HRBP(戦略人事のプロ)のあり方を考える

高橋 舞 コンサルティング本部 シニアエキスパート

若島 郁弥 コンサルティング本部 コンサルティング第二ユニット
ビジネスイノベーション4部 シニアコンサルタント
第6回のコラムでは、戦略人事のプロであるHRBP(Human Resource Business Partner)についてご紹介します 。
企業の成長や存続において、「戦略」と同様に「人・組織」が大切であり、「戦略」と「人・組織」を繋ぐHRBPの存在は今後ますます重要になってくると推測できます。
本コラムでは変化の激しい現在で、「戦略」と「人・組織」を繋ぐ役割のHRBPに求められるものとは何かを中心に解説します。
戦略とはなにか
はじめに戦略とは一体何なのでしょうか。アメリカの経営学者マイケル・ポーターは「戦略とは企業が独自性と価値の高いポジションを創造する上で欠かせないものである」と定義しています。 企業にとって戦略は自社の方向性を示すものであり、企業の存続において欠かせないものだというのは自明でしょう。では組織は戦略に従うのでしょうか、戦略は組織に従うのでしょうか。これらはチャンドラーとアンゾフが唱えた有名な命題です。この2つの命題は1960年~1980年の間に誕生した問いですが、 2025年時点においてもどちらが是であるのか議論の余地のある大変奥深い提題です。この2つの命題は一見すると相反しますが、企業にとって欠かせないものである戦略の背景には必ず人や組織が介入しているという点で共通しています。
HRBPとは
HRBPは「人事や人材開発分野(戦略人事分野)のプロとして経営者や事業責任者をビジネスパートナーの立場でサポートし、事業成長を促進する人」と定義されます。具体的には戦略人事のプロとして 人材の配置、人事評価、研修・人材育成、採用活動の改善、労務制度の整備、組織開発と多岐にわたる業務を遂行します。そしてビジネスパートナーとして事業成長をサポートする役割のため、場面に応じて経営者や事業責任者に直接提言をすることが求められます。
直接提言をするという点は、人材管理をすることが主な役割であった従来の人事と異なる部分ですが、さらに大きく異なる事柄があります。それは立案・実行する戦略が人事戦略なのか戦略人事なのかということです。前者は従来の人事が、後者はHRBPが遂行します。HRBPのあり方を考える上で、「戦略」というのはどこの何をすることを指しているのかということを明確にする必要があります。
人事戦略と戦略人事
企業に勤める方であれば、「戦略」という言葉は社会人人生の中で必ず一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。実は企業における「戦略」とは仕事の種類やレベルによって微妙に意味合いが変わります。そして前述した「人事戦略」と「戦略人事」もその例に漏れず、言葉は非常に似ていますが中身は非なるものです。
○○戦略という言葉は多種多様に存在しますが、大きく分けて3つのカテゴリーに分かれます。企業全体の戦略であり、最上段に位置する「企業戦略」、事業分野ごとに落とし込まれる「事業戦略」、機能ごとに策定される「機能戦略」の3つです。そして結論からいうと「人事戦略」とは「機能戦略」カテゴリーに分類され、一方で「戦略人事」とはこの3つのカテゴリーの戦略すべてに関連し、さらに後述する戦略の枠を超えた経営目標や経営計画の実施の部分まで対応するものです。

経営者や事業責任者と意見交換をすることが求められるHRBPにとって、各戦略がやるべきこと、決定者が微妙に異なることを認識することはHRBPの役割を遂行する上で非常に大切です。
戦略人事に必要なこととHRBPに求められる能力
戦略人事は「戦略」という枠組みの中においては企業戦略から機能戦略まで網羅的に関わることです。一方で戦略を策定し、実行していくフローというものに着目すると図2のような流れになります。そして図2のようなステップを踏み、理念・目標から計画の実施までの一連のフローを遂行することが経営戦略です。

