「自治体×市民×企業」三方良しの事業を興すストーリー形成

  • スマートシティ


2023年、日本の一人当たりGDPはG7において最下位となりました。経済協力開発機構(OECD)加盟38か国中でも21位となり、1位のルクセンブルクとは3.6倍の開きとなりました。これは日本人の所得の伸び悩み、個人消費の低迷を顕著に表しています。

さらに「人口減少」、「少子高齢化」、「人口・資源の東京一極集中」、「環境破壊や温暖化」など日本を取り巻く課題は山積みで、これらを解決するには国の政策だけに頼ることはできません。

これらの課題の多くは地方自治体という単位においても同様です。私たちはこれらの解決には、地域内の産官学連携による新たな事業創造と、それを支えるインフラや情報基盤の整備が、地域創生実現へのキーアプローチとなると考えています。

地域創生の潮流と課題

「地域経済の衰退」「人口減少」「少子高齢化」「環境破壊や温暖化」などといった根本的な課題を是正するため、地方自治体ではさまざまな地域創生の取り組みを進めています。
私たちは大きく分けて、5つの潮流があるととらえています。

  • 中央から地方へのお金の流れ(デジタル田園都市構想交付金やふるさと納税など)
  • 企業が地域内で新規事業を行うトレンド
  • 地域におけるサステナビリティ活動(脱炭素や循環型社会構築)
  • CIVIC PRIDE(郷土愛)醸成による地域活動
  • 産業振興団体などによる産官学連携

特にふるさと納税額は、3年連続で過去最高を更新しており、2022年度の寄付総額は9,654億円と前年度より16.3%増加しています。企業版ふるさと納税額も、ここ3年急速に伸びており、2020年度から2021年度で205%、2021年度から2022年度で151%増加しています。

ただこのような取り組みは推進されているものの、地域創生プロジェクトがうまくいっていない例が多いのも現状です。どういった壁にぶつかっているか見ていきましょう。例えば以下のような点です。

  • ハコものを建設したが、投入資金の回収がうまく出来なかった
  • 地元ならでは新しい商品・サービスを開発したが、全く売れなかった
  • 美しい構想を立てたが、絵に描いた餅で終わってしまった
  • 綿密な計画を立てて進めたが、想定通りに進められなかった

これらの主な原因は、事業やサービスが成立する前提である人の流れ、つまり需要を喚起出来ていない状態で、補助事業を組成し実行してしまうことにあります。行政が、前例の無いことへの組織的な抵抗や人手不足、デジタルに関する知識、スキル不足などの要因により、事業採算の悪化や資金不足などにうまく対処できず、事業が継続できない状況に往々にして陥ります。結果として、補助金が一過性的に地域に分配され、それを消費したら事業も停滞、頓挫してしまう。さらに、その補助金を事業として受託したのは域外の企業である。このような、地域創生とは名ばかりの施策が散見されます。

地域創生の壁を打破する為のアプローチ

このようなことを未然に防いでいく為にはどのようなアプローチが考えられるでしょうか。5つのアプローチを提示します。

  • 人の流れに着目し、消費者・生活者を呼び込める活動を構想する
    補助金やふるさと納税など地域に還流された資金が終了したあとも、住民や観光客などが訪れてお金を使いたくなるような場所や施設となるよう、持続的な仕組みを構想する必要があります。
  • 地域の民間企業・団体、金融機関、メディアが参加するプロジェクトを組成する
    地域に根差した企業や団体が中心となり、できるだけ多くの住民がメリットを享受できるサービスを、人やお金が循環する仕組みとともに考え、実現できるようなプロジェクト組成が望まれます。
  • 変化に柔軟なアジャイル型開発を構想する
    住民のニーズや社会環境の変化に柔軟に対応するため、短期間で新しい機能やサービスを継続的にリリースすることができるアジャイル型でサービスを開発していくことが重要です。仮説検証を繰り返すことで、最適な解決策を見つけ出すことができます。
  • 地域創生構想を実現するためのデジタル基盤を用意する
    地域創生へのさまざまな活動やサービスが、一体的にかつ効率的に提供されるために、地域における共通のデジタル基盤が必要です。デジタル基盤を活用することで、人々のデータを分析し、個人個人に合わせたサービスができるほか、地域内消費の相関関係を分析し、地域課題の解決につなげることも可能です。
  • 活動・行動データを収集・分析し、実態を踏まえた拡張プランの立案・更新を行う
    デジタル基盤で収集したデータや利用者のフィードバックを得ながら、サービスの拡張や統廃合など、実態を踏まえた見直しを継続的に行うことが大切です。

これらのアプローチはどれか一つを実施すれば良いということではなく、全てを同時並行的に進めて行く必要があります。現実社会の中では、このような活動は、最初は各自治体・企業・団体単位で個別に始められることがよくあります。企業がある地域でサステナ活動を始める、銀行が地域通貨を発行する、自治体が行政DXと共にスマートシティを推進しようとするような例です。持続可能性を担保していこうとする場合、「自治体」×「市民」×「企業」が連携し、その地域の中で、新しい産業や事業を興していくという目的を持ち、前述のアプローチを踏まえながら、それぞれの取り組みをつなげ、地域の中で人やお金が循環するいわゆる「ストーリーの形成及び推進」が重要となります。

