人事労務デジタル化コラム:第2回
人事労務分野のデジタル・ガバメントとは 〜人事担当が押さえるべきポイント〜02 社会保険・雇用保険分野のデジタル化
2022年4月20日掲載
今回は社会保険・雇用保険分野の人事業務に欠かせない「マイナポータル」での電子申請について、10年以上前から存在する「e-Gov電子申請」との違いを踏まえてご紹介します。
沿革
社会保険・雇用保険分野のデジタル化は、「e-Gov電子申請」を主として10年以上前から進んでいました。ただし、電子申請を受け付けていたのは年金事務所(協会けんぽ)、ハローワークの2つのみ。多くの大企業が対象となる健康保険組合には、独自の電子申請環境を構築している組合を除いて、電子申請を行うことができない状況が長く続いていました。
社会保険・雇用保険分野の電子申請の流れ(「マイナポータル」利用開始前)
「e-Gov電子申請」で年金事務所(協会けんぽ)、ハローワークに電子申請を行うことは可能であったが、健康保険組合に電子申請を行うことはできなかった。
この状況に大きな変化が生じたのは、2020年4月からの電子申請義務化です。資本金が1億円を超える法人など、特定の法人が行う特定の手続きに関して、紙や電子媒体での申請ではなく、電子申請を行うことが義務化されたのです。従来未対応であった健康保険組合にも、電子申請を行う必要が生じることになりました。
これに対応すべく構築された仕組みが「マイナポータル」での電子申請です。「マイナポータル」での電子申請では、従来の「e-Gov電子申請」がカバーしていた年金事務所(協会けんぽ)、ハローワークの2つに加えて、健康保険組合にも対応することになりました。
社会保険・雇用保険分野の電子申請の流れ(「マイナポータル」利用開始後)
「マイナポータル」での電子申請では、年金事務所(協会けんぽ)、ハローワークに加え、健康保険組合にも電子申請を行うことが可能になった。
- ここで注意したい点が1つあります。「マイナポータル」での電子申請は、「e-Gov電子申請」と異なり「マイナポータル」としての申請画面を持たないという点があります。つまり、事業者(雇用主)が電子申請を行うためには、日本年金機構やハローワークといった各行政機関のシステムにデータを送信する手段(API)に対応した民間のソフトウェア(人事給与システムなど)を用意する必要があるということです。いくら「マイナポータル」が電子申請の受付を開始したからといって、会社で使用しているソフトウェアが未対応の場合は、「マイナポータル」で電子申請を行うことはできないのです。対応しているソフトウェアは、「マイナポータル」のWebサイトの「社会保険・税手続申請API サービス一覧」から確認することができます。前述したような背景から、健康保険組合向けの手続きに、優先的に対応しているソフトウェアが多いようです。
ここからは、「マイナポータル」での電子申請について詳しくご紹介します。
健康保険組合向け電子申請
「マイナポータル」で電子申請を行うためには、会社で使用しているソフトウェアが対応している必要があるということは、前述のとおりですが、健康保険組合の場合もう一点注意が必要です。それは、健康保険組合側のシステムで受付体制が整っている必要があるということです。
健康保険組合向け電子申請のために必要なこと
「マイナポータル」としての申請画面が存在しないため、送信側の事業者(雇用主)と受信側の健康保険組合、双方が「マイナポータル」に対応したシステムを構築する必要がある。
「マイナポータル」で電子申請を受け付けている手続きは以下のとおりです。しかし、健康保険組合側のシステムの受付体制が整っていなかったため、開始当初は1〜5までを中心に、一部手続きの電子申請のみに対応していたケースが多かった模様です。
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1.算定基礎届
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2.月額変更届
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3.賞与支払届
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4.資格取得届
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5.資格喪失届
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6.被扶養者(異動)届
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7.新規適用届
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8.任意適用申請書
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9.任意適用取消申請書
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10.一括適用承認申請書
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11.産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届
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12.産前産後休業終了時報酬月額変更届
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13.育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届
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14.育児休業等終了時報酬月額変更届
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15.介護保険適用除外等該当届
- なお組合ごとの最新の受付体制は、厚生労働省のWebサイトのページの「3.健康保険組合における電子申請環境の受付体制状況について」から確認可能です。
開始当初は健康保険組合側のシステム対応が追い付かず、1〜5まで対応していた組合は50%にも満たない状況でした。しかし、上記ページに掲載されている最新(令和3年3月30日時点)の受付体制によれば、約77%にまで上昇しています。事業者(雇用主)からも健康保険組合向けの事務処理がデジタル化されたことにより、大幅に業務効率化が図られたという声を耳にしています。今後受付体制がより整うことにより、業務効率化が加速すると考えます。
年金事務所(協会けんぽ)、ハローワーク向け電子申請
年金事務所(協会けんぽ)、ハローワーク向け電子申請については、前述のとおり従来から「e-Gov電子申請」が可能でした。そのため、「マイナポータル」の開始前から電子申請を行っていたという企業も多いのではないでしょうか。
年金事務所(協会けんぽ)、ハローワーク向け電子申請においては、「e-Gov電子申請」と「マイナポータル」での電子申請で異なる点はほぼありません。そのため、「e-Gov電子申請」を継続して利用しても問題ありません。ただし、健康保険組合向け電子申請を行いつつ、年金事務所(協会けんぽ)とハローワークへの電子申請も行う場合、「マイナポータル」に統一したほうがよいでしょう。なぜなら、同じ仕組みを利用した方が申請業務を標準化しやすくなるからです。操作ミスやデータの誤りなどが起こる可能性も減るとともに、申請結果も「マイナポータル」にだけアクセスして確認すればよいなど、業務フローがシンプルになります。
まとめ
今回は社会保険・雇用保険分野のデジタル化について、ご紹介しました。
「マイナポータル」を使用することで、年金事務所(協会けんぽ)、ハローワーク、健康保険組合すべてに電子申請を行うことが可能です。ぜひこの機会に、現在の業務フローを見直し、「マイナポータル」の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
次回は、年末調整などに関連する所得税や住民税など、税分野のデジタル化についてご紹介します。社会保険・雇用保険分野と似ている点もあれば、異なる点もありますので、それらをわかりやすく整理していきたいと思います。
執筆者略歴
小菅 優太
株式会社電通国際情報サービス
HCM事業部製品企画開発部 シニアエンジニア 兼 社会保険労務士
新卒で入社以来、大手企業向け統合HCMソリューション「POSITIVE」の開発に従事。
2019年に社会保険労務士試験に合格後、社会保険労務士として登録。給与管理システムの開発を主に担当し、法令面でのアドバイスやユーザー向けセミナーでの講演なども行う。
また社内の人財育成にも取り組み、近年ではコロナ禍における組織のあるべき姿について探求している。
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- ※ このコラムは執筆者の個人的見解であり、ISIDの公式見解を示すものではありません。
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