方はぜひ弊社下記よりまでご相談ください。

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TEL:03-6713-5700
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