日本におけるデジタルバンキングの潮流
~リテール金融の進化・競争・統合の歴史~

2000年に最初のインターネット専業銀行が設立されてから四半世紀が過ぎ、スマートフォン普及に伴うモバイルキャリアとの連携、コンビニ銀行の浸透、地方銀行による参入、BaaSの展開など特徴的な発展を遂げてきた日本におけるデジタルバンキングの変遷を整理する。さらに、カード決済や資産運用との連携によるリテールサービスの拡充を図り、Fintech企業との協業を強化している大手銀行の最近の動向を見て、デジタルバンキングの今後について考察する。

1. はじめに

日本のデジタルバンキングは、当初の「インターネットバンキング」から進化し、今やリテール金融サービスの中核を担う存在へと成長している。2025年時点でネット・モバイルバンキング利用経験者は約75%※1となっており、ネット専業銀行の登場直後の2001年に比べ3倍以上に増加※1している。当初は残高照会や振込といった限定的な機能がPC経由で利用できるだけであったが、専業銀行の設立、スマートフォンの普及、さらにはFintech企業の参入により、その姿は大きく変貌した。急速な少子高齢化による金融ニーズの多様化、地方銀行の収益基盤の弱体化、他業種による金融ビジネス参入、キャッシュレス決済の浸透に加え、コロナ禍による非接触需要の定着などが、デジタルシフトを不可逆的な流れにした。こうした変化を「インターネット専業銀行」の変遷からみていきたい。

2. インターネット専業銀行の進化

全銀システムで付番されている金融機関コードにおいて、金融庁が「新たな形態の銀行」に分類しているのは、インターネット専業を中心とした以下の各行であるが、その歴史をみることによって、日本におけるデジタルバンキングの発展がみえてくる。


(表1)「新たな形態の銀行」と分類されている銀行の一覧

金融機関コード 銀行名

0033

PayPay銀行

0034

セブン銀行

0035

ソニー銀行

0036

楽天銀行

0038

住信SBIネット銀行

0039

auじぶん銀行

金融機関コード 銀行名

0040

イオン銀行

0041

大和ネクスト銀行

0042

ローソン銀行

0043

みんなの銀行

0044

UI銀行

0046

01銀行

(FINOLAB RESEARCH作成)

2-1. 2010年までに登場したネット銀行の進化

日本におけるネット銀行の第一世代は、2010年までに登場した下表の5行である。これらは実店舗を持たない「ブランチレスバンク」として、低コスト運営と利便性を武器に台頭した。欧米の先行事例である米Netbank、英Egg、独Advance Bankなどが営業を停止したり、大手行に吸収されたりして現在では名前と実体がほとんどなくなっているのに対して、日本のネット銀行の場合には、名前が変わったとしても5行が全て生き残っていることは特徴的である。各行が利便性の高い特徴的なサービスを提供してきたことに加え、資本関係の再編が進んできたこと、さらには日本において複数の銀行口座保有が一般的で、目的に応じて使い分けるユーザーが多いことも、生き残りにつながったものと考えられる。


(表2)2010年以前に開業した第一世代のネット銀行

旧名称
(設立年)
現名称 経営権の変遷 株式公開

ジャパンネット銀行
(2000)

PayPay銀行
(2021〜)

2025年4月時点ではPayPay株式会社が75%、株式会社三井住友銀行が 21%を保有

ソニー銀行
(2001)

同左

ソニーフィナンシャルグループが2025年9月に東京証券取引所プライム市場に上場

イーバンク銀行
(2001)

楽天銀行
(2010〜)

2008年に楽天株式会社が筆頭株主となり経営再建を主導

2023年4月に東京証券取引所プライム市場に上場

住信SBIネット銀行
(2007)

同左

2025年に株式会社NTTドコモが買収、2025年10月より個人向けブランドを『dNEOBANK』に刷新

2023年3月にIPOするも、株式会社NTTドコモによる子会社化で2025年9月に上場廃止

じぶん銀行
(2008)

auじぶん銀行
(2020〜)

2025年にKDDI株式会社が100%取得(設立当初はMUFGが50%保有)

(出典:各行発表資料よりFINOLAB RESEARCH作成)

2-2. 通信事業者との連携

NTTドコモの参入によって、全ての主要モバイルキャリア(NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイル)がネット銀行と連携することになった。銀行サービスを組み込むことによってモバイルユーザーの離脱率が下がるということもあり、各行の顧客基盤とデータを活用し、金融サービスを通信契約やポイントプログラムと一体化させる戦略を展開している。2025年に住信SBIネット銀行の買収を発表したNTTドコモについてはまだ詳細が明確になっていないが、これからどのような連携プログラムが導入されるかが注目される。また、各社ともに銀行のみならず、証券会社やポイントプログラムとの連携も確立していることから、総合的な金融サービスも今後の競争領域となっているものと考えられる。


