電通総研が考えるタレントマネジメントとその可能性
~自律的な人材育成を促す仕組みづくり~

  • 人事

西村 崇 株式会社電通総研
コンサルティング本部 ビジネスデザイン第一ユニット コンサルティング1部 シニアマネージャー

河野 円香 株式会社電通総研
コンサルティング本部 ビジネスデザイン第一ユニット コンサルティング1部 シニアコンサルタント

第5回では、タレントマネジメントとその可能性について、昨今話題のリスキリングやリソースシフト等にも触れながらご紹介します。将来を見据えた人材育成に興味がある方、社員の自己育成に課題感を感じている方は是非ご一読ください。

タレントマネジメントとは

タレントマネジメントとは、一般的に、“①社員のスキルを把握し、②組織力向上のために育成や人材配置を行う”ことを指します。
この定義に従い、タレントマネジメントを進める上での基本的な考え方について説明します。
まず、“社員のスキルを把握すること”についてです。ここでは自社業務において必要なスキルを洗い出した上で、社員のレベルがどの程度なのかを測定する必要があります。ここでいう“自社業務において必要なスキル”では現在の業務において必要なスキルだけではなく、“近い将来必要になるスキル”についても検討する必要があります。次に、“組織力向上に向けて育成や人材配置を行うこと”についてです。社員の現在の保有スキルを把握したのち、組織としてのありたい姿の達成に向けて、人材育成や人材の適材適所への配置を行います。冒頭に挙げたリスキリングはこの“人材育成”、リソースシフトは“人材配置”に該当します。これらを実行する際には、個人の意思(どのようなキャリアを歩みたいか)を尊重しつつ、事業戦略と整合をとった組織の人材のあるべき姿と現状のギャップを考慮する必要があります。

企業が抱える課題感

当社がタレントマネジメントの領域を支援する中で、お客様から様々な悩みを伺います。
その中で多く挙げられるのが、変化の多い時代において、将来必要になるであろうスキルをどう洗い出してよいかわからないというものです。例えば、リスキリングやリソースシフトの文脈で語られるDXだけでなく、カーボンニュートラルへ向けた取り組みなど、企業が今後向き合うべき変化は多岐にわたります。現在の業務に必要なスキルの洗い出しにも苦労しているのに、将来自分たちの業務がどう変化するのか見通した上でその時に重要と思われるスキルを定義するのは極めて難しい、という声が多く聞かれます。
また、他の課題感として、全社で共通のスキルセット・育成施策は存在しているものの、各事業部の現場に適した内容ではなく、人材育成の仕組み自体が形骸化していることが挙げられます。

電通総研が考えるタレントマネジメント

このような課題感を解消すべく、当社では企業のタレントマネマネジメント領域の支援をしています。ここからは、当社が考えるタレントマネジメントの進め方を現状把握・ありたい姿の設定・現状とありたい姿のギャップの埋め方の3段階で説明します。

