カーボンニュートラルへの取り組みで企業価値を創出!
電通総研の伴走支援が、広島県中小ものづくり企業の温室効果ガス削減に意義と連携を生み出す

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写真左より 株式会社電通総研 コンサルティング本部 江口 正芳、広島県 商工労働局 イノベーション推進チーム担当課長 出射 太氏、住野工業株式会社 CN推進グループ 主管 小西 克幸氏

2020年に日本政府から発表された「2050年カーボンニュートラル」宣言。これを受け、広島県では2021年に「みんなで挑戦 未来につながる 2050ひろしまネット・ゼロカーボン宣言」を表明し、県庁全体でカーボンニュートラル(以降CN)事業を進めています。

一方で、国内屈指の自動車メーカーとそのサプライヤーをはじめとした多くのものづくり企業を擁する同県では、産業由来の温室効果ガス排出量削減が課題の一つとされてきました。この状況を受け、広島県は“ものづくり”観点から中小企業のCN推進を支援するプロジェクトに着手。2021年9月の補正予算によって事業を開始し、2022年から本格的な取り組みをスタートしました。同プロジェクトの協力事業者として、参加企業の伴走支援ほか各施策の提案・実行を担ったのが電通総研です。

広島県で事業責任者を務めた商工労働局イノベーション推進チーム担当課長の出射太氏、広島県のCN事業に県内の企業として参加した自動車用プレス加工製品メーカー・住野工業株式会社でCN推進グループ 主管を務める小西克幸氏、電通総研で企業向けCNのコンサルティング業務を担い、本プロジェクトのディレクターを務める江口正芳にインタビュー。

各自の立場から、県内中小企業による現在のCN取り組み状況や課題、自治体と中小企業が共にCNを進める意義、本プロジェクトの内容と成果などについてお聞きしました。

「ベネフィットを感じにくい」「何から始めたらいいかわからない」が、県内中小企業のCN推進を阻む大きな課題

―皆さまの普段の業務と、本プロジェクトでの役割をお聞かせください。

出射:商工労働局イノベーション推進チーム(ものづくり・新産業支援担当)では、広島の中心産業となる自動車をはじめものづくり関連企業の支援を行っています。今回のプロジェクトもその一環であり、私が全体のマネジメント役を務めています。

小西:住野工業は足袋の「こはぜ」と呼ばれる留具の製作から創業して118年目になる、自動車用中小物精密プレス溶接部品の生産メーカーです。現在は自動車の車体、車両、エンジン・ミッション、シャシーの部品、約6000点以上に渡る製品を手掛けています。100年を超える事業で培った技術力と、プレス加工から組み付けまで一気通貫で手掛けられることが強み。広島を代表する自動車会社からはティア1(一次請け)メーカーとして直接仕事を受託し、ティア2メーカーとしては、国内外の主要な車メーカーのほとんどから依頼を受けています。

CNの取り組みは、2022年1月に私が主管を務める専任グループを設けてスタートしました。会社全体の事業として役員、管理職クラスの方々6名が関わるチーム体制で進めています。
今回のプロジェクトでは広島県の取り組みに参加させていただいた企業の一つです。

江口:近年は主に、製造業向けの脱炭素経営支援や業務プロセスの整備・改善などを手掛けています。本プロジェクトは2022年から電通グループ等で受託し、現在プロジェクトディレクターを務めています。


―まずは本プロジェクト始動の背景についてお聞かせください。

出射:広島県には鉄鋼や化学などを含めた製造業が多く、サプライチェーン全体で考えると多くの温室効果ガスを排出していることが課題になっていました。一方で、CNへの取り組みは直接的な利益に結びつくものではなく、企業にとってはどうしてもコストとなってしまう状況があります。

特に中小企業では、まず目の前の収益を確保し、何とか従業員を養っていく必要がある中で着手しにくい分野です。さらに最終目標が2050年までと時間軸も長く、自社だけで取り組んでもなかなかうまく進まないため、モチベーションも保ちにくい。そこで県が支援することにより、広島県内の企業間の連携や、面白い取り組みが生まれてくるのではと考えました。

ただ正直なところ、県では企業の実態を正確に把握しきれていない部分も多く、当初は何から支援したらいいかもわからないのが実情でした。そのため、まず課題の洗い出しから始めたところ、やはり取り組みが進まないのはベネフィットを感じにくいからだと気づいた面があります。

広島県
商工労働局 イノベーション推進チーム担当課長
出射 太氏


―企業としてCNに取り組み始めていた小西さんは、自社内の状況や課題をどう考えられていましたか?

