1st partyデータを統合し、顧客と直接つながるマーケティングプラットフォームへ
- 顧客接点改革
- IoT・ビッグデータ
花王株式会社 デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター データインテリジェンス部マネジャー 尾崎 広幸氏
日用品市場で国内トップクラスのシェアを持ち、化粧品をはじめとする多彩なブランドをグローバルに展開する花王株式会社。同社は創業以来、生活者との直接的なつながりを重視し、販売店や電話相談を通じて寄せられる顧客の声を、商品開発や事業展開に生かしてきました。
しかし、購買チャネルの多様化とデジタル接点の拡大により、従来の顧客理解の仕組みは転換点を迎えていました。ブランドごとのデジタル施策が増える一方で、顧客データは分散し情報ガバナンスや管理コストといった面でも課題が生じていました。
こうした課題に対し同社は、CDP(Customer Data Platform)ソリューション「Treasure Data CDP」を中核に据え、全事業を横断するマーケティングプラットフォームを構築。各担当者が精緻なターゲティングを行い、施策を迅速に実行できる仕組みを整えました。
このプロジェクトで構想段階から運用定着に至るまで5年に渡り伴走支援を行ったのは電通総研でした。マーケティングプラットフォームを実際にマーケティング活動に生かすまで育て上げ、パーソナライズ施策の実行スピードが向上。会員サイト「My Kao」の情報コンテンツに触れている人は、購買サイトのみを閲覧している人と比較して、平均購買単価が約3割高まるなど事業成果にも結びつき始めていると言います。同社デジタル戦略部門の尾崎広幸氏は「電通総研の積極的な姿勢と幅広い対応力が、プロジェクトの推進力になった」と話しています。
目次
オンライン時代に対応する顧客データ戦略の転換点
「これまでのやり方を変えなければ、という健全な危機感がありました」。花王デジタル戦略部門のデータインテリジェンス部で1st party data領域を担当している尾崎広幸マネジャーは、プロジェクト始動時の状況をこう振り返ります。
花王は長年、販売店とお客様相談窓口を軸に生活者とつながり、市場や顧客への理解を深めてきました。そこで得られる生の声は重要な事業情報として商品開発へフィードバックされ、生み出された新たな商品が同社の事業成長を支えてきました。
しかし、オンラインショッピングが勢いを増し、デジタル購買チャネルが多様化するにつれ、旧来の仕組みは見直しを余儀なくされます。「電話相談を利用する層は相対的に減少し、ブランドごとにデジタル施策が展開されるようになりました」と尾崎氏は環境変化を説明します。
こうしたなか、花王デジタル戦略部門は生活者との双方向コミュニケーションを強化する会員サイト「My Kao」やブランドオンラインショップの取り組みを加速。取り扱うブランドが100を超える同社において、各ブランドの特性に応じた施策が進む一方で、ブランドの個別最適にとどまらない、全社横断で顧客理解を高度化するための基盤の重要性が顕在化してきました。それにより、オンラインとオフラインを横断し、ブランドを越えて購買者の姿を明確に理解できる仕組みが求められていました。
解決策としてのマーケティングプラットフォーム構築
この課題に対し花王がめざしたのは、組織ごとに点在する顧客データを統合し、マーケティング施策を迅速に設計できるマーケティングプラットフォームの構築でした。
2021年末、その中核基盤として採用されたのが米国トレジャーデータ社の「Treasure Data CDP」。その選択理由として尾崎氏は大規模なアクセスを処理できるスケーラビリティに加え、多様なブランド構造に対応できる柔軟なデータモデリング、そして外部システムと連携しやすいアーキテクチャを挙げています。「My Kaoの来訪者数は年間約1,000万人。月間のユニークユーザー(UU)数は160万人に及びます。この規模のデータを安定的に扱える選択肢はほかにありませんでした」。
「Treasure Data CDP」は、データウェアハウスと高速に連携するZero Copy(ゼロコピー)機能を備え、運用負荷とコストの削減にも貢献します。機械学習やAI連携によるセグメンテーション機能やジャーニーオーケストレーション機能を搭載。データの統合から施策実行まで、一貫した運用が可能となり、マーケティング施策の高度化を支える基盤として展開することができます。
