コンサルタントとAIが共創する未来の働き方とは――青山財産ネットワークスの挑戦
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富裕層向け総合財産コンサルティングのリーディングカンパニーである株式会社青山財産ネットワークスは、2024年、生成AIの業務活用を本格的にスタートさせました。同社がコンサルタントの育成期間短縮と専門性の高い業務への集中、そして顧客への提供価値向上を目指し、打ち出したのが「コンサルタントとAIの共創による新しい働き方」。その伴走パートナーとして選ばれたのが電通総研です。Microsoft Copilotの活用研修を皮切りに、将来的には独自の「AIエージェント構想」の実現を見据えています。
財産コンサルティング業界の常識を覆そうとする青山財産ネットワークスの挑戦について、同社DX推進を牽引する4人のキーパーソンにお伺いしました。
目次
「コンサルタント育成の長期化」と「アナログ業務」からの脱却を目指す
財産承継や事業承継コンサルティング、財産運用・管理など富裕層顧客に対してオーダーメイドのサービスを提供している青山財産ネットワークス。富裕層の多様なニーズに応えるという専門性の高さゆえに、コンサルタントが一人前に成長するまでには長い年月を要し、情報の収集や資料の作成などのアナログな業務も依然として多く残っていたと言います。こうした課題を解決し、さらなる顧客価値向上を目指すため、DX推進室が中心となり、2024年生成AIの活用に着手しました。
DX推進室の主なミッションは、社内業務への生成AIの実装です。「2025年に発表した中期経営ビジョンでも『DX・AIを活用したコンサルタントを支える環境の整備』を経営戦略の柱の1つに掲げています」と語るのは、DX推進室室長の三浦氏です。
同室の髙橋氏は、「当社の根幹事業は、コンサルタントがお客さまと直接対話し、人間同士の信頼関係のもとでビジネスを進める総合財産コンサルティングです。この”人間らしさ”は維持しつつも、資料作成などのバックオフィス業務や、フロントに近い業務でも人間が手作業で行っている部分には、まだまだDXによる改善・変革の余地があると考えています」と、DX推進の必要性を強調します。
同社が抱える最も大きな課題の1つは、コンサルタントの育成期間の長さです。一人前のコンサルタントになるまでには約4~5年 を要するといいます。
「入社後2~3年は先輩に同行し、お客さまとのやり取りを間近で見て学びます。その後、少しずつ自立して動けるようになりますが、ベテランから見ればまだ十分とはいえません。そこからさらに2年ほど経験を積むことで、ようやく引き出しが増え、一人で案件を推進できる自立したコンサルタントへと成長していきます」(髙橋氏)
この育成期間の長さは、個々の顧客の状況に合わせた提案が求められる、標準化の難しい業務特性に起因します。「だからこそ、個々のコンサルタントが持つユニークな強みを生かしつつ、業務全体の効率をどう図るか。この両立がDX推進の大きなテーマとなるのです」と三浦氏は語ります。
Microsoft Azure環境への深い知見と業務改革への期待が決め手に
課題解決の糸口として同社が着目したのが、自然言語でシステムと対話できる生成AIです。「日常会話のような自然なコミュニケーションでコンピュータと連携し、仕事を進められるようになるのは、非常に大きなブレイクスルーです」とその可能性に期待する三浦氏。生成AIの活用推進にあたり、パートナーとして電通総研を選んだ理由について、次のように説明します。
「当社のコンサルタント業務の大部分は、Microsoft 365のアプリケーション上で行われています。業務の柱であるMicrosoft環境、特にAzureをベースとしたパブリッククラウド環境でのカスタマイズ開発に長けているのが電通総研でした。また、ITの知見だけでなく、BPRに関する豊富な実績とノウハウを持っていた点も大きな決め手です」(三浦氏)
Microsoft Copilot 研修で高まる生成AI活用への期待感と手応え
オフラインでの研修に参加してみると、現場のメンバー同士で『これもできるんじゃないか』『あれも試してみよう』と活発に意見交換が生まれ、非常に盛り上がりました。一方的に知識を詰め込まれるのではなく、実践しながら学べた点が非常に良かったです
経営企画本部 DX推進室 葛西夏美氏
同社では最初の取り組みとして、電通総研の支援のもと、全3回のMicrosoft Copilot 活用研修をハンズオン形式で実施。間接部門、営業部門からそれぞれ数十名のメンバーが参加しました。
研修に参加した葛西氏は、「最初は正直、オフラインで研修を行う意義をあまり感じていませんでした。しかし実際に参加してみると、現場のメンバー同士で『これもできるんじゃないか』『あれも試してみよう』と活発に意見交換が生まれ、非常に盛り上がりました。一方的に知識を詰め込まれるのではなく、実践しながら学べた点が非常に良かったです」と、オフラインならではのメリットを語ります。
研修の前後での変化について、髙橋氏は「たとえば、会議後の議事録作成と上長への共有、メールの下書きをMicrosoft Copilot で行うようになったという声が複数寄せられています。今後は、研修を受けた初期メンバーがアンバサダー的な役割を担い、周囲への啓蒙活動を通じて活用を拡げていきたい」と今後の展開に期待を寄せます。
研修の企画・運営における電通総研のサポートについて、髙橋氏は「我々の要望に合わせて柔軟に内容を調整していただけたのが非常に助かりました。受講するメンバーの普段の業務内容やITリテラシーを考慮し、ディスカッションを通じて最適な研修プログラムを一緒に作り上げていったという感覚です」と評価しています。
コンサルタント業務の革新と人材育成の効率化を目指す「AIエージェント構想」
