生成AIの保険業務における活用領域の可能性【後編】
レポートサマリー
本稿は、前にまとめた銀行業務に続き、保険業務における生成AIの実証利用について、実証プロジェクトに携わっている実務担当者に、今後活用が想定される業務内容をヒアリングして、領域別に整理したレポートである。銀行業務と同様、生成AIの回答の精度に充分な自信が持てないこともあって、顧客サービスへの利用には慎重な傾向がみられるが、既に多くの保険会社が生成AIの導入を前提に実証プロジェクトに着手している。本稿が今後生成AIを活用するためのプロジェクトに新たに着手する際の適用領域を整理する一助となれば幸いである。
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4.契約書や書類の自動生成生成AIを活用した契約書などの自動作成によって、時間の節約、記入ミスの削減によって、コスト削減につながる。
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契約書の自動生成の仕組み保険会社では、顧客ごとに異なる契約内容を反映した契約書が必要である。生成AIを活用すると、顧客情報やリスクプロファイル、選択された保険プランに基づいて、自動的に契約書やその他の必要書類を生成することができる。これにより、従来は手作業で行われていた契約書の作成プロセスが大幅に効率化され、短時間で正確な書類を作成できるようになる。
具体的には、1)AIモデルが顧客データ(名前、住所、保険タイプ、リスク評価など)を分析し、テンプレートに自動的に情報を埋め込む、2)顧客のニーズやリスク評価に基づいて、契約条件や料金が自動的に最適化され、契約書の生成時に反映される、3)必要に応じて、AIが法的条件や最新の規制にも対応し、常に最新の契約書フォーマットを提供される、といった事例が想定される。 -
書類のカスタマイズ保険契約書や付随する書類は、顧客のニーズに応じてカスタマイズされることが求められる。生成AIは、契約内容に応じて書類を自動的に調整し、顧客のリスクプロファイルや選択したオプションに基づいて、適切な条項やカバレッジ範囲を反映することができる。このプロセスでは、手動での確認や修正がほとんど不要になり、迅速なサービス提供が可能となる。
たとえば、生命保険の契約書では、顧客の健康状態やライフスタイルに基づいて、特定の保険金支払い条件や補償範囲をカスタマイズしたり、自動車保険の契約書では、車両の種類や運転履歴に応じて、異なる条項や追加の補償オプションが自動的に適用されたり、といった事例が想定される。 -
複雑な契約書の自動生成多くの場合、保険契約は複雑であり、特に法人向けの保険や大型プロジェクトに関連する契約では、複雑な条項や条件を含むことが一般的である。生成AIは膨大な数の変数や条件を処理し、非常に複雑な契約書でも正確に作成することが可能となる。これにより、複雑な保険商品の販売に伴う管理コストが削減される。
たとえば、再保険契約やプロジェクト保険の契約書作成では、顧客やプロジェクトに固有のリスク要因を考慮し、生成AIが適切な条項や条件を自動で挿入する。 -
顧客体験の向上契約書や書類の自動生成により、保険会社は迅速かつ正確なサービスを提供できるため、顧客の利便性が向上する。顧客は保険の見積もりをリクエストした際、短時間で正確な契約書を受け取ることができ、契約手続きがスムーズに進行する。また、AIが書類の内容を簡潔にまとめ、分かりやすく提示することで、顧客は契約内容を理解しやすくなり、信頼感が増す。
たとえば、顧客が保険見積もりや契約手続きをオンラインで行った場合、リアルタイムで契約書の生成と提示が行われるため、待ち時間が大幅に削減されたり、契約書の内容が明確かつシンプルに提示され、顧客が契約内容を理解しやすくなったりする。 -
規制順守と法的リスクの軽減保険契約には、法的な規制や業界標準に準拠する必要がある。生成AIは、最新の法規制を常に反映し、契約書のフォーマットや条項が規制に準拠していることを確認する。これにより、法的リスクや罰則を未然に防ぐことが可能である。
たとえば、各国の保険規制に対応するため、AIは国ごとの規制に応じて契約書のフォーマットや内容を自動調整できる。
5.リスクアセスメントと引受業務生成AIを活用した保険業界のリスクアセスメントと引受業務は、スピードと精度、そしてコスト効率の向上を実現し、膨大なデータを分析、正確なリスク評価を提供することで、保険会社は個別化された保険商品を提案でき、顧客満足度向上も期待される。-
