SF漫画から紐解くALifeが実装された未来
- AI
ISIDのオープンイノベーションラボ(以下、イノラボ)とALIFE Lab.は、共同研究テーマを探索するために、メディア考古学の考え方を取り入れ、SF漫画からALife(人工生命)技術が実装されたありうる社会を構想するワークショップを行いました。参加者は、三宅陽一郎氏(ゲームAI開発者)、長谷川愛氏(アーティスト/デザイナー)、高橋洋介氏(キュレーター)、齋藤帆奈氏(アーティスト)、草野絵美氏(アーティスト/Satellite Young 主宰)ら。その取り組みについてご紹介します。
メディア考古学とは、過去のジオラマやパノラマ等、自然淘汰されたメディアを再考察することで、新たなメディアへの理解を深める試みです。技術や目的起点のアプローチではなく、過去と現在に存在するメディアを文化や文脈から比較・考察し、普遍的なパターンや文法などを抽出します。
テーマはSF漫画、『風の谷のナウシカ』や『火の鳥』から未来の社会を探求する
「SF漫画というメディアを単なる娯楽として読み物ではなく、未来を描く思考ツールとして使えないか?作家により考証された「ありうる」社会規範や社会通念は未来におこるシナリオを考えるヒントとなり、日本語というバリアのおかげでまだ発掘されていないアイデアがたくさん埋もれているのではないか」そんな考えからSF漫画を使い未来社会を探求することにしました。漫画の選定は、漫画を介したコミュニケーションを創出するユニットとして活動するマンガナイト代表の山内康裕氏にお願いをし、『風の谷のナウシカ』や『火の鳥』、『機械仕掛けの愛』といった新旧50 作のSF漫画を題材にしました。
ワークショップは5日間に渡り実施され、SF漫画に描かれたデバイス・サービスやライフスタイル・価値観・社会課題等を抽出し、それらをインスピレーションの源泉として「想定される未来」を思い描くことから始まります。そして、その未来で、ALife技術が実現するライフスタイルや、その世界に存在するであろう社会課題を解決するプロダクト・サービス等を洗い出していきます。
1日目:漫画エスノグラフィー
漫画エスノグラフィー
エスノグラフィーとは、文化人類学や社会学、心理学で用いられる研究手法の1つで、対象となるコミュニティや人々の特徴や行動様式を観察し詳細に記述することで理解する手法です。今回は、題材として選定した漫画の中から、さらに各参加者が取り扱いたい漫画を持ち寄り、特にインスパイアされたシーン、セリフ、設定を書き出していきます。書き出したキーワードは、「社会システム・規範」「タブー・価値観」「ライフスタイル」「未来課題」「デバイス・サービス」の5つにカテゴライズしながら整理しました。
インサイト・マッピング
次に3つのグループに分かれ、漫画エスノグラフィーで抽出したキーワードをマッピングしていきます。その際に「何を軸にするか」は各グループで設定しました。「機械(ロボット系)」と「非機械(バイオ系)」に分類したグループ、「現実に当てはまる要素」と「フィクショナルな要素」に分類したグループなど様々。サブカテゴリ—を設定し、さらに詳細のマッピングを行ったグループもありました。
世界観設定とシナリオ作り
漫画エスノグラフィーとインサイト・マッピングでまとめた要素をもとに「想定される未来」を考察。「死後のオプションが選べる世界」「ロボットに入れる」「記憶をデータ化し映画にする」などの未来を描くグループや、「生命が人工的にデザインされる状況が一般化した世界」をテーマとして設定し、その世界が実現した場合にどんな社会通念があり、どのような職業が生まれているのかという議論がなされているグループもありました。
2~4日目:テーマ設定+コンテキスト抽出
1日目のインサイド・マッピングの結果をもとに、SF漫画から抽出した仮想世界の要素を参加者全員で大きなテーマごとに分類・抽象化。さらにそれらのテーマを「高齢化社会(介護等)の課題」「インターネット上におけるフィルターバブル問題」「人間活動による環境破壊」といった現実社会における課題と予測される未来社会の課題とを照らし合わせ、関連するALife研究のテーマを洗い出しました。例えば、「自分にとって心地がよい情報のみ選び、真実を見れなくなってしまうフィルターバブル」という現在の課題に対し、SF漫画に登場する「人同士で生まれる劣等感を無くすために、あえて誰よりも仕事が出来ないロボット」を掛け合わせ、ALife技術を活用した「人の自律性をあげることが出来るAgencyがいる社会」を描くという流れ。このように、ALife技術が実装された社会を思い描くことで、今後のALife研究のテーマを探っていきました。
5日目:ALife研究テーマを探索する
ALife研究者の観点から考えた課題設定と2~4日目に導きだしたアイデアをもとに、参加者全員で共同研究テーマを作成。今回は「群集」を大テーマに設定し、「群集において人数を拡張したときの挙動を調べる」「自律性を感じられる最低条件を解明する」「群集における自律性の役割を探究する」などのテーマを導き出しました。
私たちが取り組んでいるALife研究は「生命の成り立ちや仕組みといった生命現象」をコンピューティングやロボット、化学反応を用いて作り出し、そこから生まれてくる新しい現象を分析します。進化生物学、人工知能、認知科学など様々な分野の専門家が関わる領域であり、多様性または持続可能性を目指す未来社会に対し、多角的な観点から貢献できる研究と考えています。
今回のワークショップでは、「未来はこうありえるのではないか」を推測し、SF漫画で描かれる未来と社会課題の接地面を見つけ、新しい未来を実現するための研究テーマを導き出しました。その中で私たちはALIFE
Lab.と共に「群衆の形成メカニズムの分析と介入法」という研究テーマを設定し、得られた研究成果を都市における課題の解決に活かしていきます。
ワークショップ協力
- ディレクター
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青木竜太氏
- デザインリサーチ
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亀井潤氏、丸山紗季氏、小川哲氏
- リサーチ協力
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草野絵美氏、齋藤帆奈氏、高橋洋介氏、長谷川愛氏、三宅陽一郎氏
- SF漫画キュレーション
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山内康裕氏
- 従業員
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連結17,044名(2021年3月31日現在)
- 研究テーマ監修
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池上高志氏、岡瑞起氏、升森敦士氏、小島大樹氏、土井樹氏、丸山典宏氏
2019年11月更新