株式会社エビデント

ISIDのデータサイエンティストとAzureのAI-OCRが支えた
新社名でのスピーディーな事業展開

  • ものづくり
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2021年11月、高性能顕微鏡や工業用内視鏡 などオリンパス株式会社の科学事業が分社化して設立された株式会社エビデント。同社は誕生とともに事業展開を加速させるため、製品から梱包まであらゆる場所に刻されたすべての社名を刷新する必要がありました。製品の数は2,500点、その図面総数は数十万枚。図面から該当する表記を漏れなく洗い出し、修正を加えなければなりません。この難題に対し同社の製造調達 製品開発 メカ ポジションはAI-OCRの活用を決断。2020年にISIDが立ち上げたAIトランスフォーメーションセンターのコンサルティング部隊をパートナーに、AzureのAI-OCRを用いた表記検出のシステムを立ち上げました。これにより半年以上かかると見込んだ煩雑な作業をわずか10日で完了。システムの開発コストも当初の見込みの半分で済みました。

膨大な工数、限られた時間

AI技術に対する知見の深さに加え目的を達成するまで諦めないISIDの姿勢に信頼を感じました

株式会社エビデント 製造調達/製品開発 メカ
天野聖氏

「人海戦術では到底無理だった」。そう振り返る主査の天野聖氏。「無理」というのは製品や周辺備品などにあるOLYMPUSの社名を会社設立にあわせてEVIDENTに刷新すること。

同社が扱う製品はライフサイエンス領域でトップシェアを誇る高性能顕微鏡から福島原発の廃炉プロジェクトで使われる工業用内視鏡まで多種多様。その数は2,500を数え、対物レンズなどの外装から取扱説明書、梱包箱にいたるまであらゆる場所に社名が表示されています。

「海外の規制対応上、社名刷新が必須の製品は、社内の人手をかき集めてオリンパスからの分社化設立(2022年4月)に間に合わせましたが、残りの製品ついては膨大な工数が予想され日常業務に影響するため、別のやり方を考える必要がありました」と天野氏は話します。

図面を手がかりにあらゆる表記を漏れなく洗い出すことにしたものの、データベースに登録された図面数は数十万枚。専任者を複数名アサインして行っても半年以上かかると見込まれました。これだと社名変更の期限に間に合わない。「AIを使うしかないと腹をくくりました」と天野氏は当時の心境を語ります。

AIとは、AIによる光学的文字認識技術AI-OCRのこと。一般に帳票や申請書などに記された手書き文字の読み取りなどに広く活用されていますが、社内にその技術を知る人間はなく、限られた期間で導入し使い始めるにはAI専門のサポート役が必要でした。

設計製造とAIを知るサポート部隊

そんなとき有力候補として天野氏の目にとまったのがISID。数あるAIソリューションのなかで「唯一、ISIDのソリューションが検図に対応していた」とその理由を明かします。「製造にかかわる検図では抜け漏れは許されません。抜け漏れがあれば大きな損失につながります。それほど厳密な用途に適用できるソリューションなら大丈夫だろうと思いました」。
さらにISIDにはもうひとつの強みがありました。「問い合わせてみると、ISIDが以前オリンパスのCADシステムをサポートしていたことがわかりました」と天野氏は話します。「図面の管理体系を把握していて、このプロジェクトにはうってつけです。一緒にやるならISIDしかないと思いました」。

難題に直面し即座に代案を

AIの知識がまったくないエンジニアでも簡単に使えるので設計製造の現場で活用が広がっています

株式会社エビデント 製造・調達部門/製品開発 メカ
天野聖氏

2022年4月 、エビデントのプロジェクトチームはISIDのAI図面識別ソリューション「DiCA(ディーカ)」を用いてPoCを開始します。ところがすぐに壁に直面します。

「DiCAは図面の記号やマークの検出に優れていますが、その特長を完全に活用するためにはAIモデルに検出が必要な記号やマークを全て学習させる必要があります」と工場など製造現場でPoCを指揮した天野氏は話します。「ところが製品図面にある社名表記には手書きのものから、黒抜き、白抜き、斜体、鏡文字、無表記で指示だけされているものなど多種多様なパターンがあります。今回の様に時間のない中で、教師画像を網羅的に洗い出しAI に学習させることが難しかったのです」。

