信頼できる情報社会への過渡期
~クオリティ・オブ・ソサエティ指標2024より~
電通総研は、2024年6月、全国12,000名を対象に「クオリティ・オブ・ソサエティ指標2024」を実施しました。本記事では、情報源やメディアについて尋ねた意識調査を取り上げ、日常の中にあふれるさまざまな情報に対して人びとがどのように向き合っているか、また、情報の信頼性についてどのように考えているかを探ります。
◎「クオリティ・オブ・ソサエティ指標2024」調査レポートはこちら
1.情報との付き合い方への不安
画像生成技術などの発展を背景に、ディープフェイクと呼ばれる精巧な画像・映像・音声などの偽情報がインターネット上で広まることが問題となっています。また、悪意はなくとも誤情報がSNSを通して拡散することも少なくありません。偽情報は意図的につくられたうそや虚偽の情報のこと、誤情報は意図せず間違った情報のことで、この二つは全くの別物ですが、インターネットを介して瞬時に情報が多数の人びとに共有されてしまう昨今では、いずれも不正確な情報が社会に混乱を招いたり、情報の信頼性を低下させたりする原因の一つです。それと同時に、情報の偏りも起きています。膨大な情報を取り扱うプラットフォーム側は、アルゴリズムを用いて個人の嗜好を推測し、情報を提供しています。さらにインターネットの中では似た興味・関心をもつ人たちだけで情報共有されることも多く、いわゆるフィルターバブル※1、エコーチェンバー※2といった現象が起きており、こうした情報の偏りがもたらす個人や社会への悪影響に懸念が生じています。
今回の調査では「自分は偽情報や誤情報にだまされることはないと思う」と回答したのは25.4%(そう思う+ややそう思う)でした。それよりやや多い28.2%(そう思わない+あまりそう思わない)はだまされることがあるかもしれないと回答しています。さらに約半数が「どちらともいえない」と回答し、偽情報や誤情報との付き合い方がわからない様子がうかがえます。また「自分が受け取っている情報は、偏っていると思う」と回答したのは40.3%(そう思う+ややそう思う)でした。こちらも約半数が「どちらともいえない」と回答しており、情報の偏りが起きているかどうか判断できない様子がうかがえました。
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※1フィルターバブル:アルゴリズムによってネット利用者の見たい情報が優先的に表示され、自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立するという情報環境のこと
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※2エコーチェンバー:自分と似た興味・関心をもつユーザー同士が集まる場で、自分と似た意見が返ってくることで、それが多数派であり正しいと思うようになる状態
2.インターネット上での信頼性
スマートフォンやタブレット端末、パソコンが個人単位で使用され、個人にひもづいた取引や情報発信が日常のものとなりました。誰でも簡単に情報発信できるしくみがたくさんあるために、有象無象の情報があふれてしまい、インターネットを用いて情報収集をする際に何を信頼したらよいかわからないこともあるでしょう。古い情報のままで長く更新されていないもの、取材や下調べが足りずに正確性を欠くもの、キャッチーなタイトルでアクセス数を稼ごうとしているもの、権利侵害をしているもの、さらにはフィッシング詐欺サイトも隠れていて、こうした状況がインターネットでの情報収集を困難なものにしています。また、ネットショッピング、ネットバンキングなど個人情報やお金の絡む契約・取引、自治体への申請や納税といった公的な手続きのDXも進みつつあり、インターネット上で個人を特定する形でシステムが運用されています。利用者の利便性と不安とがせめぎ合う中で、専用の認証端末が必要になる場合や何段階もの認証をおこなう複雑さを嫌がる声もあります。
今回の調査では、インターネット上での情報の信頼性と本人確認のしくみについて尋ねました。「インターネット上にある情報には、信頼性を確認できる認証などのしくみがあるとよい」と回答したのは64.4%(そう思う+ややそう思う)でした。また、「書類やスマートフォンを使った二段階認証などをしなくても、インターネット上で技術的に信頼性高く本人認証ができるしくみがあるとよい」と回答したのは56.3%(そう思う+ややそう思う)でした。情報そのものの信頼性の保証、信頼性が高く煩雑でない個人認証システムの実用化への期待がうかがえます。
3.マスメディアに求める役割
さらに「正しい情報か確かめるために、必要だと考えるメディア」についても尋ねました。全体での上位回答を見ると、1位「民放地上波テレビ」34.6%、2位「NHK地上波テレビ」34.5%、3位「オンラインニュースサイト・アプリ」29.8%、4位「新聞」27.1%、5位「政府・官公庁・自治体などのウェブサイトやSNS」20.7%でした。ただし、上位に挙がっているメディアの多くは高年齢層のほうがより必要だと考えていて、若年層との差が開いていることが注目されます。18-29歳では「あてはまるものはない」が30.3%で最多、次いで「民放地上波テレビ」25.0%、「オンラインニュースサイト・アプリ」19.1%、「X」16.3%という特徴的な回答が見られました。
高年齢層を中心に、正しい情報か確かめるために必要だと思われているテレビや新聞などのマスメディアに関しては、次の調査結果から、その期待と課題を見ることができます。「マスメディアには、公平中立な立場で情報提供をしてほしい」と73.3%(そう思う+ややそう思う)が回答し、多くの人から社会におけるニュートラルな情報提供者の役割を期待されている半面、「記者が取材しているマスメディアの情報は信頼できる」と回答したのは21.8%(そう思う+ややそう思う)にとどまっていました。
