ヤンマー株式会社 中央研究所 エレクトロニクス開発センター様 開発プロセス改革 'YELL活動'

開発効率180%化と組織・個人活性度の飛躍的向上

  • ものづくり

ヤンマー中央研究所エレクトロニクス開発センター(以降”ELC”と記載)では、「快適さと省エネルギー性」を両立させた商品をお客様に提供するために、エンジン・農機・建機・船舶やガスヒートポンプ(GHP)などのヤンマー商品全ての電子制御化を推し進め、エレクトロニクス技術をコア・コンピタンスとして確立しようという大きな取り組みの途上にありました。しかし、製品の特性として安全性向上や環境対応への要求は年々厳しくなり、電子制御機能差異化の業界内競争の激化、それらに伴う開発規模の激増、さらには開発段階での手戻りや市場対応工数の増加があいまって、ELCメンバーの疲弊感は著しく高まっていました。

高品質・高機能な商品を提供し続けるプロの開発集団として、開発メンバーが達成感・安心感を持って業務を遂行できる組織を目指して

図1:YELL活動の目的

こうした状況のもと、ELCがお客様に高品質・高機能な商品を提供し続けることのできる組織となり、同時に開発メンバーが達成感・安心感を持って業務を遂行できることを目指した開発力革新活動=「YELL活動」を2005年3月にスタートしました(図1、表1)。

①アセスメント~組織とプロジェクトの強み/弱み分析~

図2:ELCの開発力他社比較

ELCの抱える問題点の本質を抽出するために、ITIDの持つ開発力ベンチマークによる開発力の数値化(図2)、DSM(Design Structure Matrix)を用いた従来プロジェクトの混迷具合の見える化、聞き取りなどにより組織とプロジェクトの強み/弱み分析を行いました 。
その結果、ELCにおける組織的な問題は「リスクに対して、前向きに管理する風土が無いこと」「プロセス定義と遵守する仕組みが不足していること」「人財育成の取組みが弱いこと」の3点に集約されることがわかり、それぞれに対する施策を実行することとしました。

②開発力革新活動

「リスク管理主導型プロジェクトマネジメント」

高度な電子制御ユニットの開発は、企画~設計~量産移行の各段階で部門内外との幅広いやり取りを行い、常にすりあわせを図りながら進行するため、要求や変更の検討漏れやリスク事項の見落としによる再作業やトラブルの発生する可能性が極めて高いです。また、問題発生と事後対応の頻発は量産移行前後に作業が集中する状態をもたらすため、他機種の開発プロジェクトにも悪影響を及ぼすものです。ITIDから提供した、製品開発上流工程からの網羅的なリスク管理(可視化・評価・未然防止)のコンセプトと手法群を実践と議論を通じて組織プロセスにテーラリングして適用しました。その結果、リスクの概念が各人の意識に定着し行動に反映され、問題発見と解決のフロントローディング化に成功しました。

「プロセス定義と定着」

YELL活動着手時のELCは恒常的なリソース不足の状況にありました。個別には高いレベルのプラクティスが多数存在していたが共有されておらず、プロジェクトの品質が個人に強く依存する「職人集団タイプの組織」となっていました。本施策では、中堅技術者によるタスクフォースで技術領域に依存しない共通のコンセプトと枠組み(テンプレート)を用いた討議を行い、個人の暗黙知となっていた実践レベルの製品開発プロセスを定義・可視化しました。さらに、PDCAサイクルによる運用と改善自体も開発プロセスに取り込むことでベストプラクティスを組織の制度に移行させました。この活動によって、個人に委ねられた業務が把握され、業務間の連携の明確化と、組織内コミュニケーションの活性化も実現しました。

「自律的人財の育成」

組織的な改善を確たるものとし意識の向上にも配慮するためには、スキルアップを個人の自助努力だけに委ねず、各自の特性と組織ニーズの双方を見据えた人財育成計画を立て、実際に適用することが欠かせません。本施策では、ELCの技術者に必要とされるスキルを技術・マネジメントなど多様な観点から分析し、個別職種ごとに可視化し、適性とキャリア計画に沿って人財育成を実現するためのフレームワークが構築できました。技術者と指導層の間で、現状と長期的に目指す姿の対比としてスキルの強み/弱みを把握でき、若手育成だけでなく中堅層の意識付けにも活用できる制度が確立されつつあります。

開発効率180%化、量産時の未処理問題点ゼロ、組織・個人活性度の大幅な向上

図3:様々な成果指標

ELCの開発効率が活動への取組み前と比べ180%化しました。当初目標であった200%化には若干未達なものの、ほぼそれに準ずる大幅な開発効率(組織の創出価値)の向上を実現できました(図3 左上 開発効率の向上)。

また品質指標の一つである「量産時の未処置問題点ゼロ」が達成されました。各人の活性度及び組織が提供するサービスがともに向上していることも確認できました(図3 右上 ESの向上)。

さらに、品質・効率の先行指標である工数における手戻り作業の割合も抑制されています(図3 下 開発工数、手戻り工数率の推移)。

現在は、可視化した内容を業務で必ず適用し、組織ぐるみでブラッシュアップするという改善の仕組みが敷かれ、本格的な開発力革新の自走体制に入っています。

一人ひとりのモチベーションが上がり、業務効率・従業員満足度も向上。改革が加速した。この好循環を生み出すのにコンサルタントの役割が大きかった。

ヤンマー株式会社 中央研究所 エレクトロニクス開発センター/大久保センター部長

業務が輻輳する中、この様な改革活動を進めるには、まずはリーダーの強いリーダーシップと、部員全員の「想いの共感」が必須でした。初年度は、私自ら先導して進めましたが、2年目以降は、兼務ながらも開発推進グループを設置し、このグループを中心に、YELL活動を推進しました。
改革の成果が目に見えてくると一人一人のモチベーションが上がり、業務の効率化だけでなく、従業員満足度(ES)も向上し、改革へも積極的に取組むようになりました。この様な好循環を生み出すのに、ITIDのコンサルタントの役割が非常に大きかったと感じています。コンサルタントがコーチとして、陰になり日向になりながら、時には厳しく、時にはやさしく指導して頂いたお陰と心から感謝しています。
今後は、ITID殿の力を借りず、開発推進グループを中心に、自分たちだけで改革を継続的に進めて行きたいと考えております。この様な活動を継続できたのは、直属上司である中央研究所長の理解と全面的なバックアップが大きかったと思います。また、ITIDの吉本社長には、ステアリングコミッティとして、節目節目で適切なご指導を頂きました。この場を借りて感謝の意を表します。

  • 記載情報は取材時(2008年10月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。
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