50周年の感謝を地域創生のカタチで。
青森市で中学生向けイベント「TECH KNOCK」を開催
電通総研50周年事業・イベントリポート

青森空港から田んぼの続くのどかな風景を抜けた先に、青森市役所本庁舎(以下、青森市役所)は建っていました。2019年にできたばかりのきれいな庁舎を入ると「TECH KNOCK」の看板。市役所の1階をVRゴーグルや計測機械、モニターが並びます。「青森市役所のロビーは市民の皆さんが集えるようイベントや展示ができるため、広くとられているんです」青森市役所 企画部DX推進課 課長の齋藤優氏は、会場を前に嬉しそうに語りました。

フロアでは、青森市役所の職員の皆さんがお仕事をされる中、電通総研のスタッフや教育事業を展開するエデュソルの皆さんが、機材の準備を進めています。

電通総研のCoVRやDigSports、エデュソルのロボッチャ……。企業、自治体、教育分野など、それぞれの視点や専門性をもってテクノロジーを活用するプレイヤーたちが、青森市役所に集まりました。このイベントでは、青森市在住の参加者の皆さんが、テクノロジーが自分のまちや全国でどのように活用されているのかを知り、実際に触れてみることで、その可能性や親近感を感じてもらい、まちの未来を自分ごととして考えるきっかけになることを目指しました。50周年を記念して第一歩を踏み出した電通総研の社会貢献活動をご紹介します。

2025年12月に50周年を迎える電通総研

1975年12月11日に産声を上げた電通総研。多くの企業や地域の皆様に支えられ、成長してきた当社は2025年に創立50周年を迎えます。これを機に、社会への感謝と未来への責任を込めて、「社会貢献活動方針」を策定しました。「事業を通じて社会に貢献する」という従来の考え方に加え、50年間培ってきたノウハウや知見を、ビジネスとは別の社会貢献活動としても還元していくことを目指し、より明確な方針のもとで活動を推進しています。「50周年を機に、電通総研らしい社会貢献活動を推進すべく「テクノロジー」「スマートソサエティ」「次世代を担う子どもたち」という要素を軸に、『TECH KNOCK』を企画しました」と「TECH KNOCK」の企画責任者を務めた松永泰次郎は語ります。

「TECH KNOCK」とは電通総研が新たに取り組みを開始した社会貢献活動。知るセッション・体験セッション・ワークショップセッションの3セッションからなり、地域の課題を探し、テクノロジーを体験し、そのテクノロジーを活用してどのように課題を解決するかを考えます。「自治体がそれぞれ地域課題に則したDX戦略やスマートシティ方針を出されていますが、子どもたちには少し難しい印象です。TECH KNOCKでは、実現可能性とか一旦置いておいて、地域に住む自分たちが手の届く範囲で困っている人たちを解決したい思いを持ち、それをテクノロジーを使ってどのように解決していくか自分たちの頭で考えることで、自分事化してほしいと思っています」本プログラムを開発したUXデザインセンターの藤崎 友梨はそう話します。

地域課題に取り組む

「青森県は、就職や進学などで県内を離れる人の数が県内への転入者を上回る『人口の社会減少率』が全国で最も高い県※1です。その人口減少に歯止めをかけなければいけない。魅力ある教育、市民サービスを提供しなければ生き残っていけません」
今回の「TECH KNOCK」開催の舞台である青森市でDX推進課課長を務める齋藤 優氏は危機感を語ります。

青森県は2025年3月に「青森市スマートシティビジョン」を発表。「この街のデジタルは、温かい。〜温もりのあるまちづくりを、デジタルの力で。〜」をコンセプトに「DX先進都市 青森市」の実現を目指し、様々な取り組みを進めています。※2
電通総研はあおもり創生パートナーズとともに、2024年の「総務省『地域デジタル基盤活用推進事業(推進体制構築支援)』」から青森市のDX推進を支援してきました。
「高齢者のデジタルデバイドの問題、庁内のデジタル人材・知見の不足など様々な課題を抱えています。電通総研とはそのような課題を一つずつ改善していく取り組みを進めています」(齋藤氏)

「青森市の支援を続けていく中で、社内で今回の50周年記念の社会貢献活動の話が持ち上がりました。それならぜひ青森市でやりましょうと。青森市は『人口の社会減少率』の課題を抱えている。このような地域の課題があって、それを解決する技術がある。それも東京の企業である私たちだけでやっても駄目だよねと。『地域デジタル基盤活用推進事業(推進体制構築支援)』でもご一緒していただいている、あおもり創生パートナーズの皆様にもお声がけし、TECH KNOCKで子どもたちが出してくれたアイデアを持ち帰り、具現化する取り組みができないか検討いただくことにしました」と、青森市のDX推進を支援する、森田浩史はこの青森市でTECH KNOCKの第一歩を踏み出したきっかけをそう話します。

DigSports・エデュソル・CoVR…様々な技術に触れる

「普段は製造業のお客様にVRシステムの導入をしています。例えば、新しい車の新機能を販売店に紹介したり、メンテナンスの仕方を整備士に教えたり、世界に広がるお客様の拠点にVRでリアルに情報を届ける仕組みを構築するのが私たちのミッションです」と話すのは、今回の体験セッションでエンタープライズ向けメタバースシステム「CoVR」を提供する中川洸佑。今回は子どもたちにVRゴーグルをつけてもらい、メタバース空間の散策を体験してもらいました。遠隔にいる人とコミュニケーションをとり、手を振ったり相手の動きを真似したり。子どもたちの笑顔がこぼれていました。

