地元・品川の水辺を楽しむ観光イベントを、ライブ配信とWEBアプリの新技術で支援
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ISIDの本社がある品川は東京湾に面した湾岸エリアのほか、目黒川、勝島運河、天王洲運河など、さまざまな水辺の風景を楽しむことができるエリアです。これら水辺を軸として地域の観光を発展させようと、2018年に始まったのが「しながわ水辺の観光フェスタ」。2020年もさまざまな拠点で屋形船や観光船などが運航されましたが、withコロナ時代にふさわしい、参加人数を抑えての“新しい開催様式”への変容が求められました。
そこで考えられたのが、フェスタ当日の様子を各拠点からライブ中継するという試みです。ISIDは、最新の技術を活用し、TOKYO2020の競技会場周辺コースを巡る周遊船からのライブ配信を担当。船上に備え付けたライブカメラ映像とGPSマップを連動させたWEBアプリを開発し、自宅にいながらにして「バーチャル乗船体験」が楽しめるシステムを提供しました。
システムのベースとなったのは、広島で行った「被爆電車プロジェクト」のライブ配信とWEBアプリの技術です。これらの開発者であり、かねてから、品川の地域活動を支援しているXイノベーション本部 西川敦が、本案件を担当しました。支援活動に至った経緯や、実際の取り組みについて、フェスタを支える地域の皆さんの声も交えながらお伝えします。
ISIDと品川の取り組みの経緯とは?
ISID本社のある品川は、地域住民の方々や周辺に拠点を置く企業との交流・協働によって、数多くのイベントやサービスを生み出している地域です。そのきっかけを創出しているのが、「旧東海道品川宿周辺まちづくり協議会」。まちをより良くして、孫子にいい形で手渡したいという思いを積み重ね、30年以上も活動している団体です。Xイノベーション本部の西川も、地域企業の一員として2014年から参加し、これまでにさまざまな取り組みに参画してきました。
「メンバーは、地域に熱い思いをもっている方ばかり。それぞれ本業がありながら、本業の技術やサービスを生かしてまちに貢献することで、普段の仕事では得られない体験や、人とのつながりを楽しんでいます。私はその中で、まちの観光を疑似体験する技術やサービスにつなげていく活動を一緒に行っています」(西川)
こういった繋がりのあるなか、西川がISIDで開発したネットワークカメラ「ミエルカム」を携え、協議会で技術説明をしたのは2019年の夏のことでした。ここで地区イベントを運営しているNPO法人なぎさの会との新たな接点が生まれました。
遠隔操作できるネットワークカメラを投入
ミエルカムとは、携帯電話の通信で使われているSIMカードを搭載した、小型軽量の高画質カメラです。LANケーブルやWi-Fiルーター、中継機器を使用せずとも、撮影はもちろん、カメラの首振りやズーム操作をほぼ遅延なく遠隔で行えるといった特徴をもっています。
「ミエルカムを初めて見たとき、この小さいカメラでこんなことができるんだと、とても驚きました。ぜひとも、地域が大切にしているイベントである「品川宿小学校 東海道駅伝」でミエルカムを使って、一緒に面白い取り組みをしたい思いました」と、なぎさの会の井上さんは語ります。
この話が実を結び、同年11月の「品川宿小学校 東海道駅伝」では、なぎさの会のボランティアチームとともに、ISIDが映像配信を担当しました。当日は、ミエルカムを駅伝コース3カ所に設置し、遠隔で映像を確認しながらカメラを操作。そしてこの映像は、YouTubeを介してライブ発信されました。
ミエルカムは地域の方々から「1回限りでなく、これからも品川の観光を一緒に盛り上げてほしい」との声をもらった西川。そこでなぎさの会とISIDのチームは、次なるチャレンジの場として、「しながわ水辺の観光フェスタ」を目標に定めました。
広島で行った「被爆電車プロジェクト」の知見
しかし2020年、世界は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、ほぼすべての地域イベントは中止せざるを得ない状況が続きました。その渦中となる8月、ISIDはミエルカムを活用し、広島で開催した「被爆電車プロジェクト」で、無乗客で走る被爆電車からのライブ配信を担います。併せて、広島のまちの3D地図をGPSと連動させて、電車の現在地がリアルタイムで表示されるWEBアプリを開発。リアルタイムで移り変わる風景と実際の位置情報を、自宅にいながら楽しめる仕組みを確立しました。
