電通総研が
「AI時代の製品設計・開発プラットフォーム」で挑む
次世代ものづくりの再定義
自動車産業をはじめ、日本の製造業は大きな岐路に直面している。年々製品は複雑化し、開発期間短縮への要求も高まっている。こうした厳しい環境変化に立ち向かうためには、従来のエンジニアリングプロセスでは限界があり、新たな仕組みが不可欠だ。製造DX領域での豊富な経験を持つ電通総研は、データの意味や関係性を管理する「ITP(Intelligent Thread Platform)」、AI(人工知能)エージェント群の司令塔としての「AIP(AI Platform)」で構成される「AI時代の製品設計・開発プラットフォーム(仮称)」を開発中だ。本プラットフォームは製造業にどのような価値をもたらすのか。同社のプロジェクトをけん引するキーマンに話を聞いた。
著作・制作 日本経済新聞社(2026年日経電子版広告特集)
目次
エンジニアリングにおけるAI活用の課題とヒント
VC第1ユニット ユニット長
二井 貴夫
現在、製造業は様々な課題に直面している。特に自動車産業は環境変化が激しく、メーカーやサプライヤーは抜本的な変革に取り組んでいる。エンジニアリングにおけるキーワードは、「複雑化」と「短期化」だ。電通総研 バリューチェーン本部 VC第1ユニット ユニット長の二井貴夫氏はこう説明する。
「かつての自動車はハードが主役でしたが、近年はソフトウエアの役割が大きくなりました。製品の高機能化は設計の難易度を高め、結果的に製品の複雑化を招く要因となっています。つまりハードとソフトの分離・独立や、ソフトを中心とした製品制御の中央集権化などによってエンジニアリング自体の仕組みが大きく変革し、この対応が非常に大きな課題となっているのです。また、中国メーカーが高速開発を強みに躍進しており、国内メーカーも開発期間の短縮を進めていますが、まだ追い付けていないのが実情です」(二井氏)
エンジニアリング第2ユニット
エンジニアリング技術開発1部 部長
元木 和也
製造業が取り組む各種施策の中でも、近年はAIへの期待が高まりを見せる。AI活用により、複雑化した製品設計に対応しながら開発をスピードアップさせる。そのチャレンジはまだ始まったばかりだ。
「AIはすでに使われていますが、現状は個人業務や部分最適化での適用がメインであり、AIのポテンシャルを十分に活用できているとはいえません。次世代を見据えたAI活用においては、製品設計・開発プロセスでの『判断支援』という観点がとても重要です」と電通総研 製造エンジニアリング本部 エンジニアリング第2ユニット エンジニアリング技術開発1部 部長の元木和也氏は話す。
今後は、製品要件に関する判断や、過去の不具合情報やテスト結果を踏まえた示唆を行うなど、人が膨大な時間をかけていた「複雑な製品開発プロセスの管理や意思決定」におけるAI活用が期待されるというのだ。さらに、日本の製造業がAIを活用する際は、既存の強みを生かすことが差別化のポイントになると二井氏は語る。
「まず、徹底的にデジタル化されたシステムの上でシミュレーションを高速回転させて、製品設計の完成度を高めるというアプローチがあります。中国の新興メーカーが得意とする方法です。これに加えて、日本企業は長年蓄積された経験やノウハウという強みを生かすことが重要です。強みには形式知と暗黙知があり、特に暗黙知の形式知化においてAIを活用し、人の判断に再利用できる基盤を構築する必要があるでしょう。その上で両方のアプローチを推進することが競争力向上の鍵となります」(二井氏)
例えば「現場の匠」が言語化できない技術や工程も、撮影した動画をAIに読み込ませることで、ある程度形式知化することも可能になるだろう。
オントロジーとデータスペースを前提とした
「AIレディ」なデータ基盤を独自開発へ
高橋 隆造
AI時代、製造業はどのようなエンジニアリングを目指すべきか。以前から、開発期間短縮のためにコンカレントエンジニアリング(複数工程を並行して進める手法)を実践する企業は多い。複数工程を「A→B→C→D」と順番に進めるのではなく、Aの次にB、C、Dを同時に進める手法で期間を短縮する。
だがこの手法ではB、C、Dのいずれかで問題が起きれば、再びAからやり直さなければならない。電通総研 コンサルティング本部 本部長補佐の高橋隆造氏はこう指摘する。
「製品の複雑化によって手戻りが発生しやすい状況でした。AIはこの課題解消にも有効です。例えば図面のレビュー。X部門の設計者が描いた図面はチェックを受けて、Y部門に受け渡されます。Y部門で指摘が発生すると、X部門に戻されて再び修正が行われる。これに対し過去の修正や指摘などの情報をもとに、『AIレビュアー』を構築すれば、設計者は製品設計の初期段階から多面的な検証に耐えうる図面を作ることができる。手戻りは大幅に減らせるでしょう」(高橋氏)
エンジニアリングプロセスの各所にAIを埋め込めば、開発スピードを大きく向上させられる。そのためには、AIを前提とした仕組みと基盤が求められる。特に、データ環境の整備は重要だ。
