「シン・製造業」に変革するために必要な「バリューチェーン戦略」【連載】シン・製造業#6

寺嶋 高光 ISIDビジネスコンサルティング代表取締役社長

 

この連載では、新しい形の製造業を「シン・製造業」と定義し、そこにアプローチするための手法を考察、実践するためのヒントを説いていきます。
前回の第5回目では、「短期的な業績目標だけでなく、社会や人のためになる中期目標を掲げ、透明性を持って意思決定を行える企業」になるための「コーポレート戦略」について解説しました。
第6回目の今回は、「シン・製造業」になるための2つ目のポイントである「バリューチェーン戦略」についてお話しします。

日本を元気づけることが出来る「シン・製造業」の4つの要素をおさらい

①短期的な業績目標だけでなく、社会や人のためになる中期目標を掲げ、透明性を持って意思決定を行える企業
②自社の強みをベースにコアとノンコアを見極め、事業環境に応じてバリューチェーンを再構築し続けられる企業
③UXをベースにして社会にとって新しい価値の創出、提供をし続けられる企業
④デジタルテクノロジーを活用し、DXし続けられる企業

早速ですが、「自社の強みをベースにコアとノンコアを見極め、事業環境に応じてバリューチェーンを再構築し続けられる企業」とは、どのようなことが具備されている状態でしょうか?
それは、以下の4つだと考えます

(1)自社が保持する機能のコアとノンコアの見極め
(2)コア領域を最大化させるためのストーリーの構築
(3)人材シフトプランの構築
(4)バリューチェーンの評価とシミュレーション

では、一つずつ解説していきましょう。

(1)自社が保持する機能のコアとノンコアの見極め

まずは、自社の事業を多角的に分析しなければなりません。コーポレート戦略の際に導き出したパーパス、ビジョンやコンセプトをベースにテンプレートに従って要素を当てはめ、自社を分析します。一般的に分析に利用されるテンプレートは以下などです。

①アンゾフポートフォリオ:市場と製品の組合せの戦略評価
②バリューポートフォリオ:ROIとビジョン・バリューとの整合性評価
③プロダクトポートフォリオ:市場成長率とシェアを軸としたプロダクト評価
④5フォース分析:事業環境分析
⑤バリューチェーン分析:バリューチェーン機能ごとのあり方評価

これらの分析から抽出した事業に関し、「A:バリューを提供する上での自社の強み」と「B:市場調達難易度」の軸でバリューチェーン機能の評価を行い、Aが高い領域に位置する機能は、内製化、高度化、自動化等を強化し、Bが低い領域に位置する機能はアウトソースなどを検討する形になります。
簡単にできることではないですが、数年にわたり、東芝、日立、富士通、ソニーなども強みにフォーカスしていくための事業売却、買収を実施しており、キャノンやニコンにおいてもサプライチェーンの再編成を断続的に実施しています。

(2)コア領域を最大化させるためのストーリーの構築

続いて、コアは内製化、高度化、自動化等を進めることを前提として、提供するバリューおよびコア領域を最大化させるためのストーリーを構築します。

バリューを社会や人のためになることとした場合、これを最大化させるためのストーリーは必然的に社会課題を解決しようとするものになり、新たなUX(User Experience)を提供しようとするものになります。

例えばKOMATSUの「LANDLOG」は、KOMATSUが確立している3Dコンストラクションという建設手法(土地の形状や地質など、建設現場の様子をデジタル空間上に3D世界として仮想的に再現する手法)を使い、建設現場の地形、建設機械、資材、車両などあらゆる「モノ」のデータを「コト化」して、建設現場に関わる全員の高い安全性と生産性を実現させるオープンプラットフォームを構築しています。

例えば、ブルドーザーやショベルカーをどのタイミングで投入し、どういう順番で地面を掘るのか、といったシミュレーションが可能です。これらの建機は、シミュレーションのプログラムに従って、無人で作業を行うことができるため、作業の効率化だけでなく、現場の安全確保にも寄与しています。

さらに、オープンプラットフォームであるがゆえにAPIを解放しており、関係各社がLANDLOGのデータを利用して、自社ビジネスに役立てたり、新たなアプリケーションを開発してユーザーに提供するなどしています。 自社でデータを抱え込むのではなく、公開することで社会性を満たすと同時に、新たなビジネスを生むためのプラットフォームとなっているわけです。

