豊田合成株式会社 ドライビングシミュレーター「VTD」導入で設計開発とマーケティングを強化
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1949年、トヨタ自動車工業のゴム部門を母体に設立された豊田合成株式会社。ゴムや樹脂など高分子化合物に関するノウハウを武器に、ウェザストリップ※やブレーキホース、ハンドル、エアバッグなどの自動車部品を手がけ、現在では電気で機能するゴム「e-Rubber」や窒化ガリウム(GaN)を用いた次世代パワー半導体など先端技術の開発にも力を入れています。
サービスの新たな潮流であるCASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)領域で技術革新が進む自動車業界。そのなかにあって部品メーカーからシステムサプライヤーへの変革を推し進めている同社は、2020年、開発力のさらなる強化のためISIDが提供するドライビングシミュレーターVTD(バーチャル・テスト・ドライブ)を導入しました。VTDは、前後・上下・左右に加え、それぞれの軸の回転を加えた6自由度の動きを実現するドライビングシミュレーター。コンパクトで移動が可能なことに加え、用途に応じてコンポーネントを変更できる拡張性の高さが特長です。
同社の開発部門を指揮する取締役の石川卓氏は今回の導入を「“静的な開発”から“動的な開発”への進化をめざしたもの」と表現します。「従来の延長線上で物事を考えているようではこれからの自動車業界で生き残っていけません。部品開発も形や品質にこだわる従来の“静的な開発”から、走行中の人の感覚や安全性にフォーカスした“動的な開発”への転換が不可欠です」。
“静的な開発“から“動的な開発”へ
VTDはまさにエンジニアの五感を刺激し、創造力を引き出す武器だと思っています
取締役・執行役員 開発本部 本部長 石川卓氏
のどかな陽のあたる石畳の住宅街。シート位置を調整してハンドルを握り、アクセルを踏み込むと、緊張して力が入ったのか、車はタイヤをきしませながら左右にロール、慌ててブレーキに踏み変えると急停止しました。
これは豊田合成が導入したドライビングシミュレーターVTD上での体験。大きなディスプレイに映し出された住宅街の映像と連動し、運転席では揺れと振動が再現されます。
「われわれの主力製品であるハンドルの開発を強化したかった」とVTD導入の理由を語るのは豊田合成の技術開発を指揮する石川氏。「これまではエンジニアが机上で設計を仕上げていく“静的な開発”でやってきましたが、ハンドルというのは自動車開発では車輪周辺の構造であるシャシー領域に分類されます。走行中の動きと密接につながっており、動きを考慮して設計を進めていく“動的な開発”が絶対に必要です」。
2020年、コロナ禍でビジネスの先行きが不透明になるなか新たな投資に消極的な声も上がりましたが、石川氏はその声にひるむことなくVTD導入を推進しました。
「コロナ禍の影響だけでなく、いま自動車業界は電動化や自動運転など100年に1度とも言われる大変革の時を迎えています。従来の延長線上で物事を考えているようではこれからの自動車業界では生き残っていけません。VTDは次世代の自動車部品開発における有効な手段なのです」と語ります。
コンパクトで軽量、移動も自由
VTDお披露目の技術展示会が好評を博し、新型ハンドルの完成度向上にも一役買っています
商品開発センター SS開発部 主監 船津基也氏
もともと社内の設計開発が机上で完結していることを危惧していた石川氏。エンジニアたちの間では作り上げた試作品をOEM先に送り、そこで走行時の性能や感触をテストしてもらうという流れがルーティン化していました。「そうしたフィードバック待ちの姿勢ではいけません。こちらから走行時の特性を積極的に提案するようにならなければ」と石川氏は話します。
かといって部品メーカーが数百億円もかかるテストコースを自前で持つのは論外。妥当な選択肢としてドライビングシミュレーターの導入がありましたが、世の中に出回るものはサイズや機能が過剰で、予算的にもニーズに合うものがなかったと石川氏は語ります。
思いあぐねているとき、最新のIT動向を知る目的で出向いたISIDのオフィスで偶然、あるドライビングシミュレーターを目にします。「見た瞬間、これはいいと思いました。小さなオフィスにも収まるサイズで、移動も手軽。機能性も申し分ありません」。それはISIDがカスタムメードで提供するVTDでした。6軸のモーションプラットフォームを備え、手持ちの走行シミュレーションや制御ソフトウエアとの連携も可能。ユーザーの求める仕様に合わせて自由にシステムを構成できます。
自社に戻った石川氏はハンドル設計を担当するSS開発部の主要メンバーにVTD導入の意向を伝え、そのための検証を進めるよう指示しました。
実稼働までわずか8ヶ月
走行中の感覚をもとにお客様に実車目線で新たな提案ができるようになりました
商品開発センター SS開発部 部長 鈴木滋幸氏
「導入が決まったときには、お披露目の日も決まっていて、どう間に合わせるかが問題でした」と話すのは導入プロジェクトの実務を統括したSS開発部主監の船津基也氏。それは毎年計画されている豊田合成のOEM向け技術展示会でした。「8ヶ月で仕様を詰めて、設計、搬入設置、稼働検証まで済ませなければならない。これはかなりの綱渡りです」。
しかし、プロジェクトが始まってみるとその心配も杞憂に終わります。VTD導入の細かな仕様決定と構築指示にあたった予測技術室の高谷久士氏は「ISIDのサポートのおかげでプロジェクトは遅延なく進んだ」と話します。
