GeNiE株式会社 ビジネスを捉えた提案とシームレスな金融体験を実現するプラットフォームの構築でエンベデッド・ファイナンスの新たな可能性を拓く

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写真左より 電通総研上海 総経理 秋山修司、GeNiE株式会社 代表取締役CEO 齊藤雄一郎氏、GeNiE株式会社 CTO 橋本哲氏、電通総研上海 リース・ファイナンスソリューション事業部長 永嶋学

エンベデッド・ファイナンス事業を主要事業に、2022年、アコム株式会社の子会社として設立されたGeNiE株式会社。エンベデッド・ファイナンスは、貸金業法などの厳しい法律や規制により一般事業者の参入ハードルが高い金融機能を事業者のサービスに組み込み、お客様にシームレスに提供するサービスです。このサービスを活用することで、一般事業者は自社ブランドのWebサービスなどを入口に、大きな投資を行うことなく金融サービスを始められます。また、複雑で難易度の高い与信管理などバックエンドの仕組みは、ノウハウを持ったプロの金融事業者に任せることができます。
GeNiEが展開するサービスの開発のパートナーとして選ばれたのが、電通総研(上海)信息諮詢有限公司(以下「電通総研上海」)でした。同社が提供するリース・ファイナンス業務管理パッケージ「Lamp」を基盤に、堅実・堅牢な運用を前提とする勘定系システムと、各事業者が提供するサービスへのシームレスな対応が必須となるフロント部分を合わせた開発は、約1年という短い期間の中、どのように進み、完成したのか。

開発に関わったGeNiE株式会社代表取締役CEOの齊藤雄一郎氏、プロジェクトマネージャー(PM)を務めた同CTO・橋本哲氏、電通総研上海総経理の秋山修司氏、電通総研上海側のPMとしてプロジェクトを取りまとめたリース・ファイナンスソリューション事業部長の永嶋学氏に振り返ってもらいました。

身近なブランドからの金融サービスを提供する、組み込み型金融サービス

―GeNiE様設立の背景・概要と、金融界における独自性や特色についてお聞かせください。

齊藤:当社が設立された背景には、2010年頃から携帯キャリアなどの一般事業者(非金融事業者)が個人ローン市場に参入してきたことがあります。ここから、親会社であるアコムの競合が同業者だけではなくなり、生活者も一般事業者が提供する金融サービスを使うことに慣れていったのです。

アコムグループでは元々、ローン事業のためのノウハウから「与信」と「回収」の機能を切り出して銀行の個人ローン業務を支える、「信用保証事業」を展開していました。そこで今後参入してくる一般事業者にも、この保証スキームを応用した事業を展開するような構想を約7年前に立案していたことがスタートでした。

組み込み型の金融サービスには、銀行などが手掛ける「BaaS(Banking as a Service)」などもあり、広く浅くバンキング機能を提供していますが、我々の強みは長く市場をけん引してきた「与信」の機能。その機能を軸にエンベデッド・ファイナンスとして展開することで社会に「新しい信頼のカタチ」を築くことができると考えたのです。

GeNiE株式会社 代表取締役CEO 齊藤雄一郎氏

―電通総研上海では、こうした金融サービスの変化におけるITの役割をどのように捉えていましたか?

秋山:一般事業者が金融事業に参入してくる背景には、個人情報を含むさまざまな自社データを活用して、より迅速・正確に与信を行いたい思いがあるのだと思います。この“与信ポテンシャル”ともいえるデータの活用や、迅速な決済・貸付の実行、返済の動きにはいずれもITテクノロジーが関係してきます。

一般事業者が組み込み型サービスを利用して新規参入する際には、スピーディーなシステム導入が求められると同時に、金融業ならではのセキュリティ面も含めた堅牢かつ安定的な運用が重要になる。さらに現代の生活者の価値観や生活スタイルの多様性や変化に対応した機能を実装していく部分は、我々のようなIT構築パートナーが担わなければいけません。蓄積されたデータの多様性や量、決済との融和性という意味では、当社が拠点を置く中国やアジアが進んでいます。そうしたグローバル展開も視野に入れて、金融業を担うお客様に寄与していきたいと考えていました。