  • 1.
    現状把握
    社員の保有スキルの現状を把握するため、スキルマップを作成します。そのうえでまず必要になるのがスキルの見える化です。
    スキルの見える化について、「氷山モデル」の考え方に沿って、まず現状業務に必要なスキルの洗い出しを行います。
    「氷山モデル」というのは、ビジネスにおいて成果を生み出すために必要な要素を氷山になぞらえて整理したものです。業務に特有な知識・スキルは行動に現れやすく、かつ可変性が高く育成により成長しやすいですが、本人の思想・理念など行動には表れにくく可変性の低い要素もあります。当社では、可変性の高いもの、つまり育成による成長の余地が多い「職務遂行スキル」・「リテラシー」・「コンピテンシー」を中心に現行の必要スキルを整理しています。
    3要素の内、リテラシーとコンピテンシーは時代の変化(≒業務の変化)の影響を受けにくい部分です。一方、職務遂行スキルは時代の変化に応じて求められるものが変わるため、多くの企業が悩んでいる部分になります。
    こちらに関して、当社ではプロセス改革活動とタレントマネジメント活動を両輪で進めることにより様々な企業を支援しています。技術革新を反映した将来における業務プロセスを策定し、将来の業務を上手く進めるために必要になるスキルにはどのようなものがあるかを検討していきます。
    このような開発プロセスとタレントマネジメント領域を並走で支援することで、将来必要なスキルを上手く取り入れられない、現場の業務の勘所が今一つスキル項目と紐づかないといった課題を解消しています。 ここで洗い出したスキル項目に対して、その到達度合いを定義していくことでいわゆるスキルマップが完成します。このスキルマップを用いて、社員一人ひとりに自己評価をつけ、上長から客観的にフィードバックを行うことで、社員の保有スキルの見える化が可能になります。
  • 2.
    ありたい姿の設定
    ありたい姿の設定において考えることが2つあります。1つは個人のキャリア目標の設定の仕方、もう1つが組織としてのありたい姿の考え方です。
    まず個人のキャリア目標の設定の仕方について説明します。ここでは、組織としてのモデル人材像(≒目指すべき人材)を定め、その保有スキルの特徴を先述のスキルマップを活用して定義することが必要になります。このモデル人材は、今組織内にいる模範的な人材や、過去にいたカリスマ人材、そして今の組織にはいないが将来的に必要になるであろう人材などから洗い出します。このように組織としてキャリアの選択肢を提示し、その保有スキルを定義することで、社員はキャリアの目標をモデル人材から選び、自分の実績と見比べてどの部分を伸ばさなければいけないか簡単に分析することができます。

    もう一つが組織としてのありたい姿の考え方です。社員個人の現状を組織単位で集計し、組織として人員が不足している箇所がないかを確認する必要があります。例えば、DXのような時代の変化がある中でデジタルスキルを保有する人材は足りているのか、今のベテラン層が退職したとき後継者になりうる人材は育っているのかなど検証する必要があります。このようにスキルの現状把握を行うことで、組織的な要員管理も可能になります。
  • 3.
    現状とありたい姿のギャップの埋め方
    最後が現状とありたい姿のギャップの埋め方です。
    この手法の一つで有効なものが研修です。スキルマップと研修メニューを紐づけておくことで、社員個人が自分に足りないスキルを伸ばすための手法を確認することができ、自律的な自己育成につながります。当社では、この研修メニューに関しても、業務における実践を通してスキルを定着させる実践振り返りを含んだ多様なカリキュラムを提供した、多くの実績があります。
    また、組織として要員が足りていない箇所、例えばデジタル人材などについては組織主導で研修を実行させるなどの手段をとることもできます。
    別の手法としてジョブローテーションをはじめとした社内での業務経験を積ませる制度設計等も考えられます。スキルを伸ばすために必要な経験に社員が自ら手を挙げられるよう、組織として支援する方法です。
    これらの手法により、社員の自己育成を促進します。

タレントマネジメントの嬉しさ

ここまでタレントマネジメントの手法について説明してきました。
最後にタレントマネジメントを推進することによる嬉しさを2点示します。

  • スキルの見える化により個人の成長実感・成長意欲の向上につながる
    スキルマップを用いて自己評価を行い現状把握する、その経年データを積み上げていくことで、自分がどの領域において成長したのか可視化することができ、成長実感の向上につながります。また、1on1等で上長がフィードバックすることによりさらなる成長意欲の向上が期待されます。成長実感・成長意欲が向上することで、社員が自ら自己育成に取り組むポジティブサイクルを回すことができ、自律的な人材育成の仕組みが整います。
  • 事業戦略と連携した合理的な人材戦略を打ち出すことができる
    人材の保有スキルを可視化することで、事業戦略を実現するために不足している人材を分析することができ、それを補うための合理的な人材戦略を打ち出すことが可能になります。
    例えば、2030年までにデジタル人材を何人増強しなければならないのか、そのために既存社員から何名を育成し、外部から何人を採用するのか等検討し、そのための戦略を編み出すことができます。



 

いかがでしたでしょうか。第5回のコラムでは、電通総研が考えるタレントマネジメントについて説明しました。実際のご支援事例や施策内容について興味のある方は以下よりご相談・ご連絡ください。お待ちしております。

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