「ベースとなるユニットにいろいろなカスタマイズをお願いしましたが、すべて支障なく対応してくれました。例えば車種の違いに対応したコックピットの設計や移動しやすい台車の設置。車のデバイスに使われるCANやLINなど通信規格への対応。ハンドルから感じる路面反力を再現するマッピングデータや各種スイッチ操作に応じた車両制御モデルとの連携など、多くの領域にわたりました。ISIDのサポートチームは自動車業界の事情にも詳しく、またシミュレーションやVRの技術に長けているのでとても頼りになります」。
マーケティングにも効果、開発に欠かせないツール
揺れや動きのなかで物がどう見え、どう感じるか、VTDは設計検証に欠かせません
商品開発センター デザイン開発部 インテリアデザイン開発室 室長 佐山仁康氏
8ヶ月後、VTDは無事技術展示会の会場を飾ります。「お披露目は大成功でした」とにこやかに振り返る船津氏。VTDに試乗したOEM先のエンジニアに新型ハンドルの使い心地を尋ねたところ予想以上に好評で、その噂を聞きつけた評価担当の方たちも会場に押し寄せたといいます。 「VTDをフル活用して新型ハンドルの完成度を高めており、今度はOEM先の社内発表会でそれをVTDに搭載してお披露目したいといわれています」と船津氏は打ち明けます。 車内のインテリアデザインにおいてもVTDは大きな力になっています。「いまはヒューマンファクターエンジニアリングの時代」と話すのはインテリアデザイン開発室室長の佐山仁康氏。「見た目やスタイリングより乗り心地や使い勝手、安心感など、人の感覚を中心にデザインを考えるのがいまでは業界の常識。そのためには運転中の揺れや動きのなかで物がどう見えるか、手に触ってどう感じるかを知る必要があります。その意味でVTDは検証に欠かせないツールです」。 また主力製品のハンドル開発にあたるSS開発部部長の鈴木滋幸氏も「動的な視点で設計検証できるVTDの存在は大きい」と話します。「好評だった新型ハンドルの開発でも、VTDで得られた走行感覚をもとにグリップの太さや形状を微妙に調整しました。お客様に実車目線での提案ができるようになったことは大きな収穫です。ステアリングとタイヤを物理的につなぐことなく電気信号でタイヤを操作する “ステアバイワイヤー”などハンドルのあり方が大きく変わろうとしているいま、こうした検証ツールが手元にあることはとても重要です」。
エンジニアの創造力を引き出す
ISIDのサポートチームは業界事情に詳しく技術にも長けているのでとても頼りになります
自動車事業本部 自動車事業統括センター 性能実験部 予測技術室 チームリーダー 高谷久士氏
先が見通せない大変革の時代にあえて攻めの投資を推進した石川氏。VTD導入の成功を見ながら最後にこう話しました。 「本来、開発者というのは上司の指示や開発目標で仕事をするのではなく、ものを創ることの愉しさに導かれ仕事に没頭するものです。そのためにはなにか五感を刺激するものがなければいけない。VTDはまさにエンジニアの五感を刺激し、創造力を引き出す武器だとも思っています」。
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※ウェザストリップ:ドアや窓枠などに装着し雨風・騒音を遮断するための部品
2022年6月更新
- 社名
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豊田合成株式会社
- 本社
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〒452-8564 愛知県清須市春日長畑1番地
- 設立
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1949年6月15日
- 売上収益
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8,302億円(2021年度/連結)
- 資本金
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280億円(2022年3月31日)
- 従業員
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39,511名(2022年3月31日)
- 事業内容
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自動車部品の製造/販売(ウェザストリップ製品・機能部品・内外装部品・セーフティシステム製品)
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その他製品の製造/販売(オプトエレクトロニクス製品・特機製品)
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スポーツチームの運営およびスポーツ施設の管理
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ご参考資料
机上検討をすぐ評価・検証して開発の効率化を図りたい、自動運転車両の開発とテストを仮想空間で行いたいなど、ドライビングシミュレーターに求められるニーズは多様化、かつ高度化しています。ISIDはこれらお客様の声に応えるため、小型・高性能を実現した「VTD」ソリューションを開発しました。これにより、車両諸元、仕様、制御パラメータが製品に与える効果を人の体感として理解することが可能となり、人を中心にしたモビリティ開発の実現を強力に支援します。
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※記載情報は取材時(2022年4月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。