齊藤:おっしゃるとおり、私たちの事業では、各事業者が保有するデータを活用して与信を完了させられる点がポイントになります。たとえば、個人ローンの市場にスマートフォン上で展開するコミュニケーションアプリが参入しています。金融専業ですと申込断面の“はじめまして”状態で与信判断を行うことになりますが、申込以前のコミュニケーションアプリでの振る舞いをデータとして活用すれば“幼なじみ”に対して与信判断ができるイメージです。

同時にユーザーの皆さんには、普段使っているサービスに元々金融サービスが付いていたような体験をしていただくべきだと思っています。

永嶋:ローンと聞くと一般的に少し敷居が高いイメージがありますが、健全な審査と返済計画の下であれば、当人の人生や生活の質を向上する体験になりえます。普段利用しているサービスを基点に、心理的障壁を下げて必要な資金を借りられる体験は、生活者の暮らしにプラスの要素をもたらすのではないでしょうか。

実績ある自由度の高いシステムと、“一緒にビジネスをつくる”視点が選定の決め手

―事業の要となるソリューション開発において、「Lamp」および電通総研上海をパートナーに選ばれた理由をお聞かせください。

橋本:パッケージ選定には大きく二つの軸がありました。一つは金融サービスを展開していく上で必要な機能を具備しているか。もう一つがわれわれの事業に対して、どのくらい親和性があるかです。

事業親和性の観点では、新規参入される幅広い事業者様の要望に、柔軟・迅速に応えられるシステムを実現することが重要です。その点Lampはパッケージでありながら、「貸付」「入金」などの業務単位でモジュールが分割され、個別にAPIを構えるなど、必要な機能を選択でき、自由に設計しやすい構造になっている点が魅力的でした。もう一つの軸である金融サービスを展開していく上で必要な機能という意味では、金融サービスへの導入実績もあり、セキュリティを含めてしっかり要件を満たしていた。貸金業には非常に厳しい法規制が課せられていますが、その高いハードルを超えられる製品だったことは大きな要素でしたね。

システムの機能以外では、「パートナーとして一緒にビジネスを作っていける方か」の観点も重視していました。電通総研上海は、開発するソリューションを使ってわれわれのビジネスがどう成功できるかにフォーカスした提案をし、寄り添っていただけた点がとても良かったです。

齊藤:最初のオンラインミーティングから、「どんなビジネスを目指しているのか」を聞くことに多くの時間を使い、たいへん興味を持ってくれました。われわれが何をしようとし、その先にどのような展開を見ているのか、お客様にどんな価値を提供したいのかといった議論が初回の打ち合わせで実現できたことはなかなかなく、貴重な経験でしたね。

永嶋:当社として、「ITはあくまで目的ではなく手段」という考えがあります。お客様の成長があるからこそ、私たちの業務が成り立っているという認識です。ですから、システムの話で終わらせるのではなく、それを活用した「ビジネス」にまで踏み込む質問や提案をすることは、常に意識しています。

齊藤:エンベデッド・ファイナンスは日本では草創期にあり、これから多様な産業に“溶け込んで”いくところです。例えば、ポイント機能を持っている事業者さんが利用する場合、ポイント連携の仕組みが必要になりますし、ウォレット機能があれば、銀行口座ではなく、ウォレットに振り込む必要が出てくる。そうしたビジネスモデルをふまえて、上流部分の議論をできる方々であったことを高く評価させていただきました。

GeNiE株式会社 CTO 橋本哲氏

ウォーターフォール×アジャイルのハイブリッド手法で実現した「表は柔軟、裏は堅牢」なシステム

―開発されたソリューションの魅力や優位性について教えてください。

橋本:金融業への参入を考える事業者は幅広く、どんなシステムを有しているかも分かりません。そこで事業者に負荷をかけず、迅速に接続できるよう、複数の認証方式を用意しています。また、事業者さんごとに異なる要望に応え、利用する機能を自由に選びカスタマイズできるようなサービス設計を必須として備えました。

