ジェネレーティブデザインのシステムを構築
設計現場でのAI活用の道を拓く
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写真左より、東海興業株式会社 設計部 設計1課 係長 宮崎善弘氏、同社 上席執行役員 和藤恭弘氏、同社 設計部 イノベーション推進課 課長 近藤有紀氏、同部 機能評価課 副参事 神川義一氏
1947年の設立以来、長年培った技術力とグローバルな製造体制を強みとしてきた東海興業株式会社。同社は自動車用シール部品を中心に、高品質な製品群を国内外へ広く展開しています。
同社が2020年に策定した中期経営方針で掲げたのは「開発効率の向上」。その背景には、自動車メーカー(OEM)からの高度な要求や、圧倒的なスピードで台頭する海外勢に対する強い危機感がありました。「これまでの地道な工夫や改善の延長では立ち行かない。市場やお客様の変化に応えるには、さらなる開発効率の向上が不可欠でした」と上席執行役員の和藤恭弘氏は語ります。設計者ごとにばらつくスキルや共有されない知見といった長年の課題を打ち破る改革が始まりました。
2023年、この取り組みを新たなアプローチで推進するため同部のプロジェクトチームは電通総研をパートナーに迎え、AI技術を活用したジェネレーティブデザインのシステム構築に着手しました。そして2026年、主力製品の複雑な断面形状を自動生成させる一連のシステムを構築。このシステムにはサロゲートモデル※1、形状生成AIといったAI技術のほか設計要件に基づいて最適な形状候補を探索する最適化フレームワークなどが組み込まれています。
現在は実業務への適用に向けた更なる精度向上や対象領域の拡大を見据え、教師データの拡充を進めながら現場でのジェネレーティブデザインシステムの活用を本格化させています。同プロジェクトを指揮した和藤氏は今回構築された仕組みについて「これまでになかった断面形状が生成された事例もあり、可能性を感じている」と話します。
目次
断面形状を自動生成できないか
ジェネレーティブデザインは従来の設計者の役割を書き換える大きな転換点になります
東海興業株式会社
設計部 設計1課 係長
宮崎善弘氏
「とにかく手戻りをなくさなければ」。東海興業で長年設計業務にたずさわっている和藤恭弘氏は同社の開発現場の課題をそう振り返ります。
2020年に策定された中期経営方針で「開発効率の向上」が掲げられて以来、和藤氏はその目標達成のため設計現場の手戻り削減に取り組んできました。設計者ごとにばらつきのあるスキルや手法、共有されない組織内の知見といった要因が絡み合い、手戻りが発生して開発のリードタイムが延びていたのです。
そうした課題をDXで解決しようと試行を繰り返すなか、有望な解決策として浮かび上がってきたのが、ジェネレーティブデザインでした。それは人間が条件を設定し、それに応じて無数の形状をAIが生成する仕組みです。
「いくつもの大学やベンチャー企業を訪れ、機械(AI)に断面形状を自動生成させることはできないか、その手法を探りました」と和藤氏は話します。
市販のツールでは歯が立たない
和藤氏が言う「断面形状」とは東海興業の主力製品のひとつであるガラスランチャンネルの断面形状のこと。自動車の窓ガラスの周囲に取り付けられるこの製品は、遮水や遮音、制振性のほか、円滑なガラスの昇降など複数の要件を同時に満たす必要があるばかりでなく、車種ごとに形が複雑に変化します。
従来は5倍モデル(拡大試作)とCAE解析を組み合わせた評価を行っていましたが、多くの工数を要することが課題となっていました。この課題をAI活用により効率化したいものの、市販のAIツールをそのまま適用するのは難しく、自社に合わせた最適なAIの導入を検討する他ありませんでした。
「金属のような部品と比べると、ゴムやエラストマーでできたランチャンネルは非線形性が強く、市販の解析ツールをそのまま使うのは難しい」とイノベーション推進課 課長の近藤有紀氏は指摘します。「解析するとなると、ひとつひとつの製品の特性に合わせてその仕組みを手作業で作り込んでいかなければならないのです」。
CAEとAIをつなぐパートナー
今回培ったAI技術をそれぞれ仕組みとして設計現場に落とし込んでいきます
東海興業株式会社
設計部 機能評価課 副参事
神川義一氏
そこでプロジェクトチームは2023年、CAEとAIの知見をもつ電通総研をパートナーとして迎え入れます。
「CAEを支援するベンダーはたくさんありますが、さらにAI技術を知り、その活用を支援するベンダーはなかなかありません。電通総研はCAEとAIの両方をつなぐことができる数少ない選択肢でした」と近藤氏は電通総研選択の理由を話します。
電通総研は製造業におけるエンジニアリング領域で長年にわたる実績と知見を蓄積してきました。さらに2020年には全社のAI人材と知見を集約した「AIトランスフォーメーションセンター(AITC)」を設置。2026年には「AI開発センター」を新設し、製造業を始めとする産業界にAIソリューションの開発・活用支援を行っています。
時間と手間がかかる非線形解析の課題に対し、電通総研はサロゲートモデルの活用を提案。それによりCAE解析を毎回実行せずに一定の精度で性能を予測できる道筋をつけました。
動かない80のパラメーター
しかし、断面形状の自動生成はそう簡単にはいきません。
当初、プロジェクトチームは形状の生成にパラメトリックCADを試みましたが、「期待通りには動かなかった」と機能評価課 副参事の神川義一氏は打ち明けます。