小西:会社としては、持続的な経営をしていく上での重要課題だと捉えており、CNを推進していかなくては、仕事自体がなくなっていくという危機感がありました。クライアントから直接的な声や動きがあったわけではありませんが、世の中の流れからその重要性を認識し、2025年までの中長期経営計画に重点施策として追加したのです。

社内の施策としてまず取り組んだのは、生産性改善と省エネ活動です。省エネ活動では、社員に意識づけるべく啓蒙のビラをつくり、海外実習生も含めた「全従業員」にこだわって配るところからスタートしました。とはいえ、最初はやはり「これで効果が出ているのか」「次に何をすればいいのか」「誰に聞けばいいのか」が分からないという、初歩的な部分に課題があり困っていました。

企画・提案力が大切なプロジェクト。オリジナルの発想法や独自のフレームワークへの高い評価が採用の決め手に

―企業向けにCN活動を支援してきた江口さんは、中小企業のCN活動推進における課題をどう見ていましたか?

江口:一言で中小企業といっても、さまざまなフェーズの会社があると思います。例えば小西さんがお話しされていたように、CNに取り組みたいけれど「何から始めたら良いか分からない」企業は非常に多い。基本的に第一歩は、自社の温室効果ガス排出量の算定からになりますが、それが分かっても「算定方法」が分からない企業もいますし、算定のためのデータ収集が難しくて進まないケースもあります。

一方で、そもそもCNにまつわる課題に気づけていない中小企業も非常に多くいる印象です。取り組みが進まないと、エネルギー価格が高騰して事業が立ち行かなくなったり、EV車へのシフトが進む中で、ガソリン車用の部品をつくるだけでは取引が続かなくなる可能性が出てくる。そうした状況をきちんと理解できるようなご支援や、周知も進める必要があると考えています。個社ごとの支援だけでは限界があるため、 “面”でのご支援が必要になってくることを思うと、CN推進において自治体がハブになってくださることは、とても重要な要素だと思っています。


―本プロジェクトにおいて、電通総研をパートナーに選ばれた理由をお聞かせください

出射:われわれが手掛ける施策は、企画力が大切です。電通総研はこの点が一番評価されました。本プロジェクトでは、外部の審査員も加えて多様な立場の方に意見を伺い、業務の受託者を選定しています。その意味では、複数の観点で見たときの総合的な評価も高かった。例えば新規事業を考えていくときのオリジナルの発想法や、CNの取り組みを進めていく独自のフレームワーク、長年ものづくりの現場を支援してきた実績などが特に評価された点ではないかと感じています。

2022年度は公募選考により電通総研を含む3社にコンサルティング支援を実施していただきました。こうした企業への伴走支援により得られた課題等を踏まえ、2023年度からは、コンサルティング支援のほか、普及啓発などの業務すべてを1社で実施していただくこととし、企画提案を募ったところ、6社から応募をいただきました。6社の提案の中から電通総研が選ばれたわけですが、それは、これまでの経験をしっかり提案に活かし、一番的確に課題感や必要な施策を整理されている点が評価されたものであり、2024年度の業務継続にもつながっているものと思っています。

企業による「自走環境」の整備を目指し、意義づけや現場スタッフを巻き込んだ取り組みに注力

―プロジェクトで取り組まれた内容について、まずは2022年度から教えてください。

江口:当社独自のフレームワークであり、CN実現のためのコンサルティングサービスに「グリーンイノベーションコンパス」というものがあります。2022年度はこれを基に、まず6社の県内ものづくり企業をご支援しました。具体的な支援内容としては、温室効果ガス排出量の算定や戦略策定と目標設定、削減策の検討などです。削減策は検討・提案するだけではなかなか実現に至れないため、推進体制の構築までを含めて各企業の課題に合わせたコンサルティングを行いました。

また、なぜCNに取り組むのかといった「意義」を忘れてしまっても、CN活動は進まないので、仮に取り組まないと損益計算書にどれだけ影響があるかを、客観的に“見える化”する活動もあえて行いました。ほかに当社独自のアイデア発想法を用いて、温室効果ガス削減施策を検討するワークショップも開催。現場の班長レベルの方々に入っていただきアイデア出しを行ったところ、たくさんの施策案が挙がりました。加えてこれまでCNに関わってこなかった現場従業員の方たちが気づきを得られ、環境意識をより高められた点が大きな成果だったと感じています。

まずはプレーヤー自身にモチベーションが湧かないと、2050年までの継続的な取り組みはできません。そのため2022年度は推進体制の構築や適切な動機づけを含め、各企業が自走できる状況を整えることに意義がありました。

電通総研
コンサルティング本部
江口 正芳

2023年度は地域ぐるみの活動を意識し、“広げる”支援と“深める”支援の両面を進める


―2023年度はいかがでしょうか?