AIエージェントとの対話ログや作業ログを収集・分析し、成果を上げているコンサルタントがどのようなアプローチを取っているのか、そのベストプラクティスをデータとして蓄積し、AIエージェントにフィードバックしていくことで、暗黙知の形式知化と継承を目指します
執行役員 経営企画本部 DX推進室 室長 三浦雅範氏
Microsoft Copilot 活用研修でAI活用の素地を整えた同社が見据えるのは、独自の「AIエージェント構想」です。
「AIエージェント構想の核心は、コンサルタントの業務プロセスにおける効率化と質の向上です。お客さまとのファーストコンタクトから始まり、合意形成、信頼構築、そして最終的な価値提供に至るまでには、膨大な法律知識の参照、最新情報の収集・分析、そして提案書の作成といった多岐にわたる業務が発生します。この一連のプロセス、特に情報収集、資料整理、ストーリー構築、資料の体裁を整えるといった作業にAIを活用し、効率化を図ります。コンサルタントのユニークな人間力や判断力は残しつつ、AIを強力なアシスタントとして位置づけ、人間とAIが協調する世界を創り上げたいと考えています」(三浦氏)
重要なのは、効率化によって生まれた時間の活用方法です。同社では、顧客との対話の深化や、コンサルタント自身の自己研鑽に充てていくといいます。さらに、髙橋氏は「AIが得意とする知識の伝授やスキル習得サポートにAIを活用し、人間が行うべき”人を育てる”部分、つまりお客さまとの向き合い方や心構えといった、より本質的な育成にベテランの時間を充てられるようにしたい」と、人材育成面での効果にも言及します。同社としては、コンサルタントの育成期間を4~5年 から3年程度に短縮し、サービス品質の均一化も目指していく考えです。
同社における生成AI活用のユニークなポイントは、単純な効率化ではなく、人間にしかできない価値を残すことにあります。ベテランコンサルタントの暗黙知をAIに学ばせるという難易度の高い課題について、三浦氏は次のように具体的なアプローチを説明します。
「コンサルタントがどのタイミングで、どのような情報を、どういう意図で調べているのか、といった思考プロセスは、ヒアリングだけではなかなか表出化しません。そこで、AIエージェントとの対話ログや作業ログを収集・分析します。特定の案件において、成果を上げているコンサルタントがどのようなアプローチを取っているのか、そのベストプラクティスをデータとして蓄積し、AIエージェントにフィードバックしていくことで、暗黙知の形式知化と継承を目指します」(三浦氏)
技術が目まぐるしく発展する時代に、共に学び、進化する伴走者として
電通総研からは、必ず定期的に『動くもの』を見せてもらっています。ユーザーの肌感覚を重視しながらアジャイルに進めている点は、現場のユーザーが評価を行ううえで非常に重要です
経営企画本部 DX推進室 細井悠貴氏
DX推進室の発足から約1年。社内の空気は確実に変わってきているといいます。「当初は『AIエージェント構想なんて、本当に実現できるの?』という空気感でしたが、今は『できるかもしれない』という期待感があります。たとえば、提案資料のコンプライアンスチェック業務の一部をAIで代替できないか、といった具体的なニーズも現場から生まれはじめています」と髙橋氏は手応えを語ります。
AIエージェント構想の実現を目指すうえで、鍵となるのが電通総研の存在です。三浦氏は、「生成AIという最先端技術は、誰もがまだすべてを熟知しているわけではありません。電通総研とは、共に学び、進化しているという実感があります。技術の進化が速い現代においては、柔軟性と応用性を兼ね備え、変化に即応しながら一緒に進んでいくことが不可欠です」と、パートナーシップの重要性を強調します。
DX推進室の細井氏は、「電通総研からは、必ず定期的に『動くもの』を見せてもらっています。ユーザーの肌感覚を重視しながらアジャイルに進めている点は、現場のユーザーが評価を行ううえで非常に重要です」と、その推進力を評価しました。
生成AI活用のポイントは、まず「使ってみる」。そして「専門家を活用する」
生成AIを活用しないことによる機会損失の方が大きなリスクになり得ると考えています。だからこそ、リスク管理や情報セキュリティ対策は徹底して多くの社員に安心して活用してもらえる環境を整えていきたいです
経営企画本部 経営企画部 ソリューショングループ 兼 DX推進室 課長 髙橋郁弥氏
最後に、生成AIの活用やDX推進に課題を感じている他社へのアドバイスを伺いました。
髙橋氏は、「スマートフォンが普及したように、生成AIも世の中に浸透するのは時間の問題であり、無視できない存在です。むしろ、活用しないことによる機会損失の方が大きなリスクになり得ると考えています。ただし、リスク管理や情報セキュリティ対策は徹底して行う必要があります」と、活用の必要性と注意点を指摘します。
細井氏は、「この2年ほどで生成AIの活用事例は飛躍的に増え、自社の業界でどのような応用が可能か、イメージしやすくなっていると思います。事例が見つかったとしても、次はセキュリティがハードルになります。『自社では扱えない』とあきらめるのではなく、そういった課題こそ、電通総研のような専門家の知見を借り、他社の力も活用しながら解決策を模索していくべきだと感じます」と、専門家活用の重要性を訴えました。
青山財産ネットワークスの挑戦は、まだ始まったばかり。AIとの協調を通じて、コンサルタント一人ひとりの専門性と人間力を最大限に引き出し、顧客への提供価値をさらに高めていく――。同社の描く未来に、大きな期待が寄せられます。
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※記載情報は取材時(2025年5月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。