「80のパラメーターを設定しましたが、互いに従属関係があり、一つを動かすと別の部分も連動して、形状そのものが成立しなくなる。思うように形状を変化させることができませんでした」。
解決策は「形状生成」 x 「性能予測」 x 「最適候補探索」
サロゲートモデルを使った解析の仕組みは差別化の武器になります
東海興業株式会社
設計部 イノベーション推進課 課長
近藤有紀氏
ここで電通総研が解決策として提案したのは、パラメトリックCADではなく、フレーム形状やガラス厚などの条件からAIが断面形状を生成し、その性能を予測して設計要件に適合した候補を探索する仕組みです。
この仕組みには上述のサロゲートモデルのほか2種類の形状生成AIといったAIの要素技術、そして最適候補を導き出す最適化フレームワークが活用されています。
1つ目の形状生成AIを用いて多数の学習用形状を生成しました。今回の事例では5つの基本形から81形状を生成し、さらにリップ形状やフレームとの組み合わせによって7,128パターンを作りました。2つ目の形状生成AIは、こうして生成された大量データを学習することで、指定された条件を満たす新しい断面形状を生成する技術です。その形状の性能(反力や組付け姿勢など)をサロゲートモデルで予測し、最適化フレームワークがその予測結果を評価し、設計要件に適した候補を絞り込みます。
2025年、電通総研はさらに設計者がブラウザ上で一連の機能を利用できるGUIの構築にもあたりました。AI技術を設計者が実際に使えるものとするには、こうしたシステム化が欠かせません。
壁を乗り越える伴走支援
準備期間を含め、プロトタイプ開発から本格開発まで、3年にわたり実施された今回のプロジェクトは、2026年、一連のシステム構築を終え、ひとつの節目を迎えました。一方で、実業務への適用に向けた精度向上や調整は続いています。
これまでの道のりを振り返り近藤氏は電通総研について「壁にぶつかるたびに次の提案があった」と話します。「ひとつの方法がうまくいかなければ、別の方法を提案し、AI、CAE、GUIそれぞれの専門家がプロジェクトの進行を後押ししてくれました。今回、非線形部品に合わせて作り込んだサロゲートモデルの仕組みは、ものづくり企業として差別化の武器になります」。
AIの教師データ作成にあたった設計1課 係長の宮崎善弘氏もまた電通総研のサポートについて「頼りになる」と評価します。「通常業務と並行して教師データを準備するのは簡単ではありません。そのためスケジュール面をはじめさまざまなフォローがあり、円滑に進めることができました」。
成長に欠かせない仕組み
この技術をかたちにできなければ、将来の成長はありません
東海興業株式会社
上席執行役員
和藤恭弘氏
今後の展開について神川氏はジェネレーティブデザインの要素技術を現場に落とし込み効率化に役立てたいと話します。「自動生成の精度をさらに高めていくには、もっと教師データを増やす必要がありますが、それには時間が必要です。そのため当面は、今回培ったサロゲートモデル、形状生成AIといったAIの要素技術をそれぞれ独立した道具として設計現場に落とし込んでいきたいと思っています」。
宮崎氏は設計者の視点から今回構築した仕組みについてこう語ります。「これまで設計者は形をつくることが仕事でした。しかし、ジェネレーティブデザインでは、設計者は条件を設定し、生成された候補を評価することが仕事になります。これは大きな転換点になります」。
プロジェクトが進むにつれ今回の取り組みの重要性をますます認識するようになったと話す和藤氏は「この技術をかたちにできなければ、将来の成長はない」と力強く語ります。「ジェネレーティブデザインによって今までにない断面形状が生成された事例もあり、大きな可能性を感じています。当初の思いがこのように仕組みとして立ち上がったのも、電通総研の伴走支援があったからこそです。CAEとAIの知見はもとより、現場の設計者が迷わず使えるGUIの構築、さらには実業務に落とし込むための泥臭い実装やチューニングまで、すべてカバーしてくれるパートナーは他にないのではないでしょうか」。
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※1サロゲートモデル : 複雑で計算時間の短縮が難しいCAE(数値解析・シミュレーション)の挙動を、機械学習を用いて高精度に模倣・予測する技術。
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※記載された会社名・商品名は、それぞれ各社の商標または登録商標です。
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※記載情報は取材時(2026年8月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。
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【セミナー概要】
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2026年11月04日(水)00:00~2026年11月20日(金)17:00 【視聴可能期間】
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