プロジェクトに暗雲が漂い天野氏らの脳裏に人海戦術の文字がちらつき始めたとき、ISIDは代案を即座に提示しました。それはMicrosoftのAzureのAI-OCRを活用するもの。ISIDのデータサイエンティスト 牧田浩樹はその経緯をこう話します。
「ちょうど今回のPoCが始まる少し前、AzureのAI-OCRの文字読み取り精度が格段に向上し、ビジネス活用に向けた技術検証を実施していました。PoCによって顕在化したDiCAの課題や今回検出したい社名表記が『OLYMPUS』という文字である点を踏まえて、お客様からいただいた図面データをAzureのAI-OCRで読み込んだところ、手書き文字や黒抜き、白抜き、上下反転など様々なパターンの社名表記を非常に高精度に検出することが出来ました。その為、急遽AzureのAI-OCRを活用した社名検出に切り替えてご提案したのです」。
「新しいソリューションや技術が出たら、すぐに使って試してみる。それを自分たちだけに留めず、常に“お客様がAIを活用して価値を出すにはどうすればよいか”を考え、準備しています。今回も、お客様がAI-OCRの読み取り結果を簡単に確認することが出来る仕組みを社内で独自に構築していました。その為、ご提案からシステム化まで非常に短い期間でお客様へ価値を提供できたと考えています。普段から、社内で備えていたことがここで奏功しました」。(牧田)

成果は利便性、スピード、コスト

普段からお客様がAIを即戦力として活用できるよう備えていたことがここで奏功しました

株式会社電通国際情報サービス(ISID)AIコンサルティンググループ データサイエンティスト
牧田浩樹

AzureのAI-OCRをベースにISIDが構築したシステムはすぐに効果を発揮します。ユーザーは検出する文字列と図面をアップロードするだけでよく、あとは結果が自動で出力されます。検出された表記は図面上に緑色で囲われ、さらにリスト化もされるので、一目で漏れなく確認することができます。「AIを知らないエンジニアでも簡単に使えるので、設計製造の現場で活用が広がっています」と天野氏はその利便性を評価します。

今回のプロジェクトの成果について天野氏も「専任を複数人つけて半年かかる作業がわずか10日で終わった」と語ります。「しかも、検出作業で人為的なミスの心配がない。AzureのAI-OCRの既存機能でシステムを構築したので開発コストも当初の見込みの半分で済みました。」

諦めない姿勢

単に最先端というだけでは意味がなく、役に立ってこそAI。われわれの仕事の意義もそこにあります

株式会社電通国際情報サービス(ISID)AIコンサルティンググループ グループマネージャー
小松原信明

今回のプロジェクトでAI-OCRの可能性を実感した天野氏はこのシステムの活用をさらに拡げていきたいと話します。「幾何公差などを表示して検図を効率化したり、重要寸法をリスト化したり、EUのRoHS指令に示された有害物質にあたる材料を検出したり、といったように今回の仕組みは今後さまざまな領域で活用できます」。

プロジェクトを支えたISIDについて天野氏は「AI技術に対する知見の深さに加え、目的を達成するまで諦めない姿勢に強く信頼を感じた」と話します。「営業的に大きなメリットのある自社製品にこだわることもなく、わたしたちにとって最良の選択肢を提示してくれました。厳しい時間制限のなかで簡単ではないプロジェクトを最後までやり遂げてくれたと思っています」。

ISIDのAIコンサルティングチームを率いる小松原信明は「日ごろから手段を目的化しないよう心がけている」と話しています。「まずお客様のゴールを見据え、そこに行くための最良の道を選ぶ。それがわたしたちの仕事です。今回のプロジェクトではAzureのAI-OCRの精度向上とお客様の目的がうまく一致したことで大きな効果につながりました。AIは単に最先端というだけでは意味がない。役に立ってこそのAI。われわれの仕事の意義もそこにあります」。

2023年5月更新

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社名
    株式会社エビデント
本社      〒163-0910 東京都新宿区西新宿2-3-1 新宿モノリス
設立
    2021年11月30日
資本金
   1億円
事業内容  
生物顕微鏡、工業用顕微鏡、工業用内視鏡、非破壊検査機器、X線分析計等の開発、製造、販売及びソリューションの提供等に関する事業
 
  • 記載情報は取材時(2023年3月)におけるものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。

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