リスクアセスメントの自動化生成AIは、膨大なデータをもとに、保険申込者のリスクプロファイルを自動的に分析・評価する。健康状態、過去の事故履歴、行動データ、さらにはソーシャルメディアや公的な情報を組み合わせ、総合的なリスク評価を行う。このプロセスは非常に迅速であり、数時間から数日かかる従来のリスク評価が数秒で完了することになる。
たとえば、生成AIは、申込者の医療記録や健康診断データを分析し、病歴や将来の病気発症リスクを予測でき、糖尿病や高血圧などの疾患リスクがあるかどうかを評価して保険料を調整できるようになる。申込者の過去の運転履歴、事故記録、車両使用状況、居住地の交通環境などのデータを分析し、事故の発生リスクを評価、生成AIはリスクが高いと判断した場合、適切な保険料を自動的に提示することも可能となる。 -
引受プロセスの効率化生成AIは、引受業務(アンダーライティング)における意思決定を自動化し、保険契約の可否や条件設定を迅速に行う。これにより、保険会社は契約処理のスピードを大幅に向上させ、引受担当者の作業負荷を減らすことができる。
具体的なプロセスとしては、以下が想定される。-
データ収集: 生成AIは、顧客の提供した情報や過去のデータ(医療記録、運転履歴、事故データなど)を収集し、評価材料を集める。
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リスク分析: AIモデルが、収集したデータをもとに、顧客のリスクを多角的に評価する。たとえば、健康リスクや運転リスクを数値化し、リスクレベルを判定する。
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判断・提案: 生成AIがリスク評価に基づいて、引受の可否や最適な保険料、条件を提案する。これにより、引受担当者はその提案を確認するだけで、業務を進めることができるようになる。
ビッグデータ解析によるリスク予測の精度向上生成AIは、ビッグデータを解析してリスク予測の精度を向上させることができる。顧客の行動パターン、外部環境の変化、経済状況、地理的条件など、複数の要因を同時に考慮してリスクを予測する。生成AIはデータから未知の相関関係を見つけ出し、従来のアプローチでは気付けなかったリスク要因を特定することも可能である。
たとえば、火災保険や地震保険などでは、過去の災害データや地理情報、気象データを組み合わせ、今後の自然災害リスクを予測できる。AIは膨大なデータを解析し、特定地域の災害発生確率を計算することで、リスクの高い地域に対して保険料を調整するなどの対応が可能となる。また、生成AIは健康保険契約者の医療データ、ライフスタイル、遺伝的要因などの情報を分析し、将来的な疾病リスクや医療費の見積もりを行うことができる。これに基づいて、契約条件や保険料が適切に設定されることになる。リスクスコアリングの自動化生成AIは、顧客ごとのリスクを数値化してスコアリングすることができる。これにより、保険会社は効率的にリスク管理を行い、リスクの高い顧客に対して適切な条件を設定することが容易になる。このリスクスコアは、自動的にアップデートされ、最新のデータを反映した動的なリスク評価が可能である。
たとえば、保険会社は、車両の運転データをリアルタイムで収集し、生成AIを使って運転行動を分析することになる。安全運転を行っている顧客には低リスクスコアが付与され、保険料の割引を提供するなど、リスクに応じた個別の対応が可能となる。リスクベースの保険商品開発生成AIを活用して、リスクデータをもとに新しい保険商品を開発することも可能である。生成AIが過去のデータや市場トレンドを分析することで、顧客のニーズに合った新しい保険プランを提案する。これにより、保険会社は市場の変化に柔軟に対応し、顧客にとって価値のある商品を提供できるようになる。
たとえば、生成AIは、医療費データや病気の発生傾向を分析し、特定の年齢層や健康状態に適した新しい保険プランを開発することが可能である。たとえば、特定の疾患に対するカバー範囲を強化した保険商品を提供することで、競争力を高めることができる。 -
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6.教育とトレーニング保険業界では、新商品や新しいサービスの導入が頻繁に行われ、その度に従業員や代理店が新しい知識やスキルを習得する必要がある。短期間で全従業員や代理店向けに新商品に関するトレーニングを提供するために、生成AIは大きな役割をはたすことが期待されている。
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カスタマイズされたトレーニングプログラムの提供生成AIは、個々の従業員のスキルや知識レベルに基づいてパーソナライズされたトレーニングプログラムを作成できる。従業員ごとの理解度や進捗をリアルタイムで分析、それに応じて学習内容を調整することが可能であり、各従業員に最適化された教育が提供されて、学習効率が向上する。