製造業が導入・利用するシステム内には非常に膨大な情報が蓄積されている。また、エンジニアリングや生産などに関するデータは様々なシステムに散在している。加えて、各システムはサイロ(縦割り)になっており、密接なデータ連携・共有は難しい状態にある。
サイロを乗り越えてデータ統合を目指す際、近年注目を集めているのがオントロジーという概念である。データの定義や記述方法、粒度などがシステムごとにバラバラでは、精度の高い分析や製品の設計判断は困難になる。そこで、各データの意味や関係性を記述する設計図(知識層)を整備する。この設計図がオントロジーであり、後述する同社のプラットフォーム、ITP(Intelligent Thread Platform)の骨格になる。
「私たちは現在、オントロジーのレファレンスモデルの研究開発を進めています。製造業をはじめ、業種ごとにオントロジーの『型』を企画・開発し、個々の企業がAIを活用しやすい環境づくりを目指します」(高橋氏)
有用なデータは社外にも散在している。とりわけ重要なのがサプライヤーのシステムに保管されたデータだ。企業の垣根を越えたセキュアなデータ連携・共有環境は「データスペース」と呼ばれ、国内外で議論や開発が本格化している。
電通総研のオントロジーやデータスペースへの取り組みは、「AIレディ」のデータ基盤づくりの一環であり、AIのパワーを最大限に引き出す製造業のシステム構築の一環でもある。
電通総研が独自開発する「AI時代の製品設計・開発プラットフォーム」で切り拓く製造業の未来
電通総研は製造DX領域において豊富な実績とノウハウを持つ。
「当社はシステムインテグレーションをケイパビリティの一つとして、約50年にわたり実績とノウハウを積み重ねてきました。特に、包括的な製造業DXには強みがあります。例えば、デジタルモデルを用いてエンジニアリングの最適化を図るMBSE(Model-Based Systems Engineering)では、日本でトップクラスの実績を有します」(高橋氏)
様々なツールベンダーとのパートナーシップも重要になる。例えば、CAD(コンピューターによる設計)のツールだけでも多様であり、そのデータ統合は容易ではない。電通総研は中立的な立場で、各ツールのデータをつなぐこともできる。
同社は、欧州有数の研究機関・フラウンホーファー研究機構と協業している。ドイツに本拠を置く同機構は科学技術の応用を主なフィールドとし、電通総研とは10年ほど前から共同研究を行っている。両者は2018年に合弁会社、Two Pillars(トゥーピラーズ)を設立。日欧の研究者たちは、MBSEやAIを組み込んだエンジニアリングの技術開発を加速させている。
この優位性を生かし、電通総研はITPとAIP(AI Platform)の2つから成る「次世代の製品設計・開発プラットフォーム」を独自開発中だ。ITPはデータを糸(Thread)のようにつないで膨大なデータを追跡可能にするとともに、データ同士の関係性や履歴を管理する。また、AIPは複数のAIエージェントを統合し判断を支援する司令塔の役割を担う。
「2つのプラットフォームが製造業の導入する様々なシステムにもつながることで、複雑な製品であってもコンカレントに製品の設計・開発ができる環境を実現します。そこには、開発スピード向上を支援するデジタルツインのシミュレーションシステムを組み込むこともできる。開発中のプラットフォームは国内製造業の競争力の持続的向上に貢献できるでしょう」と二井氏。同社は今後、エンジニアリング以外の領域でも同プラットフォームを活用・展開する考えだという。
現在、この「AI時代の製品設計・開発プラットフォーム」は自動車メーカーをはじめ、複数の製造業との間で実証実験中だ。AIによるエンジニアリング変革、企業変革を目指す企業とともに、電通総研はものづくりの未来を切り拓こうとしている。
フラウンホーファー研究機構からのメッセージ
Head of Department, Digital Engineering
Aschot Hovemann 氏
今、欧州の製造業は根本的な変革期にあります。
製品がソフトウエア定義型となり、AIが組み込まれ、継続的なアップデートが前提となる一方で、ドキュメント中心のエンジニアリングに依存しています。製造業が真に求めているのは、これ以上ツールを増やすことではなく、相互に連携した継続的かつエビデンスに基づくエンジニアリング手法なのです。
電通総研と共に取り組む「AI時代の製品設計・開発プラットフォーム」の意義と価値は、まさにここにあります。
現在、日本と欧州で本プラットフォームを共同研究・開発しており、文化や組織の垣根を越えた協働により、互いに学び合い、相互補完的な強みを融合させようとしています。日本の卓越した「モノづくり」と、欧州のシステムズエンジニアリング、そして人間とAIの協調による信頼性の高い分析を掛け合わせることで、この先10年を見据えたグローバル製造業に不可欠となる競争力を創出できると確信しています。