コマツ
鉱山機械のビッグデータ解析
センサーシグナルから故障予兆を検知
採掘オペレーションの最大効率化を目指す
センサーシグナルから故障予兆を検知
採掘オペレーションの最大効率化を目指す
- ものづくり
- データ分析・活用
- IoT・ビッグデータ
機械の稼働データを縦横に生かしたユーザーサービスでブランドを築き、日本製造業のIoTトップランナーとも目されるコマツ。建機の売上では国内1位、世界市場でも米国キャタピラーを睨んで堂々2位のポジションを誇ります。今年同社は、中長期の成長が見込まれる鉱山機械の分野で、車両のセンサーが発するシグナルをもとに、突発的な異常を事前に検知する故障予知のプロジェクトを本格始動させました。これを現場で支えているのは、ISIDが米国プレディクトロニクス社と共同で提供する知的保全(Intelligent Maintenance)ソリューションです。
鉱山機械の健康診断、それでも起こる故障
ISIDの解析は、データの処理や検知の精度、具体性といった点で優れていましたが、一番印象的だったのは、その経験値です。
浅田 寿士氏
南米チリの高地に広がる銅鉱山。すり鉢式に削り取られたその山肌の道を、高さ7メートル、最大積載量327トンの巨大なダンプトラックが絶え間なく往き来しています。この露天掘り銅鉱山を含む多くの鉱山は、年中無休。溶鉱炉や化学プラントと同様、採掘は昼夜を問わず続けられ、万一機械が止まれば、そのダウンタイムはすなわち事業の損失に直結します。
「巨大なダンプトラックが道の真ん中で立ち往生していたら、それだけで邪魔になり、生産に影響します」と話すのはコマツでビジネスイノベーション推進部を率いる浅田寿士部長。データサイエンスの専任組織を統括し、機械から送られてくるセンサー情報を武器に、採掘オペレーションの最大効率化に取り組んでいます。「コマツでは鉱山建機のライフサイクルコスト低減を目的として、定期点検はもちろん、バイタルサイン(健康指標)から異常を検出するコンディション・モニタリングも提供しています」と浅田氏は説明します。「たとえばディーゼルエンジンにはブローバイガス圧(クランクケースの内圧)というのがあって、ピストンリングの磨耗が始まると、この数値が上がってきます。そこから異常や劣化を検知するわけです」
しかし、このやり方も万能ではない、と浅田氏は話します。
「バイタルサインは、壊れそうだということがわかっており、しかもセンサーのシグナルがクリアな部分にのみ有効です。鉱山機械というのは野外でいろいろな使われ方をするので、センサーにもノイズが多く、安定的なデータを取得するのは難しい。そのため、すべての故障をバイタルサインで見つけられるわけではありません。定期点検の回数を増やせば車両の健康は保てますが、頻繁にダンプトラックを止めて部品を交換すれば、それだけコストが上がり、生産性は下がる。お客様の顔も曇ります。ダウンタイムを減らす新しい処方箋が必要でした」
数値から異常を見抜く、高度な解析手法
No.1のサービスを誰よりも早くユーザに届け、お客様にとってなくてはならない存在となる。そのミッションを果たすうえで、ISIDは頼りになります。
浅田 寿士氏
2015年の秋、ダウンタイム削減への打開策を模索していた浅田氏は、自社での技術開発を続けながらも、活用できそうな技術を持つITベンダー数社に声をかけ、それぞれの技術の可能性を探るベンチマークを実施しました。
「コンディション・モニタリングによるダウンタイム改善は頭打ちになっていたので、難しいとは知りつつ、高度なデータ解析を要する故障予知の世界に足を踏み入れました」と浅田氏は打ち明けます。ベンチマークにあたっては、数値の出所や背景を伏せたうえで過去の故障事例データを提示し、各ベンダーに解析と異常検知を依頼しました。「機械の構造やメカニズムからではなく、純粋に数値だけから、統計学的にそして数学的に解を導き出せるものなのか確認したかったのです」と浅田氏はその意図を語ります。
このベンチマークにISIDも参加し、米国プレディクトロニクス社と実績を積み上げてきた知的保全の手法で解析を行いました。
これは、機械や装置に取り付けられたセンサーが発する工業系ビッグデータを、各種アルゴリズムを用いて独自のノウハウにより多面的かつ的確に分析し、稼働部分の隠れた異常や劣化を検知する解析技術です。
「ISIDの解析は、データの処理や検知の精度、具体性といった点で優れていましたが、一番印象的だったのは、その経験値です」と浅田氏は話します。「報告書には、うまくいかなかった過去の事例との比較なども挙げられており、技術が経験に裏打ちされていることがわかりました。技術の研究開発においては、失敗も実績のひとつです」
この評価を踏まえ2016年3月、コマツは、チリ鉱山でISIDとともに知的保全の実証プロジェクトを開始します。
「ベンチマークで伏せていた情報を開示し、さらに具体的に知的保全の有効性を検証しています」と浅田氏は話します。「これまでできていなかった故障予知の可能性が広がり、現場はとても前向きに捉えています」
IoT時代のダントツサービス、鍵は「データドリブン」
今回の一連の取り組みについて「具体的な成果を語るのは、まだ先の話」と前置きしながら、浅田氏は、ISIDの知的保全技術にもとづく故障予知がコマツのビジネスにもたらすメリットを示唆します。「建機や鉱山機械は、お客様に売ってそれで終わりというわけにはいきません。そこには必ず部品供給や修理、オペレーションの改善といったサービスがついてくる。競合も当然そこを狙ってきますので、差別化を図らなければなりません。コマツの強みは、なんといってもICTの世界でデータドリブンなサービスを展開できること。データを主軸にものを考えアクションを起こす力がある。今回の故障予知技術は、そうした道具立てのひとつになると考えています」
実際にコマツは、「KOMTRAX」「KOMTRAX Plus」「無人ダンプトラック運行システム」「スマートコンストラクション」など、データドリブンなユーザーサービスやソリューションを市場に多数送り出し、製造業IoT企業としてのブランドを築いています。
「IoTの時代に、こうしてISIDと一緒にスタートを切ることができたのはよかった」と浅田氏は感想を漏らします。「No.1のダントツサービスを誰よりも早くユーザに届け、コマツをお客様にとってなくてはならない存在にすることが、われわれのミッションです。それを果たすうえでISIDは頼りになる。実績に裏付けられたその技術と知恵が、スピード勝負の戦いのなかで底力を発揮するものと思います」
2016年12月更新
お問い合わせ
株式会社電通総研 戦略ビジネス推進本部
TEL:03-6713-6134 E-mail:g-ims@group.dentsusoken.com