この知見は、必ず品川の地域貢献に役立てることができるはず。そう考えた西川は、動員数を抑えながらも来年にバトンをつなぎたいという思いのもと開催される「しながわ水辺の観光フェスタ」へのサポートとして、屋形船の「バーチャル乗船体験」ができるライブ配信を提案しました。
「これまでの経験から、ISIDと一緒に取り組めば絶対に面白い活動ができると確信していました。地域の観光の中でも特に屋形船は、コロナ禍で経営的にも非常に大きな打撃を受けています。なぎさの会でも積極的に応援したいと思い、ISIDに協力してもらいました」(なぎさの会)
水辺の歴史をたどるバーチャル乗船体験
こうして、地域の方の熱意とISIDの技術を推進力に、品川の水辺の観光をwithコロナ時代に即した形で価値を発信するための取り組みが始まりました。
準備期間は約2週間。オンラインで打ち合わせをし、実際に乗船しての配信テストも重ねました。「準備段階からして楽しかったですね。東京の都心で船に乗るということ自体が非日常な空間で刺激的でしたが、何より、リアルな風景に品川の歴史的背景を重ね合わせることは、とても意義あることだと感じました」と西川は振り返ります。
品川沖に位置する台場は、江戸時代から明治時代にかけて存在した砲台の「台場」に由来しています。品川は軍事拠点として栄え、江戸時代にペリー艦隊が来航した際には品川の砲台で江戸を守っていたという歴史をもっているのです。
「こうした品川の歴史を、特にコロナ禍で社会科見学ができなくなってしまった子どもたちに教えたいと思っていました。船に乗らずに自宅にいたとしても、船上から見える品川の風景から歴史を感じ取ってもらえたら嬉しいです」と話すのは、水辺の観光フェスタで屋形船を提供する「大江戸」のご主人、中沢さんは語ります。
当日の運航は品川からお台場方面へのコースを取り、品川の新旧歴史スポットを紹介することに。TOKYO2020の施設のほか、江戸時代からの流れをくむ「台場」の跡地や、風情溢れる隅田川・勝どき橋などをめぐります。この体験をさらに印象付けるのが、アプリ上の地図を「今」と「過去」に切り替えられる機能。現在の風景を楽しみながら埋め立て前の品川の姿に想いを馳せ、WEBアプリで各スポットの写真と解説文を見ることができます。
海上のGPS電波を安定的に取得する新技術
「被爆電車プロジェクト」で活用したシステムがベースにはあるものの、ISIDにも大きな挑戦がありました。
「屋形船が運航する海上は、陸上と違って電波が届きにくいスポットが存在するので、映像配信やマップ処理が不安定になるという技術的な課題がありました。そのために、さまざまな新しい技術を取り入れています。複数の回線を併用する取り組みもそのひとつで、最新の5Gの電波が届くエリアでは5Gで、それ以外では複数の携帯キャリアの回線を束ねてひとつにして全体のスピードを向上させたり、もっとも安定した回線を自動的に選ぶこともできます」(西川)
配信テストでは海上の電波状況を入念にチェックし、システムを改良。テストを重ねるたびに精度が上がり、大きな手ごたえをつかむことができました。
台風14号の影響でフェスタの初日が中止になるというアクシデントもありました。しかし、二日目の開催を願い、雨風が強まるなか、西川は船へのカメラ設置に奮闘。その苦労が報われるかのように、翌日は天候に恵まれ、屋形船には親子連れなど、多くの区民の方々が集まりました。運航が開始すると、客室前方に備え付けられた大型モニターやおのおののスマートフォンには、ミエルカムの映像やマップの位置情報・周辺スポットの説明が途切れることなく表示され、景色と映像を一緒に楽しむことができました。
今回ISIDは、withコロナ時代に地元・品川のために何ができるかを追求し、海上のイベントでも安定したライブ配信が行えるシステムを構築しました。 コロナ禍での三密回避による人数制限など、観光業界にとっては大きな打撃となる現状をさまざまなITの取り組みで乗り越え、バーチャルとリアルを繋いでコロナ以前を超える活気を取り戻すことを目指します。
今後もIT技術を活用し、さまざまな地域で観光支援につながるシステムの開発に取り組んでまいります。
2021年2月更新
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