第8回世界価値観調査 経済と環境のはざまで揺れる人びと
電通総研は2024年7~8月に日本国内で第8回世界価値観調査をおこないました。 本記事では、調査で明らかになった「生活と環境に対する意識」にフォーカスします。
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1. 生活全般の意識
最近の生活全般の満足度を今回の結果を含め1990年から時系列で見てみると、2005年の80.9%をピークとしながらも、概ね7割を超える高い満足度を継続していることがわかります(図1)。
また、家庭の家計状況に関しては、リーマンショックを経験した2010年を除くと、6割程度の人が満足していると答えており、物価高が懸念されている昨今においても大きな変化は見られませんでした(図2)。
2. 国の向かっている方向について
今回調査の新規設問として国の向かっている方向について尋ねたところ、19.1%が「良い方向に向かっている」と答えたのに対し、半数に近い47.9%が「悪い方向に向かっている」と回答しました(図3)。
また、21世紀の日本・日本人のあり方において大きな社会変革が必要かを尋ねたところ、「そう思う」が2019年に比べ14.9ポイント増加して43.6%となり半数に迫りました(図4)。
日本が悪い方向に向かっていると考えるものについて、2019年と比較したところ、「経済競争力」が26.1ポイント増加し、国際比較において経済面での懸念がうかがえました。次いで回答率が増加したものとしては、近年関心を集めるAI技術などの影響からか「科学技術の水準」が9.8ポイント増加しています。また、国際情勢の激変を感じていることからか「国際的な政治力」が9.7ポイント増加しました(図5)。
わが国の向こう10年間の国家目標については「高い経済成長の維持」が72.6ポイントと、2019年と比べて7.3ポイント増加しており、こちらにも経済についての関心の高さが垣間見えました(図6)。
3. 環境と経済について
環境保護と経済成長について尋ねたところ、「環境がある程度悪化しても、経済成長と雇用の創出が最優先されるべき」と回答した人は31.8%で、2019年に比べて8.7ポイント増加し、1995年に本設問を開始以来、過去最高の割合となりました。一方、「その他・わからない」「無回答」計が36.8%で過去最低となりました(図7)。
環境問題と密接な関係にある気候変動問題について、新規設問として尋ねたところ、「重要」との回答が93.2%と、問題意識が浸透していることが確認できました(図8)。
一方で、気候変動を抑制するための取り組みについては、「個人の責任を感じる」が65.0%、「個人の責任を感じない」が31.1%と、意見が分かれました(図9)。
4. 考察
今回調査からは、総じて日本が悪い方向に向かっていると感じている人が約半数おり、何かしら大きな社会変革が必要と考える人が大幅に増加したことが明らかとなりました。悪い方向として挙げられた項目で回答が増加したものの中には、国内の雇用・労働状況や他国と比べた際の経済競争力など経済に関わるものがあり、別の設問においても国家目標として高い経済成長を維持してほしいと考える人が7割を超えるなど、経済に関する懸念や関心の高さが共通して見られました。ただし、人びとの生活全般については、家計状況への満足度を含め大きな変化は見られませんでした。生活全般に関する満足度は変わらないものの、グローバルな経済競争力に対する懸念が増加し、現状維持あるいは改善を期待していることから、経済面での将来不安が広がっていることがうかがわれます。
この流れのネガティブな面としては、「環境がある程度悪化しても、経済成長と雇用の創出が最優先されるべき」と考える人が増加し、まだ3割程度ではあるものの、経済成長や雇用が環境保護に優先されることです。
しかし、気候変動を重要な問題と捉える人は9割を超えており、個人の責任と考える人が6割を占めます。アテンションエコノミーの観点から見れば、人びとの関心が集まり続け改善を望むのであれば、そこに新たなアクションや経済モデルが生まれ、ビジネスの活性化も期待できるため、今後を注視したいと思います。
■調査概要
調査時期:2024年7月19日~8月2日
調査方法:郵送法
対象地域:全国
対象者:18~79歳の男女
サンプル数:1,272人
抽出方法:消費者パネルからの国勢調査結果に基づく地域・性・年齢別割当
※本調査の標本サイズの誤差幅は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると±2.748%となります。
Text by Tomohisa Koizumi
小泉 朋久 こいずみ・ともひさ 電通総研 研究員・プロデューサー
1982年、東京都目黒区生まれ。多摩美術大学卒業。2023年1月より電通総研。現在の活動テーマは「サステナブルな社会」「絶対的貧困への支援」。国際交流やクリエイティブ領域での実務経験を生かし研究活動をおこなう。
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担当:山﨑、中川
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