永嶋:一般事業者が与信の事業に参入する場合、本来はおそらく2年以上の期間と相応のコストかけてようやく金融サービスを開始できるようになります。しかも与信のノウハウがない中で始めるには、非常にリスクが高い。今回のサービスでは、GeNiEの得意分野である与信は、バックエンド側に持たせ、デザインやユーザー体験は事業サービスに“溶け込ませる”形で導入できる。事業会社は自社のブランドを使った金融事業を、大きな投資を行わずに数か月といった短い期間で開始できるようになるのです。

―開発はどのように進められたのでしょうか?

橋本:1年という短い期間でサービスインさせたいと考えていた反面、規模感が大きく、従来の考え方では到底できるものではありませんでした。実現できたのは、電通総研上海との関係が築けていたことに加え、ウォーターフォール方式とアジャイル方式のハイブリッド型開発を取り入れたことが大きく寄与したと考えています。

バックエンド側の勘定系システムは、金融業を行う上で間違いのない品質を担保するため、従来のウォーターフォール方式でしっかり積み上げて開発・確認していく必要がありました。この部分においては、軸となる機能が既に8割ほど出来上がっており、実績もあるLampだったからこそ、当社の要件が関わる残り2割を作り込むことにフォーカスできたのだと思います。

一方のフロント部分、ユーザーにとっての“入口”となるウェブ画面のデザインなどはクイックに、都度確認・修正を繰り返してつくりこみました。その中で印象的だったのは、私たちが「こういう機能がほしい」と要望を出した時に、「そんな機能はいらないよ。それよりもこの方法の方が良い」などの意見をいただけたこと。それは、発注者・受注者の関係を超えた、ビジネスパートナーとしての言葉だったと思います。後で周辺機能と連携してみたら、確かに提案いただいた方法が最適解だったというシーンは結構ありました。

永嶋:作り手としても、早い段階で実際のイメージを見てもらい、先々のリスクをヘッジできたのは大きなメリットでした。提案においては、制作するシステムでビジネスがうまくいくかという観点から「本当にいるのか?」を常に考えています。その時間や資金を別のところにかけた方がいいケースもありますから。

グループ会社の知見や専門性も生かし、より良い品質を担保する

―プロジェクト期間中のお互いの対応などで印象に残っていることがあれば教えてください。

橋本:ソリューションのポイントとなった複数の接続方式に関しては、永嶋さんたちとかなり詰めて開発しました。ここで頼もしさを感じたのは、電通総研上海が電通総研のセキュリティの専門部隊の方をアサインしてくださり、開発中の方式が本当に必要なセキュリティ強度を担保できるものか調査いただけたところですね。

また、電通総研上海の中でも、メンバーのある役割が終わった際に、「手の空いたチームがいるので、この工程を拡張してテストの範囲を広げましょう」といった提案をしていただけた。より品質を高めていくためのアプローチを一緒に考え、適切な形でリソースを振り分けられたのも短期間での開発が実現できた理由の一つだと思います。

永嶋:当社もGeNiEの親会社であるアコムのご担当の方のアドバイスで作業を進めやすくなった部分がありました。
Lampはシステムだけではなく、導入方法や要件定義の資料、設計書が一通りそろった業務パッケージです。しかし今回のプロジェクトでは、その様式に対してアコムの方から作業ごとの具体的な業務様式や、データの動きを理解するための情報など丁寧なアドバイスをいただけた。その情報を設計に落としこみシステム“上流”の品質を担保できたことが、後にプロジェクトを円滑に進める上での大きな要素になりました。

