株式会社アイチコーポレーション
特殊車両のものづくりプロセス改革
錯綜する現場の課題をまとめ上げ、グローバル市場でのシェア拡大を狙う
- ものづくり
オート三輪の荷台にドリル付きクレーンを搭載した穴掘り車両。1962年、日本の建設機械の歴史に名を刻むこのA型建柱車を生み出して以来、特殊車両メーカーとして国内市場を牽引してきたアイチコーポレーション。現在も配電線の敷設や鉄道の架線保守、建造物の点検などに使われる高所作業車を中心に、同社の製品は国内で圧倒的なシェアを占めています。さらに海外市場においても、世界の大手2社を視野に入れて健闘中。その躍進をさらに確実なものとするため、同社はいま、ものづくりのプロセス改革に取り組んでいます。その活動を現場で支えているのは、ものづくりのプロセス全般をカバーするISIDのソリューションです。
継ぎはぎの情報システム、海外市場攻略の壁
ISIDのコンサルタントは、
現場担当者の悩みをよく理解して
改革プロジェクトを進めてくれるので、
開発にこれまでにない活気が生まれています。
田上 吉夫氏
「いままで通りのやり方ではまずい、と感じていました」と話すのは、アイチコーポレーションの取締役で技術・開発部門管掌の田上吉夫氏。顧客の要望を製品に取り込む受注生産を軸に、電信から造船まで、保守点検や敷設工事用の高所作業車を手がけてきた同社は、国内シェアが約65%にのぼる業界トップ企業です。それでも、開発部隊を指揮する田上氏にとって、その土台は磐石なものではありませんでした。「お客様の要望を取り込んで一品ずつ丁寧に仕上げていくのが当社の強みですが、会社の成長とともに組織も大きくなり、非効率な面が無視できなくなってきました。競争環境の厳しい海外市場への展開を見据えた時、従来とは違ったアプローチが必要となります」
特殊車両の世界市場では、米国の大手2社が抜群の売上を誇っています。かれらは自走式の作業車に開発資源を集中させ、低価格で幅のある商品ラインナップを業界向けに販売しています。近年、成長戦略として北米、中国、東南アジア、豪州、ロシアなどへの販売拡大を図るアイチコーポレーションとしては、これら強豪の牙城を真っ向から切り崩していかねばなりません。しかし、そこには立ちふさがる壁がありました。
「上位2社と比べると、当社の商品は割高で、品揃えも不十分なのです」と田上氏は打ち明けます。
世界の競合と戦うためには、豊富な商品ラインアップを効率的に仕上げる機動力が求められます。
「しかし、われわれの現場は、成長の過程でプロセスやITを走りながら継ぎはぎで取り入れてきたため、たとえば設計は設計、調達は調達、生産は生産でそれぞれの情報システムを持つことになり、無駄や非効率が各所で生じていました」と田上氏は話します。2020年までに2015年比70%の売上増を中長期目標として掲げる同社にとって、海外市場での躍進はいわば至上命題。従来の非効率から脱却すべく、全社を巻き込んだプロセス全体の見直しに着手します。
実践的プロセス改革始動、組織をつなげて活力アップ
結果は間違いなく出ると思います。
手戻りの解消で2割強の工数削減を目指していますが、現場の活性化とモジュール開発の効果も合わせると、その効果は2割強どころではありません。
田上 吉夫氏
2014年11月、社長の命を受けたトップダウンの改革プロジェクトがスタートしました。実行にあたってパートナーとして選ばれたのが、製造業のものづくり改革に豊富な実績を持つISIDです。
ISIDは、1975年の設立以来培ってきた、製造業のエンジニアリング領域全般にわたる業務とITのノウハウを武器に、コンサルティングから最先端ITソリューションの構築・導入・定着まで包括的なサービスをグループで提供しています。アイチコーポレーションでスタートした改革プロジェクトにおいては、まずはじめに開発・生産拠点で業務アセスメントを行い、課題抽出を実施。プロセスとIT双方が最も効果を発揮する理想的なグランドデザインを策定した上で、プロセス改革の具体的な計画を立案しました。
「ものづくりの改革は、開発、調達、生産技術、製造など対象が広範囲にわたります。プロセスやITの導入はもちろん、組織間の連携が極めて重要」と田上氏は指摘します。「現場には、設計BOMと生産BOMの連携、既存設計データの流用、原価見積りの精度向上、出図直前の手戻りの削減など課題が錯綜して積み上がっており、これらはITを導入したからといって即座に解決されるものではありません。組織をつなげ、全社一致で取り組まなければならないのです」
アイチコーポレーションの現場ではいま、この目的のため部門横断型のワーキンググループがテーマ別に立ち上がっています。グループは当初、「商品化全体業務」「原価企画・見積り」「生産準備業務」「BOM構成」「システム」の5つでしたが、社内の議論が進むにつれ、海外市場を視野に入れた「モジュール化」も加えられました。さらにまた、後工程での手戻り解消を目指し、設計、調達、生産技術を巻き込んだ上流からのコンカレントな共同開発の試みも始まっています。
「こうした活動は単に効率化だけでなく、現場の活力アップにもつながっている」と田上氏は見ています。「ISIDのコンサルタントは、現場に入り込んで聞き出した担当者の悩みを、よく理解したうえで改革プロジェクトに反映してくれる。それによって現場の風通しもよくなり、開発にこれまでにない活気が生まれています」
工数削減からさらにその先へ、攻めの体制の構築
プロセス改革の効果について、田上氏は「手応えを感じている」と自信をのぞかせます。「個々の機種開発においては、下流での手戻りが解消できることで2割強の工数削減を目指していますが、現場の活性化とモジュール開発の効果も合わせると、その効果は2割強どころではありません」
また、「あくまでも先の話」と前置きしながら、田上氏は今後の展開の可能性を語っています。「我々の特殊車両は世の中で相当数が稼働しているので、アフターサービスのポテンシャルが非常に高いのです。これをもっと掘り起こしてビジネスにつなげていけば、大きな収益増につながります。車両にはセンサーも付いており、稼働データを活用するIoT的な展開も考えられます。ただ、それをやるにはやはり土台がしっかりしていないといけない。しっかりしたものづくりの土台があれば、いろいろな攻めが可能となる。今回の改革の真の意義は、そこにあるのかもしれません」
2016年12月更新