電通総研コンパス vol.12 ケアから「自立」と「依存」を考える
新しい未来を構想するための一つの鍵となる概念として、国内外において注目を集めるケア。医療・看護分野や福祉分野にとどまらず、まちづくりや建築、人文学等の分野においてもケアの視点を取り入れた新たな研究が生まれています。電通総研では、日常生活の中で人がどのようにケアと関わりを持っているかを調べました。 本記事では、ケアについて考える上で欠かせない「自立」と他者への「依存」について、感情との関連を中心に調査結果に基づいて考察します。ケアの歴史や考え方については、こちらの記事をご覧ください。また、調査結果のまとめのレポートは以下のリンクよりご参照ください。
◎電通コンパス vol.12「ケアに関する意識調査」レポート
本調査では、同志社大学大学院岡野八代教授と検討の上、ケアを「他者のニーズ(してほしいこと、必要なこと)を気にかけ、配慮し、世話する」ことと定義しました。ケアは、多様な定義が可能ですが、本調査においてはこのようなケアの定義を採用することで、日常にあふれるケアの経験や意識について明らかにすることを目的としています。また、以下では「他者のニーズ(してほしいこと、必要なこと)を気にかけ、配慮し、世話する」こととして調査内で質問した項目についても「ケア」と表記しています。
1. ケアにおける自立と依存
現代において、多くの人は「自立」することを求められます。自分のことは自分でやる、自分の機嫌は自分で取る、など「自立」を前提としているような言説を目にしたことが一度はあるのではないでしょうか。 一方、ケアされることは、大小の差はあれど、他者に依存することを意味します。わかりやすい例で言えば、新生児はケアを受け、他者に依存をしないと生きていくことができません。同じように、それが何気ない気遣いをされるなどのケアだったとしても、他者からケアされることで、他者への依存もまた始まると考えることができます。 このように、ケアを考える上で他者への「依存」は切っても切り離せない関係にあります。したがって私たちは、ケアを考えるとき「自立」と「依存」の関係性にも、目を向けていく必要があるのです。
2. ケアにまつわる感情の観点から自立と依存を考える
自分が「他者に頼っている」(依存している)と思うか「自立している」と思うかと、ケアをするとき・されるときの気持ちとの関連について調べました。
「他者に頼っている」と回答した人は他の回答をした人よりも、ケアをするときに喜び(22.3%)や幸福感(20.2%)、落ち着き(19.7%)といった感情を多く挙げていました。同時に、疲れ(18.2%)や、緊張(11.3%)、憂うつ(9.2%)などネガティブな感情も、他の回答をした人よりも多い傾向が見られます。一方で「自立している」と回答した人の37.1%が、ケアをするときに感じる気持ちについて「特になし」と答えています。
次に、ケアをされるときはどうでしょうか。「他者に頼っている」と回答した人は、「自立している」・「どちらかというと自立している」と回答した人より、ケアをされるときにポジティブな気持ちを感じている傾向にあることがわかります。「特になし」の回答は16.9%で、「自立している」・「どちらかというと自立している」と回答した人と比べて少ない結果でした。「自立している」と回答した人では39.8%が、ケアをされるときに感じる気持ちについて「特になし」と答えています。
<考察>
ケアは人が生きていく上で避けて通れない、また多くの人が生きていく上で不可欠と考えている、社会にとってなくてはならない大切なものです。 自分が「他者に頼っている」「自立している」と思うかどうかと、ケアにまつわる感情の関連についての分析では、「自立している」と回答した人のうち約4割はケアをするときもされるときも、特に感情を抱かないという結果が見られました。
自立していることと依存していることは、両立不可能なものではありません。完全にどちらかのみになることよりも、自立しつつ依存しているような状態であることが実際の生活においては多いのではないでしょうか。日々にちりばめられた多種多様なケアに意識的であればあるほど、完全に「自立している」と自認することは難しくなっていきます。例えば、電車が時間通りに運行した、SNSで見知らぬ人が優しいコメントをしてくれた、エレベーターの開くボタンを押してもらった......ある行為や事象をケアとして捉える範囲が広がれば広がるほど、「自立している」とは何か、と問わざるを得なくなるからです。「自立している」「どちらかというと自立している」と「他者に頼っている」「どちらかというと他者に頼っている」の間にあった(ケアをする・されるときに抱く感情が)「特になし」の回答率のギャップは、このようなケアへの意識の向け方の違いから来ているのかもしれません。とりわけ、ケアをするときに感じる気持ちが「特になし」であることは、ケアに対する無関心とも取れますが、一方でケアをされる側にとってはプラスに働く可能性もあります。ケアはする側・される側にとって重荷となったり、パターナリスティックなものとなったりする側面も持っているからこそ、特別感情が伴わないことは悪いことばかりではありません。
このように、他者への「依存」、そして「自立」の関係性を、日常を取り囲む多種多様なケアに意識的になってからもう一度考え直してみることは、私たちの社会にとって今必要なことのように思います。ケアという概念は、このような問いを社会に投げかけているのではないでしょうか。
■調査概要
調査時期:2023年12月20日~12月22日
調査方法:インターネット調査
対象地域:全国
対象者:15~69歳の男女 ※学生を含む
サンプル数:3,500人(2020年国勢調査の性×年代(10歳刻み)の人口構成比に合わせて回収
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※グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。
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※本調査(3,500サンプル)の母集団人口における標準誤差は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると約±2.3%となります。
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本調査に関するお問い合わせ先
qsociety@dentsusoken.com
担当:山﨑、中川、青山、若杉
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