「子どもたちはVRに限らず、あまりこのような技術に触れることは多くないと思うんです。地域によっては、そのような機会はさらに限られてしまう。若いころから技術に触れることで、私生活の中でも、『VRがあればこんなことができるな』と考えることができると思うんです。早い段階から興味を持ってもらい、進学や就職の際の視野を広げるお手伝いができたら嬉しいです」(中川)

CoVRの横は、卓上式のロボットとボールが置かれたテーブルが並ぶエリア。パラスポーツの「ボッチャ」と「ロボット・プログラミング」を掛け合わせたテクノロジースポーツ「ロボッチャ」を体験できる場所です。STEAM教育※3のツールとして注目を集め、身近なモノのしくみや使われている技術を知り、再現することで、社会にある問題を発見・解決していくプロセスを学びます。
今回、電通総研の社会貢献活動に全面的に協力してくださった株式会社エデュソルは、子どもから大人まで幅広い「教育」の問題に向き合っており、これまで電通総研が手掛けてきた教育に関する取り組みでも多くのサポートをしてくださっています。今回はロボッチャの体験を通してSTEAM教育の一端を体験できるブースを準備してくださいました。代表取締役 岡本弘毅氏は「私たちは“教育”を軸に様々な学校や自治体、企業にソリューションを提供したり、課題解決のお手伝いをしたりしています。電通総研との出会いも、教育関連のソリューションを開発するお話があり、お声がけいただいたのがきっかけです」と電通総研との出会いを教えてくれました。
現在の教育の課題について、岡本氏は「STEAM教育の推進をきっかけに学校や自治体が様々な施策を講じていますが、一過性のものになりがちで、先に繋がっていかないのが現状です。今日のイベントもそうですが、このような技術に触れる機会があっても、その技術を活用して、何かに生かしていくというところまで考える機会がない。教育機関だけでなく、自治体や地元の企業などが支援して、継続して子どもたちの教育を支援していくことができるのが理想だと思います」と話します。

イベント開始から多くの方が体験待ちをされているのは、体力測定で向いているスポーツをAIが提案してくれる 「DigSports」。「DigSportsを触ったのはこの社会貢献活動をやることが決まってからなんです」と笑顔を見せる電通総研の大内真平は、当社の社会貢献活動をリードする一人で、今回の取り組みではDigSportsブースの運営を担当。参加者の方々と多くのコミュニケーションをとり、イベント会場を盛り上げていました。 モニターに登場するキャラクターの案内に沿って体を動かすゲーム感覚の仕組み。
最後には体験者にあったスポーツをレポートにしてお渡しします。
「私たちが50周年やってこれたのは、お客様や地域の皆様、パートナーの皆様があってこそ。これからは私たちが少しずつ社会に還元していく番なのかもしれません。私はこのようなイベントを一過性に終わらせるのではなく、継続して実施していきたいと思っています。その第一歩として、事業でご一緒させていただいていた青森市の皆様が、この活動に興味を持ってくださって、この場を提供してくださいました。このご縁を大切に次の開催に繋げられるよう、今日を生かしてどんどん良いものへとブラッシュアップしていきたいです」(大内)

中学生の柔軟な発想で

青森市庁舎の会議室を利用して開催されたワークショップには青森市内の中学生11人が参加してくれました。仮想の青森市民となったAIペルソナに日ごろのお困りごとについて様々な角度からチャット形式で質問し、テクノロジーを活用してどう解決するかを考えるワークショップ。参加者がグループで意見を出し合いながら、未来の青森市の在り方や住民の暮らしを考えました。
最後の発表では、「お年寄りも使いやすい、やさしいデジタル技術を増やしたい」「青森の冬は雪が多いから、AI除雪ロボットがいたら便利だと思う」といった様々な意見が発表されました。
AIペルソナが抱える課題に寄り添いながら、「こうなったらいいな」という中学生ならではの視点が随所に盛り込まれており、非常に印象的でした。
たとえば、鉄道をこよなく愛する車掌さんのペルソナは、駅の衰退や電車の本数減少に対する危機感を抱いていました。その解決策として「電車自体を観光資源化する」というユニークなアイデアが提案されました。
また、雪かきに苦労するおじいちゃんのペルソナに対しては、本人だけでなく家族も安心して暮らせるよう、AIやドローンを活用して情報収集を行うという、その地域ならではの発想が示されました。
参加した中学生の一人は「テクノロジーって難しそうだと思っていたけれど、自分たちの生活をよくするために使えるということに気づいた」とコメント。彼らの柔軟な発想に、大人たちも刺激を受けている様子でした。
中学生たちのメンターとして参加して当社社員で青森市出身の大沢直史は、
「地方だとどうしても触れる情報が限られてしまう。学生の頃から、テクノロジーや情報、企業に触れることで、将来の選択肢の幅も広がるでしょう。その中で大学や就職で他の都市に出ても、またそのノウハウやスキルを持って地元に返ってくるような循環ができれば愛情を持った人たちによる地方創生が広がるはずです」
と話します。

社会貢献活動の今後

今回の「TECH KNOCK in 青森市」は、子どもから大人まで幅広い世代がテクノロジーに“触れる”ことができる場となりました。
全ブースを体験した来場者にはノベルティが配布される仕掛けもあり、会場を回遊する楽しみが最後まで続きました。
帰り際、親子で参加したお母さんは「子どもと一緒に未来を考えられるいい機会になった。青森でこんなイベントがあるのはうれしい」と語ってくれました。
「テクノロジーは難しいものではなく、私たちの暮らしを支える身近な存在」。
参加者の声からも、その気づきを持ち帰ることができた一日だったようです。

2025年12月更新

スペシャルコンテンツ