秋山:知見や経験に基づく意見を出していただき、電通総研側はデザイン領域や、インフラ周りに関わる専門部隊をグループ全体で提供して、互いに補完し合った形ですね。

電通総研上海 総経理 秋山修司

「ベンチャーマインド」と「大企業の安定感」の相乗効果が、プロジェクト成功の要因に

―プロジェクト全体を通しての電通総研への評価をお聞かせください

橋本:電通総研上海はもちろん、グループの皆様にご協力いただけたことが、プロジェクトの一番の成功要因だったと考えています。このサービスは特性上、パートナー事業者が保有するITサービスに、違和感なく溶け込んでいけるよう具体的な要件に落としていく必要がありました。例えばデザインがパートナーのサービスと合わないと、世界観が崩れてしまう。そこの可変性や柔軟性を含めた機能の実現においては、電通総研本社のデザイン専門部隊の皆さまの力が大きかった。

また電通総研のグループ会社である電通総研ITに担当いただく運用保守に関しては、通常なら引継書などを作ることでリリース後一気に切り変わる方式が多いのですが、今回は開発の段階からメンバーとして入っていただいています。この場合、自身で手掛けたシステムの運用保守を行うことになるためより盤石な体制です。拠点も日本国内(東京)と身近である点に加え、そうした対応を、グループ全体でしていただけた点が非常に心強かったですね。

齊藤:その意味では、電通総研グループという大企業の安定感と、蓄積されたノウハウやご経験に安心感をもってお任せすることができました。同時に、ゼロイチで「型」がないビジネスを作っていこうとしたときには、その最適解をパッケージの型としてではなく、ビジネスとして求めるマインドが必要です。電通総研上海の皆さんにはそれがあった。この「大企業マインド」と「ベンチャーマインド」双方の強みを活かして、各場面で非常に良い存在感を発揮していただけたと思っています。

事業者が持つデータとの掛け合わせで広がる可能性。多彩なビジネス展開に向けて引き続き伴走を

―今後の展望についてお聞かせください。

齊藤:プロジェクトはこの春に事業リリースを果たし、産業別に少なくとも複数社と提携を進めていく予定です。各社それぞれに異なる要件が出てくるため、その対応も含めて開発は続いていきます。同時に金融サービスとしては、ローンとは別の領域のプロダクトも増やしていく計画があります。産業ごとの最適なプロダクトや付加価値などを引き続き企画提案いただき、共に考えていけるとうれしいですね。

橋本:エンベデッド・ファイナンスのサービスは、現状では画一的なものがほとんどで、差別化が図れていません。最初に齊藤がお話ししたとおり、本事業の可能性は、パートナーがお持ちのデータにあります。与信の申し込み情報にはないデータを僕らが保有するデータと掛け算することによって、与信モデルを精緻化したり、パートナー様の売り上げ向上にも寄与できるような新たなサービスを構築していきたいと考えています。

秋山:その点では、Lampはグローバルパッケージですので、「世界」の情報という掛け算の係数が増えることで、広がっていく可能性は大きいと思います。われわれも各国での経験を活かしながら、グローバルを見据えて新しいものを作っていきたい。商習慣、税制から直近の流行やトレンドまで、現場の最新知識を掛け合わせ、多彩なビジネス展開を議論していけたらいいですね。

永嶋:そうした一方、先を見ながらも、サービスインをゴールとするのではなく、きちんとした安定稼働が当たり前になり、GeNiEにとっての投資の損益分岐点を超えられることを見据えて、技術の拡充やよりエキサイティングな提案をしていきたいと考えています。

齊藤:アコムの創業者は常に「新しい方法を選べ」と言っていますが、世の中のニーズやお客様の生活様式の変化をどう先読みして準備しておけるかが重要です。われわれのミッションにも「新たな“信用のカタチ”をデザインする」ことがあります。人に個性があるように、信用にもさまざまな形があると思っているので、変化を恐れない組織でありたいですし、電通総研上海にもこれまでどおり、ビジネスを見据えた視点や知見を活かしてしっかり伴走していただけたら幸いです。

電通総研上海 リース・ファイナンスソリューション事業部長 永嶋学

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社名
GeNiE株式会社
本社
〒104-0032 東京都中央区八丁堀四丁目3番5号 京橋宝町PREX
設立
2022年4月1日
資本金
5億円(資本準備金含む)
事業内容
エンベデッド・ファイナンス事業
  • 記載情報は取材時(2024年4月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。

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