(表3)主要モバイルキャリアの金融サービス

キャリア名

NTTドコモ

KDDI(au)

ソフトバンク

楽天モバイル

モバイル契約者数

9,141万人

7,035万人

5,480万人

863万人

銀行

住信SBIネット

auじぶん

PayPay

楽天

 口座数

825万口座

674万口座

894万口座

1,683万口座

 預金残高

9.8兆円

4.6兆円

1.9兆円

11.5兆円

証券

マネックス証券

三菱UFJ eスマート証券
(旧auカブコム証券)

PayPay証券

楽天証券

 口座数

272万口座

181万口座

137万口座

1,234万口座

 預かり資産残高

8.5兆円

3.9兆円

0.1兆円

36.0兆円

ポイントプログラム

dポイント

Pontaポイント

PayPayポイント

楽天ポイント

(出典:各社発表(2025年3月時点)資料よりFINOLAB RESEARCH作成)

2-3. コンビニモデルの確立

さらに、支店のない銀行モデルとして「新たな形態の銀行」に分類されている「コンビニ銀行」は日本独自の発展を遂げており、日常的な金融アクセスを大きく変えている。下表にある3行はATM網を全国の店舗に展開し、現金中心の日本市場に適応しながらデジタルサービスへの橋渡し役を果たしている。既存銀行がATM設置を縮小させている一方で、コンビニ銀行はキャッシュポイントとしての重要性が増している他、各種電子マネーのチャージ、各種手続きの受付など、ATMの機能拡充を図っている。


(表4)コンビニ銀行

銀行名 開業 コンビニチェーン

セブン銀行

2001年5月

セブン-イレブン

イオン銀行

2007年10月

ミニストップ
(他イオングループ店舗)

ローソン銀行

2018年10月

ローソン

(出典:各社発表資料よりFINOLAB RESEARCH作成)

2-4. 2010年代の展開

2010年代に登場した大和ネクスト銀行(2011年4月開業)、GMOあおぞらネット銀行(2018年7月開業)は、それまでの汎用的なリテールバンクとしてのネット銀行とは異なるモデルを展開している。大和ネクストは、大和証券グループのノウハウを生かした資産形成に特化したネット銀行で、独自の店舗やATMを持たないことでコストを削減し、円・外貨ともに好金利を提供している。GMOあおぞらネットは、GMOインターネットグループのサポートを受けて「No.1テクノロジーバンク」を目指しており、API基盤を整備することによって多くの中小・零細企業や個人事業主をメインターゲットとしている。

2-5. 地方銀行の挑戦

2020年代になってから登場した地方銀行グループによって設立されたネット銀行(下表)は、それまでのネット銀行とは異なるアプローチで、勘定系システムにクラウドや外部システムの活用を図っている。みんなの銀行の場合には親会社による支援は限定的で独自の顧客獲得を目指しているのに対し、UI銀行の場合は親銀行であるきらぼし銀行からの送客を受けており、デジタルチャネルでマス顧客取引を吸収、支店チャネルを運用アドバイスなどに活用して役割を分担しようとしている。さらに、01銀行は中小・零細企業や個人事業主に対する融資業務に特化したモデルでの展開を目指して開業したばかりである。


(表5)地方銀行のネット銀行展開

銀行名 親会社 開業 基幹システム

みんなの銀行

ふくおかFG

2021年5月

Google Cloud上の自社開発システム

UI銀行

東京きらぼしFG

2022年1月

SBJ DNX(SBJ銀行/新韓金融グループ)

01銀行

池田泉州HD

2025年7月

GMOあおぞらネット銀行のBaaS基盤

(出典:各社発表資料よりFINOLAB RESEARCH作成)

3. BaaSによる異業種展開

Banking-as-a-Service(BaaS)の進展は、日本のデジタルバンキングをさらに多様化させている。当初は住信SBIネット銀行が展開する「NEOBANK」モデルによる展開ばかりであったが、2024年以降は他ネット銀行の参入によって、非金融企業が自社ブランドで銀行機能を提供できる仕組みが拡大するようになった。航空、鉄道会社、百貨店、生命保険、さらには住宅・不動産やエネルギー事業者などの幅広い業種が銀行サービスを組み込み、顧客ロイヤルティを高めている。これにより、銀行はもはや「銀行業界の中」だけでなく、交通、住宅、流通といった幅広い産業のエコシステムに埋め込まれる存在となっている。