戦略人事は、企業を取り巻く環境状況や事業領域の深い理解、そもそもの経営理念や目標を掌握しなければ経営者や事業責任者のビジネスパートナーにはなり得ませんし、現場の課題感を咀嚼し、現場との信頼関係を築いて情報収集を行い、改善に向けた提言を上層部にできなければ人材開発・組織開発を実行することはできません。つまり戦略人事に必要なこととはステップ1~5に入り込み、各ステップに存在する企業のトップ層から現場人材までの人・組織の思いや悩みを共有・ビジョンの浸透等を成し、計画の実施まで携わること、いわば経営戦略に携わることが必要です。
そしてこのような戦略人事を遂行する役回りがHRBPですが、それぞれのステップで必要な能力に特殊な要素はなく、大別すると2つの種類の能力で整理されます。1つめは専門スキル、2つめはポータブルスキルです。専門スキルは人事領域における幅広い知見(各種フレームワークの存在や心理学等)や自社のビジネスに関する知見といったものであり、主にステップ2、3、4で活用する場面が多いです。ポータブルスキルは課題分析力やリーダーシップ、コミュニケーションスキルとなりますのでステップ1、2、5で活用する場面が比較的多いといえます。いずれにしても奇を衒った能力を培う必要はありません。なぜなら単純に考えるとHRBPの役割は現場の課題感を現場との信頼関係で把握し、経営者と同じ目線で経営者の思いを鑑みながら現場の課題解決に向けて話すビジネスパートナーとなれば良いからです。しかしながらそれを実現するためには、能力として前述した専門スキルとポータブルスキルを習得する必要性があることに加え、ある程度の事業部経験が必要になってくる側面も孕んでいるため、一筋縄ではいかないケースも存在します。
HRBPが感じる課題とHRBPを機能させるためのステップ
HRBPの導入ポイントとして一般的に、全社人事と対等な立場になるようにすることや現場との信頼関係の構築をすることが広く言及されています。しかしながら中々有意義に導入することが難しいことも事実です。そこで電通総研では、実際のHRBPが直面する課題が何かを把握するために2023年に調査を実施しました。
調査の結果、HRBPが抱える課題は「全社人事と事業部門の板挟み」、次いで「事務系仕事に忙殺され本質的なHRBP業務が後回し」「HRBP同士情報交換ナレッジ共有ができていない」が続き、いずれも6割超のHRBPが感じている課題であることが分かりました。加えて自身のスキル面の課題として「部門トップ」および「部門現場」との関係性構築、マインド面の課題として「人事≒オペレーショナルな役割という意識から脱却できていない」が挙げられています。

第二回のコラム「電通総研HR フォーラム2024から得た考察と私たちの見解 社員が「イキイキ・ワクワク」働ける環境づくりに重要な3つのポイントとは」(https://www.dentsusoken.com/case_report/column/20240809/2633.html)でも紹介しましたが、これらの列挙課題からHRBPが企業で有効に機能するためには当社では次のようなステップ論で整理しました。

図4ではいくつかのステップで分けていますが、ステップ1.0ではHRBPの意識変革。ステップ2.0では経営者層や現場との関係性構築。ステップ3.0では他HRBPとのナレッジ共有を実施します。このようなステップを経ることで「人事や人材開発分野(戦略人事分野)のプロとして経営者や事業責任者をビジネスパートナーの立場でサポートし、事業成長を促進する」ことが可能となります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。第6回のコラムでは、電通総研が考えるHRBP(戦略人事のプロ)のあり方についてご案内しました。HRBPに必要な要素は多岐にわたりますが、HRBPが戦略人事を実行する上でどのようなマインドを持たなければならないのか、自身の役割はどのような立ち位置で行っていくべきものなのか、必要な能力は何か、有効に機能するためのプロセス(ステップ)は何か、を改めて整理し、行動に移していくことは大切だと考えます。「戦略」と「人・組織」をつなげることは企業の持続的な成長に欠かせないものです。実際のご支援事例や施策内容について興味のある方は以下よりご相談・ご連絡ください。お待ちしております。
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