東京2020大会のレガシー継承をテクノロジーで後押し ~運動能力測定システムDigSportsの現在地と将来性~

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「アーバンフィットネス2022」でDigSportsを体験する様子

2021年夏に開催された東京2020大会から約1年半。東京都は大会のレガシー(遺産)継承のため、スポーツ施設の整備や運動体験の機会提供など積極的な取り組みを続けています。その一つとして3カ年で取り組んでいるのが「アーバンフィットネス」推進事業です。開催2年目となったイベント「アーバンフィットネス2022」では“働き盛り”世代のスポーツ実施率向上を目指し、初めて東京駅構内のエキナカで実施(11月16・17日)。ISIDは同イベントに、運動能力測定システムDigSports別ウインドウで開くを出展しました。

DigSportsは、モニター前で体験者が「50m走」や「反復横跳び」などを行うと、深度センサーが運動能力を測定し、AIを活用した独自の分析プログラムで74種目から向いているスポーツを発見できるシステムです。生涯楽しめるスポーツとの出会いを提案するこのソリューションは、スポーツ人口の増加と裾野を拡げると期待されています。イベントレポートを交えながら、スポーツ×ITや地域課題×ITなどに貢献するDigSportsの将来性についてご紹介します。

スポーツ機運の高まりを逃さない都の取り組みを、ソリューションで支援

東京2020大会を機にスポーツへの関心が高まり、2007 年に 39.2%だった都民のスポーツ実施率は、2021 年に 68.9%まで上昇※1。東京都はこの機を逃さず都民の中にスポーツを根付かせようと、2022 年1月「TOKYOスポーツレガシービジョン」※2在の体力を知るきっかけを与え、スポーツ実施率を伸ばしていくことが目標への近道と考えています」とは「アーバンフィットネス2022」を企画運営する東京都の担当者。

DigSportsは、2022年7月に実施された東京2020大会1周年記念イベント「TOKYO FORWARD」で提供されており、そのときの参加者の声から「アーバンフィットネス2022」での出展を検討したといいます。「先のイベントではスポーツに興味のある子どもを中心に、DigSportsを活用してもらおうと考えていましたが、意外なことに大人たちからも非常に好評でした。DigSportsは、私たちがスポーツ実施率を伸ばしたい働き世代にも有効だと感じ、『アーバンフィットネス2022』でもお声がけしました。体力測定で現状把握し、スポーツから離れていた人を改めて“今の自分”に合うスポーツへつなぐソリューションがいいですね。何事も浸透させていくには、“楽しませる”ことから。自ら体験してみてエンターテインメント要素がある点にも今後の可能性を感じていました」(東京都担当者)

センサーで動きをとらえ、運動能力を可視化

会社帰りの約100名がDigSportsを体験

アーバンフィットネス2022の当日は、10代から60代まで約100名がDigSportsを体験。なかでも30代以上が約8割を占め、狙いたいビジネスパーソンへ働きかけることに成功しました。40代の参加者は「測定により普段垂直方向への動きをしていないことが判明して驚いた。測定結果からおすすめされたのは、なんとアーティスティックスイミング。私の人生で選択肢のなかった未知のスポーツで興味津々!」と感想を述べ、スポーツとの出会いという点でDigSportsが効果的かつ好意的に受け入れられていることが伺えました。

DigSportsの出展ブースを担当したISID X イノベーション本部の岩﨑和正は「これまでスポーツイベントやショッピングセンターなどで行ったことはあったが、エキナカでスーツ姿のサラリーマンが必死に走るというのは初めての試み。運動する服装ではない人に体験してもらいましたが、データから見て全国の平均値と差はありませんでした。体力測定の空白地帯である働き世代の運動データを簡易的に収集できるので、今後地域のスポーツ事業の方針決定などに役立ててもらえるのではないか」と振り返ります。

スーツ姿のビジネスマンも多数体験

子どもから大人へ。スポーツDXで健康寿命増進にアプローチ

ISIDがDigSportsを開発するに至るきっかけになったのも、実は東京2020大会の開催決定。IT×スポーツの領域で社会に貢献したいという思いから、深度センサーや人工知能(AI)を活用して運動能力を測定し、向いているスポーツを判定するというシステムを企画。2019年8月に製品化しました。当時目指したのは、子どもたちが自分の個性に合ったスポーツとの出会いを通じて、生涯スポーツに親しむ一歩を踏み出すこと。これまで全国の自治体やスポーツ団体などに活用され、当初の子どもへの働きかけはもちろん、スポーツを習慣化する機会の少ない親世代からも関心を集めることができました。

前出の東京都の担当者は「テクノロジーの活用は、スポーツを身近に届ける手段として欠かせない要素。国もスポーツDXを進めているが、都が先んじて取り組みたい分野です。DigSportsのようにAIやデータを用いてスポーツに取り組むきっかけを与えることで、ゆくゆくは健康寿命増進に寄与できるのではないか」と期待を寄せます。

AIで一人ひとりに向いているスポーツを導き出す

より手軽に、より広く。技術革新による可能性

Xイノベーション本部
飯田 倫崇

現在、Xイノベーション本部の飯田倫崇が中心となり、運営する人がより使いやすく、屋外でも精度高く分析できるようにDigSportsの新バージョンを開発中です。
「人の動きの検出技術を変更し、AIによるディープラーニングを導入予定です。屋外でも高精度な測定が可能になるほか、深度センサー機材や専門知識が不要になるというメリットがあります」(飯田)。

実現されれば自治体など運営側だけで簡単に操作可能な自走できるシステムに。インターネットさえつながっていれば家からも参加できることから、リアルイベントだけでなくオンラインイベントとしての可能性も生まれます。

競技人口が少ないスポーツの存続支援から、指導者の働き方改革まで

Xイノベーション本部
岩﨑 和正

DigSportsの製品化から4年間、ISIDは、地方自治体での活用や国体サポート事業などでDigSportsを提供し、その有効性や社会貢献性を模索してきました。岩﨑は、「国のスポーツ振興対策をきっかけに、各自治体で健康や運動増進を意識付けようというニーズが増加していると感じています。そのニーズにうまく合致しているのが、運動能力を簡単に“可視化”するというDigSportsの仕組み。今後はこの技術を生かした汎用性のある提案がカギ」と分析しています。

個々の体格や体力の可視化を活用すれば、競技人口の少ないスポーツとのマッチング事業に貢献できます。また、昨今取りざたされている学校における働き方改革で、教職員の長時間労働の要因となっている“部活動”には新たな道を提案することも可能です。例えば、人の動きを可視化する技術を生かして遠隔で戦術指導を行ったり、地域の運動クラブを巻き込んで学校と地域をつなぐことも可能になります。実際にDigSportsの画像診断技術を応用してラグビーのトップ選手と一般の方の動きを比較したり、遠隔で動きを検出する技術を用いて離島と都心を繋ぎ、オンラインスポーツ授業を行ったりなど数々のスポーツDXを支援しています。

飯田は、「DigSportsはスポーツ×ITの各領域を束ねるきっかけ。スポーツDXのいわばスタートラインに過ぎない」と今後の可能性について示唆します。DigSportsを呼び水にして、ISIDではこれからもさまざまなニーズや社会課題にIT技術で挑み、夢のある活用を提案していきます。

プロジェクトに関するお問い合わせ

株式会社電通総研
Xイノベーション本部
岩﨑、飯田

2023年1月更新

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