構想から定着化までを支援した電通総研のプロジェクト推進力
電通総研の支援チームは事業部門とIT部門をつなぐ心強いパートナーです
花王株式会社
デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター データインテリジェンス部
マネジャー 尾崎 広幸氏
統合データ基盤の構築は、単なるシステム導入にとどまらず、花王におけるマーケティングの在り方そのものを再設計する、全社横断の大規模プロジェクトでした。この難易度の高い取り組みに対し、構想段階から5年にわたり継続的に伴走してきたのが電通総研です。
プロジェクトが本格的に動き出した初期段階では、まず各ブランドが抱える課題や要望を丁寧にヒアリングし、共通基盤として無理なく運用できる形へ整えていく作業から始まりました。課題や要望を受け、システム構築ではCDPを中心にCMS、MA、Web接客、EC、オフラインデータなど必要な仕組みを段階的に連携し、花王の実務に沿った形で基盤全体を整備。運用がスタートしてからは、ユーザー教育や業務フローの整理を進めながら、各事業部門が自ら施策を進められる体制づくりを支援するなど、環境の定着に向けた取り組みを引き続きサポートしました。
CDPの技術的知見にとどまらず、マーケティング施策にも幅広い理解をもつこの部隊について、尾崎氏は「事業部門とIT部門の間をつなぐ心強いパートナー。積極的な姿勢と幅広い対応力が、プロジェクトの推進力になった」と評価します。
データ統合によって表れはじめたマーケティングの成果
現在、このマーケティングプラットフォームは各組織のマーケティング施策に幅広く活用され、生活者との関係性の深まりや購買行動の変化として徐々に成果が表れはじめています。
ハイエンド化粧品ブランドでは、実店舗とECの購買データを統合し、特定商品の購入者をセグメント化。さらにそのセグメントを類似オーディエンスへ拡張することで広告効率が向上しました。
若年層向けメイクアップブランドでは、購買や閲覧履歴に機械学習モデルを適用し、商品レコメンドやメールコンテンツをパーソナライズ。顧客向けコミュニケーションの最適化が進みました。
グループ横断の会員サイトである「My Kao」では、Web行動データを活用してコンテンツを出し分け、ブランドにとらわれず関心に応じて一貫した顧客体験が得られる仕組みの設計も進んでいます。
こうした取り組みによって顧客との接点が広がるなか、尾崎氏はその効果について次のように話します。「My Kaoで展開するWebコンテンツに触れているお客様は、そうでないお客様と比べて平均購入金額が約3割高い傾向が見られるなど、定量的な効果も確認されています」。
信頼を基盤とした顧客データ活用へ
これまで築いてきた顧客との関係性をオンラインにつなぐ仕組みを立ち上げることができました
花王株式会社
デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター データインテリジェンス部
マネジャー 尾崎 広幸氏
「これまでフィジカルな接点で築いてきた顧客との関係性をオンラインにつなぐ仕組みを立ち上げることができました」。今回のプロジェクトを振り返り、尾崎氏はそう話します。
一方、世界ではCookie規制の強化や個人情報保護への意識の高まりを背景に、企業が取得し活用できるデータの前提が変わりつつあります。今後の課題として尾崎氏は、ゼロパーティーデータ(顧客が自発的に提供する情報)の重要性を挙げています。
「これからは商品や購買体験の質を通じ、“この企業にデータを預けることに意味がある”とお客様に感じていただけるかどうかがとても重要になると考えています」。
花王にとってデータ活用の高度化は、単なる効率化ではありません。生活者との関係性をいかに誠実に深めていくかという問いでもあります。そういった将来の展開を見据え、パートナーである電通総研について尾崎氏は「基盤の構築や運用にとどまらず、その先の構想をともに描いていける存在として期待しています」と語っています。
データを介して花王と生活者の信頼関係をどのように育んでいくか。その問いに向き合いながら、次のステップを共に描き始めています。
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