(表6)BaaS利用によるバンキングサービス例

サービス名 親会社 BaaS 提供銀行 開業年

JAL NEOBANK

日本航空

住信SBIネット銀行

2020年

ヤマダ NEOBANK

ヤマダデンキ

住信SBIネット銀行

2021年

高島屋 NEOBANK

髙島屋

住信SBIネット銀行

2022年

SBI証券NEOBANK

SBI証券

住信SBIネット銀行

2022年

第一生命NEOBANK

第一生命

住信SBIネット銀行

2023年

KEIO NEOBANK

京王電鉄

住信SBIネット銀行

2023年

JRE BANK

JR東日本

楽天銀行

2024年

へーベルNEOBANK

旭化成ホームズ

住信SBIネット銀行

2024年

ゆたかバンク

ケイアイスター不動産

住信SBIネット銀行

2024年

カテエネBANK

中部電力

住信SBIネット銀行

2024年

Bill One Bank

Sansan

住信SBIネット銀行

2024年

01Bank

池田泉州HD

GMOあおぞらネット銀行

2025年

(名称未発表)

関西電力

UI銀行

2025年予定

(出典:各行発表資料よりFINOLAB RESEARCH作成)

4. メガバンクの攻勢

国内メガバンク(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)は、かつて「動きが遅い」と批判されがちであったが、最近では、ネット専業銀行やBaaSによるバンキングサービスに対抗するようなデジタル戦略を打ち出している。三井住友銀行が2023年3月に開始した「Olive」は銀行・決済・保険・投資を一体化したプラットフォームであり、デジタルマルチカードによる利便性を提供している。また、三菱UFJ銀行も2025年6月に開始した「エムット」を通じて、資産管理から生活費分析までを一元化するサービスを展開している。さらにみんなの銀行の基盤を活用した次世代デジタルバンクの開発にも取り組むことを発表している。 こうしたデジタルバンキングの取り組みをみると、メガバンクは従来の「巨艦」から「デジタルエコシステムの核」へと役割を変えようとしているものと考えられる。以前は専ら「自前主義」による自社開発・調達が多かったのに対して、近年ではスタートアップへの戦略投資にも積極的になっている。例えば、三菱UFJ銀行は若年層に人気のプリペイドカードVANDLE CARDを展開する株式会社カンムに戦略投資を行った※2り、ロボアドバイザーを提供するウェルスナビ株式会社を買収※3したりしている。これに対して、三井住友フィナンシャルグループは、資産管理プラットフォームのマネーフォワード※4や決済インフラ事業を展開するインフキュリオン※5に戦略的出資を行い、グループ傘下の三井住友カード株式会社を中心に協業を進めている。こうした動きからみると、銀行はFintechスタートアップにとって「競争」から「共創」の相手となりつつある。結果としてFintechエコシステム全体が底上げされることによって、金融機関自身も新しい成長機会を得るという循環が形成されつつある。

5. さいごに

日本のデジタルバンキングは、欧米とは異なる道を歩んでいる。Revolut、Monzo、N26やVaroといった欧米のネオバンクやチャレンジャーバンクが「既存銀行の代替」を志向するのに対し、日本は協調と統合を重視し、金融と非金融との接点において「生活者中心のプラットフォームモデル」を構築してきた。ネット専業銀行の変遷をみると、コンビニバンクの発展、通信事業者との連携、地方銀行の挑戦、異業種からのBaaSを利用した参入など、日本における特徴的な発展の軌跡が確認できる。デジタルシフトにおいてスピードに欠ける傾向にあった大手行もFintech企業との協業や資産運用などの統合サービス構築によって、急速にデジタルバンキングの拡充を図るようになっており、利用者にとっての利便性は今後さらに向上していくことが期待される。特に生成AIの活用によって、個人の資産背景や嗜好に合わせた現状分析やアドバイスが可能となることから、デジタルサービスのパーソナライゼーションが発達するものと予測される。


※本レポートに記載された会社名・商品名は、それぞれ各社の商標または登録商標です。

執筆者:柴田 誠 Head of FINOLAB & Chief Community Officer, FINOLAB Inc.
日本のFintechコミュニティ育成に黎明期より関与。2016年FINOVATORS創設に参加。2018年三菱UFJ銀行からJDD(Japan Digital Design)に移り、オックスフォード大学の客員研究員として渡英。2019年より電通総研(当時ISID)に入社し、同年株式会社FINOLABの設立と同時に現職就任。2021年からはUI銀行の社外監査役も兼任。

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