「LANDLOG」はKOMATSUだけでなしえるプラットフォームではありません。KOMATSUの強みであった3Dコンストラクションをベースに、この価値を最大化させるため、複数の企業が参加しました。それは建設現場全体の安全性や生産性向上に対するストーリーを形成し、多くのステークホルダーに説明、共感や協力が得られたから実現できたものと考えられます。

(3)人材シフトプランの構築

KOMATSUの「LANDLOG」のバリューチェーンは、既に建機を売るというモデルではなく、建設現場の高い安全性と生産性を売るというモデルへと変容しています。
建機を売るビジネスを主に行う場合は、建機を作る部分にリソースが集中しているところがありますが、建設現場の高い安全性と生産性を売るとした場合には、これを実現する建設システムの重要性が高まってきます。人材についても、既存のビジネス領域を筋肉質化、スリム化した上で、新たな仕組み、ナレッジを構築する領域に大きくリソースシフトをさせている典型的な事例になります。

(4)バリューチェーンの評価とシミュレーション

事業環境に大きな変化が発生した際のバリューチェーンの改編は、即時に行えるものではありません。事前に備えるためには、常時バリューチェーンからの実績を収集し、デジタル上においてこの評価と様々なケースを想定したシミュレーションを実施する必要があります。この環境のことをデジタルツインと呼びます。

上のモデルは、デジタル空間とリアル空間が「IoTデバイス」「モデル」「ナレッジ」という要素で常時接続され、データのやり取りが行われている状態が示されています。

「IoTデバイス」とは、リアル空間の情報収集を行う各種センサーやデバイスであり、「モデル」とは、デジタル空間上でデータを格納するためのコンテンツを意味します。
ここでの「モデル」とは、例えばデジタル空間上での、場所、建物、乗り物、人などのことを示し、データを格納する先の属性が、それが何のデータなのか、どの様な意味を持つのかなどを解釈するために、きちんと定義、識別されている(モデリングされている)状態を指し示しています。ここでは以下、4つのモデルを提示します。

1「コミュニティモデル」
街や製品の利用空間を表したもので、場所、建物、乗り物、人口、エネルギー、環境など目的に応じて様々なコンテンツが定義される

2「感性モデル」
人の健康や認知、行動を評価するためのバイタル、五感などの定量化された情報を示す

3「製品機能モデル」
デジタル空間上に存在させた仮想の製品モデルのことである

4「工程モデル」
工場をデジタル空間上で再現したもので、ライン、工程、設備、人などが稼働率、歩留まり、タクト等の生産情報を保持したモデルのことを指す

「ナレッジ」とは、デジタル空間に存在し、ぞれぞれの「モデル」に格納されたデータを分析し、解釈し、人間が理解、判断できる形にビジュアル化する役割を担っていいます。いわゆるBI(Business Intelligence)やAI(Artificial Intelligence)のことを指します。
モデルにデータを格納する際、デジタルツイン上の事象や要素に対し、どのような要素にどこまでの属性を持たせるのかが重要です。しかし、デジタルツインを構築するためには、一定の時間と投資を要することから、数年後に大きな変化が発生することが分かっている領域への適応は慎重にならねばなりません。よって、統廃合される製品や工場、3Dプリンティングに置き換わっていくような工程での適応は避けられなければなりません。

以上、「自社の強みをベースにコアとノンコアを見極め、事業環境に応じてバリューチェーンを再構築し続けられる企業」になるまでの活動の手順を4つのステップで説明しました。これらの要素は主に事業本部における活動に位置付けられます。
「シン・製造業」になる為の事業本部は、バリューを提供するためのストーリー形成とコア領域へのリソースシフトを行い、自社の強みを最大化させるためのバリューチェーンを形成しなければなりません。
それに加え、変化に強くなるためのデジタルツイン環境を構築する役割を担う必要があります。

次回は、「シン・製造業」になるための3つ目の要素、「UXをベースにして社会にとって新しい価値の創出、提供をし続けられる企業」について話を進めます。

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  • ※記載情報は執筆当時(2023年6月)におけるものです。予めご了承ください。
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