たとえば、新入社員向けのトレーニングプログラムでは、個人の経験や理解度に基づいて、生成AIが学習内容を調整できる。既に他の業界での経験がある社員には、保険特有の知識に焦点を当ててカスタマイズされたトレーニングが提供される。また、従業員の過去の業務履歴やトレーニングデータにもとづき、特定のスキルに不足が見られる場合、生成AIがそのスキルに重点を置いたトレーニングを提供し、迅速なスキル向上をサポートする。さらに、代理店向けのトレーニングプログラムについてもそれぞれの状況に応じたカスタマイゼーションが可能となる。 -
インタラクティブなシミュレーションとケーススタディ生成AIは、現実的なシナリオやケーススタディをもとに、従業員が学習しやすいインタラクティブなトレーニングを提供できる。実際の顧客対応や保険契約のシミュレーションを通じて、従業員が現場で直面する課題に対処するための実践的なスキルを養うことができる。
たとえば、生成AIは、従業員が保険金請求を受理し、処理するシナリオを仮想環境でシミュレーションできる。従業員は複数のケースを実践的に学び、判断力や問題解決スキルを向上させることができる。また、顧客からの複雑な質問やクレーム対応をシミュレーションし、生成AIがリアルタイムでフィードバックを提供することで、カスタマーサービスの質を向上させる。 -
自然言語処理(NLP)を活用した知識の習得生成AIの自然言語処理(NLP=Natural Language Processing)機能を活用することで、従業員が保険業界の規制や商品に関する膨大なテキストデータを効率的に学習できる。具体的には、生成AIが保険契約書や業界規制に関する資料を自動的に要約する、法規制にかかわる特定の質問に、適切な回答をすぐに提供することが可能となる。
たとえば、保険業界は規制が厳しく、各国で異なる規制が適用される。生成AIは、最新の規制や法律の変化を自動的に反映し、従業員にタイムリーな知識を提供できる。また、規制に関する複雑な資料を要約し、従業員が理解しやすい形で提供できる。さらに、従業員が膨大な保険商品や契約条件に関するドキュメントを読む際、生成AIはその内容を簡潔に要約し、必要な情報を迅速に提供できる。これにより、短時間で多くの情報を把握でき、知識習得が効率的に進む。 -
リアルタイムフィードバックと進捗管理生成AIは、トレーニング中の従業員の進捗をリアルタイムで監視し、学習内容の理解度を評価する。従業員がトレーニングを進める中で、弱点を特定し、それに応じて適切なフィードバックや追加学習資料を提供できる。これにより、従業員は自分の理解度を常に確認しながら学習を進められる。
たとえば、生成AIは、従業員がトレーニング中に答えた質問や解決したケーススタディに対して、即座にフィードバックを提供できる。正しい答えや解決策だけでなく、なぜそれが適切だったかを詳細に説明することで、学習効果を最大化する。 -
自己学習プラットフォームの提供生成AIの活用によって、従業員は自分のペースで学習できる学習プラットフォームが利用可能になる。これにより、従業員は業務時間外でも学習を進めることができ、常に最新の知識やスキルを習得することができる。また、生成AIが従業員の学習履歴を記録し、個別の学習プランを提供することも可能となる。
たとえば、生成AIがトレーニングコンテンツを自動で更新、従業員に常に最新の業界情報やスキルアップコンテンツを提供する。従業員は自分の進捗に合わせて必要なトピックに集中して学習を進められる。 -
新商品やサービスに関するトレーニングの効率化生成AIは、新しい商品の特性や販売戦略を迅速に学習し、従業員向けのトレーニング資料やプログラムを自動生成する。これにより、短期間で全従業員に新商品に関するトレーニングを提供することが可能となる。
たとえば、保険会社が新しい保険商品をリリースする際、生成AIは商品の特徴、ターゲット市場、販売方法などを理解し、それに基づいて従業員向けのトレーニングプログラムを作成できる。このプログラムは、商品に関する知識を短期間で効率的に従業員や代理店に提供することになる。
7.不正検知生成AIを活用した保険業界での不正検知(Fraud Detection)は、保険詐欺を早期に発見し、業務効率を向上させ、経済的な損失を防ぐために非常に重要な役割を果たしている。-
膨大なデータの解析と異常検出生成AIは、保険契約や請求に関する膨大なデータをリアルタイムで分析し、通常のパターンから外れた異常な挙動を検出する。これには、過去の請求データや顧客の行動履歴、契約内容、さらには公的なデータやソーシャルメディアの情報などが含まれる。異常検出を行う際、生成AIは過去の不正行為のパターンを学習し、それに基づいて新たな不正行為の兆候を見つけ出す。