江口:この年には、県内ものづくり企業20社の伴走支援を行い、その内の1社が住野工業でした。伴走支援を含め大きく5つの活動を行いました。

  • 県内企業20社の伴走支援
  • 県内企業向けセミナーの開催(年3回)
  • CN推進ガイドラインなどのコンテンツ作成
  • 欧州電池規則対応のための自動車メーカーおよびサプライヤー合同ワークショップ(製品カーボンフットプリント算定の取り組み)
  • 「ひろしま ものづくりカーボンニュートラルビジネスプロジェクト」を立ち上げ、ロゴやコミュニティサイトを制作
  • 製品カーボンフットプリント:製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス排出量。

ポイントは、セミナーの開催やCN推進ガイドラインの作成によってCN推進企業を増やすような“広げる”支援と、すでにCNへ取り組んでいる企業に伴走し“深める”支援の両面を行ったことです。また、欧州電池規則対応のためのサプライチェーン企業間合同ワークショップなど、企業間の連携を意識しました。


―2023年度から参加された住野工業は、なぜ応募しようと考えたのでしょうか?

小西:お付き合いのある自動車メーカーから県の事業だと案内をいただき、概要を確認したところ、知りたい内容ばかりだったため参加しました。例えば温室効果ガス排出量の算定については、当社の場合、自社が直接排出する温室効果ガススコープ1と自社が間接排出する温室効果ガススコープ2しか出せていなかった。ティア2で関わっている外資系のメーカーですと、すでに原材料仕入れや販売後に排出される温室効果ガススコープ3まで出して当然という雰囲気があり、対応できていないことが気がかりだったのです。また、自社でつくったCN推進のロードマップもブラッシュアップが必要だったため、客観的に見ていただけるのはありがたいと。

そもそも「伴走支援」という言葉がとても魅力的でした。CNに取り組むと言っても、当時は分からないことだらけの状態。特に相談先がないことが大きなストレスだったため、随時相談に乗っていただきながら、プロと一緒に進められる安心感が、始まる前からありました。

住野工業株式会社
CN推進グループ 主管
小西 克幸氏

「着実な推進」が一番のメリット。踏み込んだ支援方法はPRにつながる利点も

―2023年度までの取り組みを終え、県として感じられているメリットを教えてください

出射:一番のメリットは、中小企業による取り組みが着実に進んできている感触があることです。何から始めていいか分からない企業ばかりの状況から、今では製品カーボンフットプリントの算定など、主体的にやりたいことの要望を伝えてくださる企業も現れています。

また、自治体の中でも踏み込んだ内容の施策に取り組めている点にも成果を感じています。広島県は産業部門からの温室効果ガス排出量が多めだからこそ、CN推進もしっかり支援していると言えるようにしていきたい。取り組みを進める上でも大切なPRにつながるプロジェクトになっているのも利点ですね。


―小西様がプロジェクトに参加してみて、役立った点を教えてください

小西:期待していたメニューが全て良かったです。特にスコープ3の算定は、親切丁寧に相談に乗っていただきながら取り組めたので一安心しました。戦略の策定についても、自社で立てた計画が本当に有効なのかの判断は、社内では難しい。しっかりとした理論に則った説得力のある評価と、改定案をもらえて勉強になりました。

具体的な削減施策に関しては、まず電通総研が100以上の施策を出してくださり、1つずつ当社に当てはまる方法かをチェックして選びました。元々自社では数十個ほどの施策しか用意できていなかったところ、有効な施策を増やすことができました。例えば工場内に10台ほど置いている自動販売機を省エネタイプにするだけで効果があるなど、私自身の発想にはなかった施策は特に印象的でした。


―他企業と共にセミナーやワークショップに参加することの利点はどう感じられていますか?

