オフィスロボットの可能性: 野村不動産 HD と の実証実験が示す未来の働き方

近年、サービス業や物流などさまざまな分野でロボットの活用が進んでいます。その一方で、オフィスでの導入は未だに限定的です。Open Innovationラボはオフィスでのロボット活用の可能性を広げるべく、野村不動産ホールディングスと協力して実証実験を行いました。ゴミ箱ロボットやセンサーを乗せた巡回ロボットを導入することで、オフィスの環境はどのように変化したのでしょうか。実験から見えてきた、オフィスロボットの可能性と課題について紹介します。

岡田 真由 株式会社電通総研
ヒューマノロジー創発本部 Open Innovationラボ

岡田 敦 株式会社電通総研
Xイノベーション本部 ビジネスインキュベーションセンター

オフィスロボット活用の現状と課題

さまざまな用途に応じたロボットの開発や制御技術の進化により、ロボットは単純作業だけでなく、人と協力して複雑なタスクも効率的に行えるようになってきています。しかし、オフィスでのロボット活用は、清掃や警備といった限られた領域に偏っているのが現状です。この背景には、多くの人がロボットを扱った経験がないことや、操作インターフェースが直感的でないことなどの課題があります。

オフィスでのロボット活用により得られるメリットは、単に自動化による業務効率の向上だけではありません。コミュニケーションロボットによる社員同士のコミュニケーションの活性化やメンタルヘルスのサポートなど、魅力的なオフィス環境の構築を通じて、社員のエンゲージメントと満足度の向上にも繋がると考えられます。

このようなオフィスロボットの価値を検証するため、私たちは野村不動産ホールディングス株式会社(以下「野村不動産ホールディングス」)と実証実験を実施しました。野村不動産ホールディングスは2025年に芝浦の新オフィスへ本社移転を予定しています。(※1)実証実験の場所は、本社移転に先立って設けられたモデルオフィス。ここでは、「ウェルビーイング」「エンゲージメントハブ」「ダイバーシティ&インクルージョン」を実現する環境を目指し、様々な実験が行われています。

このオフィスは、広大なフロアのすべてがアドレスフリーとなっており、個人で集中するためのブースや数人でディスカッションできるボックス席、リラックスするためのカフェスペースなどがあります。

私たちは、このオフィスをさらに快適な空間にするため、「ゴミ箱」の数と、エリアごとの室温に着目。1箇所に集約されたゴミ箱を動かし、手軽にデスククリーンができるようにする「動くゴミ箱ロボット」や環境センサーを搭載したオフィス内の温度や湿度を測定する「環境センサーロボット」を開発しました。

実証実験で導入した3つのロボット

実証実験では、以下の3つのロボットを活用しました。

  • 1.
    Teams連携ゴミ箱ロボット:社内コミュニケーションツールのTeamsと連携し、必要な時に必要な場所へゴミ箱を呼び出せるロボット(図1)
  • 2.
    コミュニケーションゴミ箱ロボット:デスク上のゴミをAIで認識し、状況に応じてゴミ捨てを促すなど、従業員とコミュニケーションを取るロボット(図2)
  • 3.
    環境センサーロボット:オフィス内の温度や湿度、CO2濃度を計測しながら巡回するロボット(図3)
図1 Teams連携ゴミ箱ロボット
図2 コミュニケーションゴミ箱ロボット
図3 環境センサーロボット

ゴミ箱ロボットには株式会社Keiganが開発した自律移動ロボット「KeiganALI」を採用しました。環境センサーロボットにはPudu Roboticsが開発した自動配膳ロボット「KettyBot」を採用しました。

これらのロボットを導入し、利用状況やユーザーの反応を調査しました。

ロボット導入による効果と運用上の課題

実験の結果、ロボットの活用により、オフィスの清潔度が向上し、ゴミ捨ての利便性が高まったことがわかりました。ゴミ箱ロボットは、7日間の実験期間で112回利用されました。20〜50代の男女約20人に実施した利用者アンケートでは、「便利になった」「清潔度の向上につながる」といった評価に加え、「楽しい・面白い」「ロボットからの声掛けに癒やされた」という意見も見られました。

図4 アンケート結果

この結果は、ロボットを活用したオフィス改善が、単なる効率化だけでなく、従業員のエンゲージメント向上にも寄与する可能性を示唆しています。コミュニケーションロボットとの交流が新しいコミュニケーションの形を生み出し、仕事への意欲を高める効果が期待できます。

さらに、環境センサーロボットを活用することで、広いエリアの温度などの環境データを簡単に測定できるようになりました。このデータを設備管理者やビル設備を制御しているシステムと連携させることで、空調の調節に活用することができ、電力最適化にもつながります。

一方で、オフィスロボットの導入における課題も明らかになりました。実証実験では、ロボットが自己位置を見失ってしまったり、ネットワーク不良によりエラーになることが多々ありました。これらのエラーコードやメッセージはシステムに精通した技術者向けの内容で、オフィスの管理者が容易に対応できるものではありません。オフィス活用を推進していくためには、障害発生時の通知や復旧対応も、 Teamsのような社内コミュニケーションツールでできるようにするなど、さらなる工夫が必要です。

ロボットの効果的な活用は、人間とロボットの間のインターフェースが鍵を握っています。誰もが使いこなせるインターフェースの開発が、ロボットの価値を最大限に引き出し、オフィス環境での活用の幅を広げてくれると考えられます。

ロボットが拓く、多様な働き方の未来

Open Innovationラボでは、今後も職場環境でのロボット活用の研究開発を進め、多様な働き方を支援する社会の実現を目指していきます。

現在、ロボットを活用して遠隔就労を実現するための研究開発に取り組んでいます。遠隔就労は、デスクワーク以外の分野にも広がりつつあります。たとえば医療分野では遠隔での診察やリハビリ、建設現場では遠隔操作による重機の操作などが行われています。このような技術は、人手不足や地域格差の緩和、危険な作業環境からの解放などの付加価値をもたらしています。

しかし、これらの技術の産業応用・普及はまだ途上にあります。活用を推進するため、私たちはさまざまな分野の企業、研究者、地域コミュニティの方々を招いたミートアップイベント(※2)を開催し、遠隔就労の可能性や課題について議論する場を設けています。このようなイベントを通じて、産業界と研究者がお互いの知見や疑問を共有し合い、遠隔就労を社会に浸透させるための実証実験や新規事業立ち上げなどの取り組みにつなげていくことを目指しています。

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