具体的には、保険金請求が短期間に何度も行われる場合や、過去の類似案件と比較して請求額が異常に高い場合、生成AIがその異常を検出し、リスクのあるクレームとしてフラグを立てる。たとえば、自動車保険で複数回の事故を短期間で報告する顧客に対して、生成AIは自動的に警告を出し、さらなる調査を促すことになる。 -
予測モデルによる不正の事前検知生成AIは、過去の不正行為データをもとに、将来的な不正行為の発生確率を予測するモデルを構築する。これにより、保険会社は疑わしい請求を事前に特定し、不正行為が行われる前にリスクを管理することが可能となる。この予測モデルは、日々更新され、新しい詐欺の手口やパターンに対応するため、常に最先端の防御策を提供する。
たとえば、生成AIは、健康保険に関する請求データや医療機関のデータを分析し、特定の医療機関や顧客による過剰請求や架空の治療行為を事前に予測する。生成AIは異常な請求パターンや、不自然な治療回数、治療内容の矛盾を検出することができる。 -
画像解析による不正検知保険請求の際には、損害写真や事故現場の画像などが証拠として提出されることが多い。生成AIは、これらの画像や動画を自動的に解析し、写真の改ざんや不自然な部分を検出することができる。たとえば、自動車事故の損害写真が過去の事故のものと似ている場合や、写真にデジタル加工の痕跡がある場合、生成AIが自動的に不正の可能性を警告する。また、生成AIは車両損傷の範囲や修理コストを自動計算し、過剰請求を防止する。
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自然言語処理(NLP)を活用した詐欺の検出生成AIの自然言語処理(NLP)技術を活用することで、クレームの説明文や証言、さらには顧客とのやり取りに含まれる不審な内容を検出することができる。これにより、詐欺行為に関連する特定の言葉やフレーズ、過去の不正請求に似たパターンを早期に発見する。
たとえば、健康保険や生命保険の請求において、生成AIは請求書類の記載内容を分析し、曖昧な説明や過去の不正請求に類似した表現がないかをチェックする。特に、不正行為に関連する特定の言葉やパターンを学習した生成AIが、過去のデータと照らし合わせてリスクを評価する。 -
リアルタイムの不正検知と警告システム生成AIは、リアルタイムで保険請求データを監視し、疑わしい活動を検知した場合に即座に警告を発する。これにより、保険会社は即座に調査を開始し、不正行為を未然に防ぐことができる。従来の手動による検出に比べ、リアルタイムのモニタリングにより、迅速な対応が可能になる。
たとえば、保険金請求の提出後、生成AIが即時に請求データを分析し、異常があればシステムが自動的に担当者に警告を発する。これにより、不正請求の支払いが行われる前に調査が開始され、不正行為を防ぐことができる。 -
不正行為のパターン認識と進化詐欺行為は常に進化しており、新しい手口が出現するが、生成AIはこれらの新しいパターンを学習し続け、迅速に対応できる。生成AIは、過去の不正請求パターンや行動を学習するだけでなく、新たに発生した不正行為にも適応し、それに基づいた予測モデルを自動的にアップデートする。これにより、次世代の詐欺手口にも対応できる高度な不正検知システムが構築される。
たとえば、保険会社同士が不正行為のデータを共有し、生成AIがそのデータをもとに業界全体で発生する新たな詐欺手口を学習し、迅速に対応する。これにより、個別の保険会社だけでなく、業界全体で詐欺行為に対抗できるシステムが構築される。
ヒアリング結果について
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代理店の存在日本国内における保険領域において特徴的と考えられるのが、「対顧客」として直接保険の契約者と対峙している場合と、代理店経由で接点を持っている場合があるという点である。両者の違いについて明示的にヒアリングできなかったが、生成AIの活用については両方を意識したコメントが多く聞かれた。代理店との関係について言えば、「商品についての照会」、「契約書作成」、「支払請求」など多くの業務において手作業の部分が多いことから、保険会社内部業務と同様に効率化が期待されている。従来手がつけにくかった複数の代理店での異なる手続きを、生成AIがその差を吸収して、これまでなかなか進まなかった業務改革が一気に進むことが期待されている。
