株式会社ジンズ
売上が2倍に!コロナがきっかけとなり開発されたJINS独自の「汎用予約システム」とはなにか?
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コロナ禍をきっかけに、店舗の来店人数や滞在時間をコントロールする工夫が多くの小売業で進んでいます。アイウエアブランドのJINSは、感染拡大防止対策の一環として、2020年に「福袋予約フォーム」を導入、2022年にはその仕組みを進化させ、さまざまな商品の予約販売ができる「汎用予約システム」を構築しました。
新たな汎用予約システムでは、キャンペーンメッセージのターゲティング配信や予約したユーザへの個別フォローはもとより、予約数や受け取り状況、配信メールの開封状況を可視化。店舗毎の払い出し在庫数もリアルタイムで捕捉できるようになり、各店舗への割当を随時最適化することで、在庫数の偏りを解消しました。
汎用予約システムを開発したISIDについて、株式会社ジンズ商品マーケティング本部 販促CRMグループの真崎勇人氏は「新たな技術を取り入れながら、私たちに最適な仕組みを提案してくれます。今回の汎用予約システムもISIDから提案を受けて構築を決めたのですが、効果的なユーザフォローにより、福袋の売上が100%アップし、大きな手ごたえを感じていますし、今後も事前予約のキャンペーン商品はこの仕組みで展開していきたいです」と話します。システム開発の詳しい経緯、エピソード、効果などについて、真崎氏と開発を担当したISID丹羽ひかるに詳しい話を聞きました。
コロナによってお正月の福袋販売が困難に……。予約システムの導入検討を開始
— 当初の「福袋予約フォーム」は、どのような課題や背景があって開発することになったのでしょうか? 開発のきっかけについてお聞かせください。
真崎勇人氏(以下、真崎):新型コロナウイルスの感染拡大により消費者の行動が大きく変化したことがきっかけです。メガネという商材柄、店頭で購入されるお客様が多いので、コロナ禍以前は基本的に店頭で福袋を販売していました。ところが新型コロナウイルスの感染拡大により、お店に来ていただけない状況になってしまった。店舗がある施設の運営事業者からも「感染リスクを避けるため、一度に多くのお客様が滞在する状況は避けてほしい」と要請されていました。
そこで、「福袋の予約販売ができないかな」と思い至ったんです。予約販売は以前から一部の小売業が実施しており、世の中に浸透しつつあった、一気に広まるタイミングだったということも後押しになりました。ぜひJINSでもやってみたいと思い、まずは既存のソリューションを調べるところからスタートしました。
ー どのようなソリューションを調査されたのでしょうか? 実際に「いいな」と思うようなものはありましたか?
真崎:それがまったくなかったのです……。既存の予約システムのようなものをいろいろと調べたのですが、「これはできるけどあれはできない」みたいなものが多く、私が求めていることがすべてできるソリューションは見つかりませんでした。
予約システムでやりたいと考えていたのが、「予約」「予約のフォロー」「在庫管理」です。予約はできるけれど、自分の考えたタイミングや文面で、フレキシブルにお客様にメールが送れる仕組みがないものが多かったんですよね。また、コロナ禍前は、店頭で、POSデータと店頭報告により在庫を管理していました。各店の状況をリアルタイムで共有するような仕組みがなく、そのため、店舗によって在庫に偏りが発生してしまったり、販売機会を損失してしまうことも。ここを解消したいと思っていたのですが、在庫管理もあわせてできる仕組みもほとんどありませんでした。
そんなこんなで困って、行き詰って当時よりJINSのマーケティングの仕組みを構築してくれていた丹羽さんにご相談しました。「福袋のオンライン予約をできるようにしたいのですが、LINE上で行うことは可能ですか?」とお話したら、「その機能であれば当社で作れますよ」と言っていただいて、びっくりしたことを覚えています。そもそもつくるという発想がなかったので、「そうか、つくればいいのか」と目から鱗が落ちるような思いでした。コスト的にも想定内に収まりそうということで、お願いすることになりました。
たった2週間で、既存基盤を用いた簡易的な「福袋予約フォーム」を構築!
— 2020年の年末に簡易的な福袋予約フォームを開発したとお聞きしました。どのようなシステムをつくったのですか?