小西:他社の方とお話しする中で、自社が今どの程度CNに取り組めているのかのレベル感みたいなものを掴める良さがありました。加えて、具体的な施策も含めた他社の取り組み内容や、良い関連事業者を教えてもらえることもあります。また、県側の“熱意”をセミナーのお話から感じることができたのも利点の一つだったと考えています。

企業間連携を促進させるプラットフォームを構築し、県による仕組みづくりを進めたい

―2024年度に推進中の取り組みと、今後の展望についてお聞かせください

江口:2024年度は、主に以下4つの活動を推進しています。

  • ワークショップ・モデル化創出実証(以下3テーマ)
  • 県内企業向けセミナー開催
  • WEBサイト等のコンテンツ整備
  • プラットフォーム構築計画の策定

ワークショップは、「製品カーボンフットプリント算定と、企業間データ連携」「排出量削減・取り組み開示のための仕組みづくり」「CN活動をPL改善に活かす金融制度構築」の3つテーマがあります。

いずれもポイントとなるのは、企業間の連携です。製品カーボンフットプリントの算定では、サプライチェーン間のデータ連携が非常に重要な観点。例えばメーカーが、サプライヤーの保有するデータを直接入手して算定できれば精度が高まり、有効な削減策を立案しやすくなります。カーボンフットプリントを喫緊の課題と感じている企業は多いので、算定のためのガイドラインなどコンテンツ作成も進めています。

排出量削減においても、省エネ設備メーカーや再エネ事業者などのソリューション事業者との連携や、県内企業同士の連携の機会を増やしたいと考えています。

今後は「ひろしまものづくりカーボンニュートラルビジネスプロジェクト」を拡大して、プラットフォームを構築していく予定です。さまざまな県内企業やソリューション事業者が集まり、サプライチェーン全体で排出量データ連携をしたり、ソリューション事業者とマッチングできる“場”をつくれたらと考えています。

出射:県としてもCNを推進していくための仕組みづくりが大切だと考えています。CNは難易度が高い取り組みで、1社だけで進めていてもなかなか価値が見えてきません。企業間連携や業種間連携をどう促進させていくかが鍵。そのためのプラットフォームをしっかり作り、企業がCNに取り組むことで企業自体の価値も、製品の価値も、生産性も高められるような仕組みを目指していきたいです。

それは企業間だけにとどまらず、県庁内の業務についても同様です。開催中のワークショップは、環境県民局の職員も見学にきています。商工労働局だけの閉じたプロジェクトにするのではなく、取り組み内容を積極的に共有して、他局の政策にも取り入れてもらうなど、連携しながら進められたらと考えています。

CN推進を通した事業継続と企業価値の創出が、中小企業・自治体双方の意義になる

―改めて、それぞれの立場から自治体・中小企業がCNに取り組む意義についてお聞かせください。

小西:CNを何のために進めるかと言えば、極端な話、私たちがこの先もずっと生きていくためです。「地球を守ること」が大前提にあり、それは個々で取り組むようなものではありません。当社の社是の中に「社業を通じ社会に貢献」という考えがあります。メーカーとして今後もモノづくりをしていきますが、その事業でどれだけ社会に貢献できるかが、今回の取り組みにつながる。当社にとってのCN推進の意義は、今の地球を守ることであり、同時に事業を継続していくことに他なりません。

出射:確かに企業は今、利益追求などの一般的な活動だけをしていればいい時代ではなくなっています。社会課題へ的確に対応しながら自社の価値を高めていく必要がある。その意味では、こうした事業に取り組むことで企業価値を創れると証明できることが、自治体にとっても大きな意義になると思います。その上で欧州も含めた規制動向や、全国的な動きについて知見がある電通総研には、ブレーンとしての動きを期待しています。

江口:今後、CNの実現を目指していく上で地域ぐるみの活動はより重要になっていくと考えています。中小企業単独では難しく、自治体側もハコだけ作ってプレーヤーとなる企業がいないのでは意味がない。自治体と中小企業が連携していく中で、われわれはその促進剤になっていきたいと考えています。

広島県 概要

人口 :
2,739,446 人(2023年10月1日時点)
世帯数 :
1,253,831世帯(2023年10月1日時点)
面積 :
8479.22 ㎢
特徴 :
県北部に中国山地、県南部は瀬戸内海に面し、豊かで穏やかな風土が特徴。海の幸にも山の幸にも恵まれており、良質な食材の宝庫。県内に2 つの世界遺産と5つの日本遺産、無形文化遺産を擁し、平和への想いと復興を成し遂げたエネルギーが魅力を作っている。

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