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顧客接点の自動化多くの可能性が示唆された一方で、生成AIによって顧客接点を完全な自動化することはまだ慎重に進める必要がある、というコメントも多かった。その理由として、1)生成AIが誤った回答(ハルシネーション)を出す可能性、2)生成AIが導き出した回答の根拠を充分に説明できない可能性、3)生成AIの判断にバイアスが含まれる可能性、などがあげられており、現段階では人間がチェックするプロセスが必要、もしくはあらかじめ準備した文章の組合せのみで回答させるのが現実的な対応との意見がみられた。今後は、過去の文書やマニュアルなどを生成AIに学習させることによって、専用LLM(Large Language Model)を構築して顧客に対する回答の精度を上げることが期待されている。さらに、LLMの構築とともに、事前にトレーニングされた生成モデルと、情報検索(Retrieval)技術を組み合わせることによって、より正確で有益な回答を生成することを目指すRAG(Retrieval-Augmented Generation)という手法が注目されている。
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データの品質と統合生成AIを実装して性能を最大限に引き出すためには、大量の質の高いデータが必要である。しかし、保険業界では、長年にわたり蓄積された顧客データや契約データが、さまざまなシステムに分散していることが多く、データの統合が困難なケースがあることが懸念事項としてあげられた。また、データの形式や質が統一されていないことが、AIモデルの実証プロセスにおける障害となった事例も指摘された。課題として具体的に認識された点として、1)古いシステムに蓄積されたデータの質や一貫性の欠如、2)顧客データ、保険契約データ、保険金請求データなどの異なるデータセットの統合の難しさ、3)AIモデルの正確性に影響を与える欠損データの存在、などがあげられた。
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プライバシーとデータ保護規制日本国内では、個人情報保護法など、データの取り扱いに関する厳しい規制があり、保険業界は顧客のセンシティブなデータ(健康情報、事故情報など)を多く扱うため、生成AIの導入にはプライバシーやデータ保護への対応が不可欠となる。生成AIによるデータ解析や自動化プロセスにおいても、データの漏洩や不正利用のリスクを防ぐためのセキュリティ対策が重要となる。実証プロジェクトにおける検討を通じて、1)個人情報保護法や欧州のGDPRなどの国際基準に適合するデータ管理プロセスの確立、2)データの匿名化やセキュリティ確保のための技術的な対応、3)データ処理における透明性の確保と、顧客からの信頼確立、などに対する配慮が必要となる点が指摘された。
さいごに
本格的な利用が始まってから2年が経過し、生成AIの利用を業務上検証するケースも増えてきたことで、具体的な活用イメージも次第に明確になってきたことから、本稿では実務担当者がイメージする活用方法についてヒアリングを行って領域の整理と具体的な内容の抽出を行った。ヒアリングの結果として、「顧客満足度の向上」や「効率化とコスト削減」などは複数の項目に出てきたが、業務分野の異なる担当者から出たコメントということで、内容の整理は最低限にとどめている。技術進歩とともに、適用業務や活用方法は今後拡大していくと予想されるが、既に具体的な検討を進めた事例に学ぶ点は多い。
生成AI活用プロジェクトをコンサルティング会社に依頼すると、活用領域を整理するために業務担当者に課題ヒアリングを行う事前調査を提案されるケースも多いが、本調査の内容を参照することで対象領域に関する検討についてはかなり時間の節約となるものと期待される。現場担当者に体験してもらう際にも、将来の活用イメージを伝える際の参考になる可能性もあり、プロジェクトに着手した段階で検討メンバーに共有していただければ幸いである。※生成AIの保険業務における活用領域の可能性【前編】はこちら
執筆者:柴田 誠 Head of FINOLAB, Chief Community Officer
日本のフィンテックコミュニティ育成に黎明期より関与。2016年にFINOVATORS創設に参加。2018年三菱UFJ銀行からJDD(Japan Digital Design)に移り、オックスフォード大学の客員研究員として渡英。2019年より電通総研(当時ISID)に入社し、同年株式会社FINOLABの設立と同時に現職就任。2021年からはUI銀行の社外監査役も兼任。 -
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