地域創生ストーリーの形成の3つのレイヤー

地域創生ストーリー形成を行うための3つのレイヤーを記載します。

  • ナッジ層
  • エコシステム層
  • データ連携基盤層

ナッジ層

ナッジ層とは、市民や消費者の自然な行動変容を促すレイヤーになります。ここで創り出すストーリーで大事なキーワードは、“自然な行動変容”ということになります。この意図は、市民や消費者の日常的な行動や人の流れ、例えば通勤、通学、通院、買い物、趣味、イベントなどに対して、地域課題を解決する為の新しい付加価値、例えば健康、福祉、教育、環境保護などを組合せ、押しつける形ではなく、なるべく自然な導線の中に、新しく持続可能な事業を創り出すことを目指すものとなります。

ナッジは日常様々な所に存在します。宮城県で実施する感謝フィードバックによる資源循環促進活動※や、広島県で実施する自転車の並び改善ナッジ、滋賀県で実施する歩きスマホ防止ナッジ※など、調べることで多くの例が確認できます。これら全てにおいて大事なことは、対象となる地域課題解決に関して、社会的に強い発信が行われること、日常的な導線の中において行動の選択が非常にやりやすい形になっていること、当該行動の結果に対して評価を与えてあげることなどになります。

エコシステム層

エコシステム層の要所は、ナッジ層で創られるストーリーの中に、自治体、企業、施設などが参加し、持続可能な事業を創り出すことにあります。自治体の狙いは、市民の健康や福祉、教育の促進であったり、観光、防災、環境保護などへの対応などと合わせた、地域活性化にあります。企業の狙いは、当該地域におけるサステナブルに関する価値(商品やサービス)提供による新たな収益獲得、ブランディングにあります。これらの活動の中で、自治体や企業、施設が連携して生み出す新しい価値が、市民や消費者の新しい体験を創出し、この結果がまた自治体、企業、施設にフィードバックされます。そしてさらなる新しい価値に繋げて行くこと、地域の中でお金を還流させ続けることが出来ることが、エコシステム構築の要件となります。

企業のサステナブル活動、例えば脱炭素活動や資源ロス削減なども、企業単体で完結させることは出来ません。この実現には、サプライヤーであったり、小売・流通業者であったり、消費者など企業のバリューチェーンを構成する全てのステークホルダーの参加が欠かせません。これを世界や日本全体で一気に推進しようとすることは困難なことであり、地域の中で段階的にこのようなトライを進めようとする企業が増加しております。

データ連携基盤層

データ連携基盤層は、デジタルテクノロジーを用いた自治体、市民、企業の活動の記録、分析、予測、改善を行うものとなります。デジタル基盤を実装することで、市民の行動に対するインセンティブを与える為のエビデンスの確保、企業のサステナビリティに関する活動をブランディングに繋げて行く為のエビデンスの確保、自治体が地域活性の度合いを評価し、新たな活動や他の市区町村との接続、拡大を実施して行くことが可能になります。

電通総研では2022年に「CIVILIOS(シビリオス)」という都市OSの構築サービスをリリースしており、当該デジタル基盤の上に、市民が活用する各種アプリ(健康、防災、教育、地域通貨等)を実装し、前述のナッジ層、エコシステム層の具現化、拡大に努めております。この基盤において重要なことは、「複数の地域と連携を可能にする為の、内閣府が提唱するスマートシティリファレンスアーキテクチャーに準拠していること」と、「小さく入れて、大きく育てて行く為の、必要な機能を必要なタイミングで追加出来るような構造を保持していること」になります。

  • CIVILIOS:IoTセンサーデータや地理データ等オープンデータのプラットフォームであるFIWAREと、企業間のデータ連携や医療データ等セキュアデータのプラットフォームであるX-Roadをデータ連携基盤とし、パーソナルデータ管理、認証・ID管理、住民合意形成、分析ダッシュボード等の機能群を搭載した都市OS構築サービス。https://smart-society.dentsusoken.com/solution/CIVILIOS新しいウィンドウで開きます

終わりに

地域創生に向けては、「自治体」×「市民」×「企業」の一体化が重要であり、その地域の中で産業や事業を興して行くためのストーリー形成が必要です。そしてそのストーリー形成には、3つのレイヤー(ナッジ層/エコシステム層/データ連携基盤層)で活動を同時並行推進することが重要であると申し上げました。

その為、地域創生プロジェクトを組成する際には、これらステークホルダー及び活動全体をプロデュース、マネジメントをして行く協議会もしくは運営団体を組成することが望ましいです。

私たち電通総研もこの地域創生の主体者の一人として、自治体の皆さま、企業の皆さま、地域銀行、地方メディア、施設、大学関係者の皆さまと、地域創生を成功させるべく、活動を進めて参りたいと考えておりますので、本内容にご関心がございましたらぜひ下記までご連絡を賜れればと存じます。
 

寺嶋 高光電通総研 執行役員 コンサルティング本部 本部長
国内大手Slerでシステムエンジニアを経験後、外資系ERPベンダーの日本法人を経て、2002年、電通国際情報サービス(現:電通総研)に入社。ERP導入支援ビジネスの立ち上げに関わり、2013年には設立メンバーとしてISIDビジネスコンサルティング(現:電通総研)に参画。2021年に代表取締役社長に就任し、製造業をはじめとした事業戦略と、社内のリスクマネジメントやセキュリティなど内部統制支援を柱に事業展開。2024年1月、ISIDビジネスコンサルティングが電通総研に合流し、コンサルティング本部 本部長に就任しています。

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