4.一人一人の情報リテラシー
情報の信頼性の担保と判別のしくみは、さまざまな業界や分野でまさに喫緊の課題として模索されています。しかし現在は信頼できる情報社会への過渡期と考えられ、一人一人が高い情報リテラシーをもつことが求められています。偽情報や誤情報に関しては、ファクトチェックを専門とする組織や団体※3によるファクトチェック情報とその根拠を参考にし、自らの“情報を見る目”を鍛えることも必要になるでしょう。
日常生活のさまざまな場面(例えば公衆衛生、安全、コミュニケーション、選挙、娯楽など)において、情報との付き合い方について問題提起されていることもあり、今回の調査からは、多くの人が情報の“正確性”について意識している様子がうかがえました。「得られた情報が正しい内容なのか疑うことも必要だと思う」74.3%(そう思う+ややそう思う)、「情報を得るときは、複数の情報源から入手することが必要だと思う」71.2%(そう思う+ややそう思う)と、7割を超える人が情報の“正確性”を意識する回答をしています。一方、情報の“偏り”については、個人で対処しようという意識をもっている人はそこまで多くはありませんでした。「自分にとって興味がないジャンルの情報に接することも必要だと思う」と回答したのは53.3%(そう思う+ややそう思う)と半数程度にとどまっています。
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※3ファクトチェックを専門とする組織や団体:世界各国のファクトチェック団体からなる連合組織として国際ファクトチェックネットワーク(International Fact-Checking Network、IFCN)が2015年に設立されており、日本では2022年に設立された日本ファクトチェックセンター(JFC)などが加盟(参考:「ファクトチェックから読み解く、ニュースメディアの未来」)
まとめと考察
日常生活においてインターネット上の情報との付き合いは欠かせなくなりました。インターネットの安心安全というと一般的にサイバーセキュリティを指すことが多いですが、情報の信頼性という観点からの議論も必要です。履歴をもとにカスタマイズされているために、情報を検索する際には自分が好む内容を得やすいという便利な面がある一方で、アルゴリズムによって偏りのある情報が提供されています。さらには正確かどうかわからない有象無象の情報の洪水の中にいるという状況です。デジタルプラットフォーム事業者の責任として、透明性と公平性が問われるようになりましたが、現状は悪質な情報への対処も十分とは言えません。そのような中でデジタル情報社会におけるよき市民であるために、さまざまな場面において思考や判断のよりどころとなる、信頼できる情報を得るためにはどうしたらよいでしょうか。
大切なことは、得た情報をうのみにせずに、一人一人が考え、しっかり問うことだと考えます。これは正しい情報か。自分は偏った情報で判断していないか。誰・どのような組織の責任で発信されているのか。この情報に悪意はないか。そうした問いを繰り返し、情報を見る目を鍛え、巧妙化する偽情報などに対するリテラシーを上げていくことが、過渡期を生きる私たちに必要なことだと考えます。
この過渡期においてはメディアの役割も問われています。現在はインフルエンサーと呼ばれる個人・集団が多様なSNSを通じて情報発信をしており、特に若年層に対してはマスメディアより影響力をもつこともあります。しかし、マスメディア、それに準じる規模のメディア、ジャーナリストが果たす役割は、インフルエンサーとは全く別のものだと考えます。マスメディアなどに所属して報道に携わる人たちには、取材から報道に関わるルールや倫理観が共有され、信頼できる情報を発信するしくみが脈々と継承されてきました。それは一朝一夕で身につくものではありません。メディアの記者やジャーナリストの専門的な視点は、この先のデジタル情報社会に向けた動きの中で果たす役割が大きいものと考えています。
信頼できるインターネットとは何か。デジタルプラットフォーム側が提供するしくみ、情報を送り出す側と受け取る側の目、それぞれの意義と役割について議論の対象としたうえで広く理解を得ることは、信頼できる情報社会の実現に向けて避けられない課題であると考えます。
■調査概要
調査時期:2024年6月19日~6月23日
調査方法:インターネット調査
対象地域:全国
対象者:18~79歳の男女
サンプル数:12,000人(都道府県×性年代の人口構成比に合わせて回収)
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※グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。
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※本調査(12,000サンプル)の標本サイズの誤差幅は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると±1.3%となります。
Text by Mayumi NAKAGAWA
お問い合わせ先
本調査に関するお問い合わせ先
qsociety@dentsusoken.com
担当:山﨑、中川、青山、小笠原、合原
g-pr@group.dentsusoken.com
コーポレートコミュニケーション部