丹羽ひかる(以下、丹羽):最初に真崎さんから「LINEで福袋のオンライン予約をやってみたいと思っている」とご相談いただいたのが2020年10月。既に年末が迫っている時期でして、LINEで仕組みをつくっている時間がまったく取れなかったのです。そこで私から「LINEではなく、既にJINSで活用されている基盤を活用し、スケジュールとコスト重視で、クイックにシステムをつくりませんか?」と、当時使っていたマーケティングシステムを活用したシステム構築を提案しました。
このとき私たちが開発したのは、予約のための入力フォームがあって、その裏側に在庫管理機能と予約に関連した各種メールを配信する機能があるようなもの。在庫管理は、真崎さんに適宜CSVファイルを更新していただき、それをISID側でアップして、管理画面で払い出し状況などが確認できる仕組みでした。また、予約の受付、キャンセル、引換券の表示、メールによるリマインドなどもシステム化し、自動でできるようにしています。
真崎:この仕組みを、なんと2週間でつくっていただいたという……(笑)。管理画面を確認して私のほうで在庫調整をすることができるようになり、課題であった在庫の偏りが解消されました。また、予約したお客様へのリマインドをはじめとするフォローアップが自動でできるようになっていたため店舗従業員の負担も増えることがなく、意義のある施策ができたと感じています。
「福袋予約フォーム」を生かして、幅広く使える「汎用予約システム」の開発へ
— 2021年は、引き続き都度対応という形で福袋予約フォームを活用し、2022年に、ガラリとシステムを変えたとのこと。その経緯についてお聞かせください。
丹羽:真崎さんから「2021年もぜひ福袋予約フォームを使いたい」とのお話をいただいたので、「それならゆくゆくは、新商品の販売予約や、限定品販売時の整理券・クーポン配布などにも使えるような汎用的な基盤を、腰を据えて開発しませんか?」と提案しました。
汎用予約システムの本格的な開発に取り掛かったのが、2022年の春頃のことでした。週1で定例会をしながら、なにが必要か、どんなふうにしたいかを話し合って……。実際に画面をつくっては確認してもらい調整する、ということをとにかく小幅に繰り返し、真崎さんにとって使いやすいものにするよう心掛け、開発だけでなく周辺の調整もできるだけサポートしつつ進めていきました。
真崎:印象に残っているのが、予算を確保するときのことですね。社内を説得しなければならないとなったときに、情報システム部、管理職に向けて、それぞれに伝わるような内容を考えてもらい、実際にプレゼンまで行っていただきました。「こういう仕組みにしますよ」「長い目で見たら汎用化したほうが絶対にコストを抑えられますよ」と具体的な図や数値で見せてくださった。そのおかげで、社内の承認がスムーズに得られたと感じています。
2020年に一度簡易的な取り組みを行っていた、という実績があったのもよかったです。実際にシステムを用いて福袋の予約販売を行った結果、密を避けながら一定の売上を確保できました。最初に丹羽さんが「できません」と仰らず、「既存の基盤を使ってとりあえずやってみませんか」と提案してくださって、本当によかったです。
— 出来上がった「汎用予約システム」というのは、どのようなものだったのでしょうか?
丹羽:フォームの作成には最先端のWebホスティングサービスを使い、コンテンツや文言はヘッドレスCMSで管理して、在庫管理やメール配信のところはGoogle Cloud(Looker、Firebase等)、SendGridで実装しています。裏の仕組み自体はとても複雑なのですが、実際のシステムはビジネスユーザーでも操作できるような使いやすいものになっているといところがポイントです。お客様側のUIも至ってシンプル。とにかくわかりやすく、簡単に、手間なく操作できるような画面にするよう徹底的に意識しました。
メール配信のSendGridについては、実は私も今回の案件ではじめて触ったのですが…。自分でもAPIリファレンス等の技術情報をもとにして、どんなときにバウンスされるのか、開封率を上げるにしどうしたらよいかなどを見ながらレポートを作成し施策を考えて、ISID社内の技術スタッフに意見をもらいつつ詰めていきました。社内に高い技術力を持ったスタッフが多くおり、相談する環境、情報を共有する文化が根付いているところは、ISIDの強みだと感じています。それもあって、技術的に高度なシステムを構築することができました。
かゆいところに手が届くオリジナルの基盤ができた。売上2倍になるという効果も!
— 実際に使ってみていかがでしょうか? 感想や効果についてお聞かせください。
真崎:社内の複雑なシステムと連携しているところ、ほしいデータが瞬時に取れるところ、文言や設定などこちらで適宜変更できるところなど、さまざまな点がバージョンアップしており、より使いやすくなりました。
そしてなにより、プロジェクト全体を通して、丹羽さんの進行がスムーズで大変助かりました。スピード感、細やかな提案、実際のソリューションの精度など、すべてに対して本当に満足しています。“来店の必要性が高い”というメガネ販売の特性や課題を深いところで理解し、要望に合うような、オリジナルのシナリオを考えて構築してくれたわけですから。かゆいところに手が届く基盤ができて、本当に感謝しています。
真崎:効果というところで言いますと、2023年のお正月は、予約での販売だけでなく、店頭でも福袋の販売を行いました。これによって、「密を避けて落ち着いて買い物をしたい方は予約」「店頭の賑わいやお正月のお祭り感を味わいたい方は予約なしで来店」という流れができ、ニーズの異なるお客様にアプローチできるように。結果的に売り上げが約2倍に伸長しました。この基盤がなければ、そもそもふたつの売り方を両立させることはできなかったわけですから、非常に大きな効果だと思っています。
それから、個人的な話なのですが、私の家族が福袋を予約してくれたということも印象に残っています。福袋はECサイトでも購入することができるのですが、「会員登録とかしなきゃいけなくて面倒くさい」「店舗受取予約も簡単で店舗受取にしてしまった」と。UIがよいからということで高齢の家族が予約してくれ、「なるほど、ECでは使い慣れない層にもアプローチできるのだな」と気づいたのです。当社が少々苦手とする年配のお客様へのアプローチ、その部分に切り込む一歩としても評価できると感じています。
今後は、福袋の予約だけでなく、新商品の予約販売や、整理券・クーポンの配布などに幅広く活用していく予定です。
丹羽:真崎さんは良いなと思ったら前向きに検討・導入してくださるので、 今後も新たな技術や最新トレンドをどんどんインプットして、 自分の価値観で良いなと思ったことを見聞きしたことと組み合わせて積極的に提案し、ジンズに付加価値を提供していきたいと思います!
2023年3月更新
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※記載情報は取材時(2023年2月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。